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ポナシのぼうけん~ルルガ森とねがいの花~②

2.
 ついに、まちわびた夜がやってきました。
大きなリュックサックをせおったマプが、音もさせずに木からおりてきました。ポナシです。
マプたちは、木の上にみんなで住んでいます。夜は空から持ってきた雲をハンモックのように木からつり下げてねむるのです。ポナシは、まわりでねむっているなかまたちをおこさないように気をつけながら、地めんにおり立ちました。ねむっているみんなをおこすのもわるい気がしたし、それにルルガ森へ行くと知られたら、とめられるにちがいありませんから。ポナシは、いちもくさんにルルガ森へとむかいました。

 ルルガ森へ足をふみ入れたポナシは、しばらくするとプルプルふるえだしました。昼間もくら~いルルガ森は、夜になるとますますぶきみに見えます。

「やっぱり、来なければよかったかも・・・」

思い立ったらすぐこうどう!のポナシですが、よく考えないでうごきだしてしまって、後になってから困ることがけっこうあるのです。今がまさにそうで、出かけるまえには気がついていなかったことが、つぎつぎ頭にうかんできます。

(・・・ねがいの花はルルガ森にあるっていうけど、いったいどこにあるんだろう?)

ガサガサ。

(それに青く光るっていうけど、どんな花なのか知らないし)

ザワザワ。

(そもそも、ただのうわさじゃないか・・・本当にねがいの花なんてあるのかな?)

まっくらな森のあちこちから聞こえてくるえたいの知れない音が、ポナシの不安な気持ちをどんどん強くしていきました。しかし、こうかい先に立たず。頭の中をグルグルさせながらあてもなく歩いていたので、帰り道がわからなくなっていたのです。頭の中のしんぱいごとは、ますます大きくふくらみます。

(ガルルって、一体どんなやつなんだろう?きゅうにそこのしげみからとび出して、かみついてきたりしないかな・・・)

こわい気もちがふくらんで、今にもはれつしそうなそのとき。
くらやみからとび出してきた大きなものに、ポナシはぶつかりました。思わず大声でさけびました。
「キャーッ!!」
「ギャーッ!!」
ぶつかられたなにかも大声をあげて、そのままポナシにかみついてきたのです!

 ポナシはおそるおそる目を開けました。
さっきのなにかはまだポナシの頭にかぶりついています。だけど、体はどこもやぶれてはいないし、何ともありません。
「あれ?ぜんぜんいたくないや」
ポナシがつぶやくと、頭の上の何かはビクリとして、おずおずとポナシからはなれました。
そのなにかはうすい青みがかった体で、大きな口と頭をしたヘビみたいでした。といっても、ヘビのように長いからだではなく、ほとんどが頭で、その横から小さな手がちょこんととび出していました。何かはその小さな手で顔をおおうと、しずかになき出しました。
「やっぱりキバのないガルルぞくなんて、りっぱな大人になれないよ」

 何が何やらわかりません。ポナシはしばらくポカンとしていましたが、ふと思い出して自分のリュックサックからとっておきのマンプキンパイを取り出しました。そして、
「えーっと・・・とりあえず食べない?おいしくて元気が出るよ」
と言って、ないている頭でっかちのヘビにわたしました。
「ぐすっ・・・ありがとう・・・」
ヘビもどきは、はなごえでおれいを言うと、べそをかきながらマンプキンパイを食べました。
マプランドの名さん品、食べるとおならがいっぱい出てよくとべる!とマプたちにひょうばんのマンプキンをたっぷりつかったあまーいマンプキンパイ。元気がないときに食べると、あまいしおならが出るしで、なんだかわらってしまうのです。
あんのじょう、パイの甘さにホッとしたヘビもどきは“ぼぶーんっ!”と大きなおならをして、その大きさにビックリしてとび上がりました。それを見て思わずふきだしたポナシも、わらったひょうしに“ぷぅ”と小さいおなら。今度は二人とも大わらい。

「元気が出たよ、ありがとう。ルルは『カルル』っていうんだ。きゅうにかみついてごめんね。くらいところできみにぶつかったからびっくりしちゃって」
ようやくおちついたカルルは、ポナシにあやまりました。
「マプは『ポナシ』ってよばれてる。だいじょうぶだよ、ケガはしなかったし。マプもまわりをよく見てなかったからさ。でもさっきは、ガルルにかまれたかと思ったよ」
「えっとね・・・ルルもガルルのなかまなの・・・こう見えても」
カルルははずかしそうに、きえそうなこえで言いました。
「えっ⁉ガルルって、出会ったらおそいかかってくるおそろしいかいぶつなんじゃ?」

カルルがほんとうにガルルだとすると、ポナシが聞いていたのとはずいぶんちがいます。かみついたあいてにあやまるかいぶつなんて、いないんじゃないかしら。
「かいぶつなんかじゃあないよ。今みたいにこわかったり、おどろいたひょうしにかみついてしまうことはあるけど・・・ふだんはみんなやさしいし、この森でしずかにくらしているよ」

たしかに、目の前のおどおどした目をしたカルルは、かいぶつのなかまにはとても見えません。

「そうなんだ・・・。だけど、マプのなかまがむかしかみつかれて、体のガスがぬけちゃったって・・・」
「えっ、あのガスのおばけって、もしかしてきみたちのなかまなの?」
「ガスのおばけ?・・・ああ!それって『プゥ』のことじゃない?あれは何もわるさをしないから、だいじょうぶ」

『プゥ』というのは、マプたちが出したおならが集まってできた生きもののことです。とくに何かをするわけでもなく、風にふかれてあちらこちらをただよっています。

「なーんだ・・・ルルたちはプゥのこと、おばけだと思ってたよ。同じにおいがしたから、まちがえてかみついちゃったのかな」

カルルがひょうしぬけしたように言うのを聞いて、ポナシはさっきから気になっていたことを口にしました。

「ガルルがこわいかいぶつじゃあないのはわかったよ。けどさ、やっぱりガルルにはキバがあるんだよね?」

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