「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」は有用なのか?
序文 - 筆者は結局オプション券を使わなかった
先日、青春18きっぷを手にした状態で北海道から本州へ移動する機会があった。函館から青森方面へJR在来線の普通列車のみで移動することはできないため、何か他の手段を用いて移動することになるが、この状況での選択肢の一つとして当然想定されるのが「青春18きっぷ北海道新幹線オプション券」を利用する方法である。
長ったらしいので以下「オプション券」と略すことにするが、簡単に言えば、青春18きっぷにこのオプション券を買い足せば、道南いさりび鉄道の五稜郭→木古内、北海道新幹線の木古内→奥津軽いまべつ(またはこの逆経路)を片道利用できますよ、というものだ。
一見使いでのありそうなこのオプション券だが、実際には微妙に制約が多くて効果的に使用するのはなかなか難しい。実際筆者もオプション券の使用を検討しながら、熟考の末結局はえきねっとで新函館北斗から新青森以遠への新幹線の切符を購入する選択を行った。
このnoteは、上記熟考した内容の備忘録とすると共に、今後青春18きっぷを利用して青森方面と函館方面の行き来をする者に対する判断材料の提供と旅程検討の効率化を提供せんとするものである。
なお、このnoteの内容は2024年8月現在の状況、時刻で考えたこと調べたことを基に執筆している。2024年度末の津軽線蟹田~三厩の旅客営業廃止が決定的となっていることから、遅くとも2025年春季以降にはオプション券の内容、あるいは存在そのものに大きな転機が訪れることが予想される。
参考:
NHK青森 NEWS WEB JR津軽線 今別町長が自動車交通への転換受け入れへ
産経新聞 JR津軽線の「復旧断念」 唯一廃線反対だった青森県今別町が表明し廃止議論加速か(2024/5/23)
1. オプション券とは何か
JRのホームページに記載があるが(JR北海道 青春18きっぷ北海道新幹線オプション券)オプション券について一応掻い摘んで説明しておく。
2016年の北海道新幹線新函館北斗開業により、海峡線を通過する定期旅客列車は全廃され、青春18きっぷのみで青森と函館との間を行き来することができなくなった。これに対する救済措置的に、追加料金を支払う(オプション券を購入する)ことで、条件付きで北海道新幹線の奥津軽いまべつ~木古内と道南いさりび鉄道線(以下適宜「いさ鉄」と略す)の木古内~五稜郭の片道利用を認めたのがこのオプション券である。
北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅には津軽線の津軽二股駅が近接しているため、青森(新青森)~奥津軽いまべつの移動に関してはオプション券の効果は特に無く、青春18きっぷで津軽線を利用することになる。
このオプション券は、有効な青春18きっぷを併用する場合に限り利用できる。有効な青春18きっぷというのは、オプション券の利用日と同一の日付印の捺された青春18きっぷのことである。従ってオプション券単独で使用することはできない。
利用条件についてはJRのWEBサイトの説明が必要十分であるのでそのまま引用する。
青春18きっぷを利用するような者としては、「道南いさりび鉄道線内では木古内及び五稜郭を除いて下車ができないこと」、「北海道新幹線と道南いさりび鉄道線の乗車日は同一日であることが必要であること」の二点が重要である。
いさ鉄の途中駅で下車して観光するというようなことはできない。木古内で下車はできるが日を跨ぐこと(宿泊)はできず、木古内始発の新幹線やいさ鉄を狙うこともできない。オプション券の目的からして当然とはいえ、奥津軽いまべつ~木古内~五稜郭の通過利用をするしかしょうがない。
オプション券の料金は2,490円である。
オプション券で利用可能な区間の正規料金は、北海道新幹線の奥津軽いまべつ~木古内は座席指定なしで3,200円、いさ鉄の木古内~五稜郭は980円で合計4,180円であるから、単純に安い。
オプション券は青春18きっぷ一回分(2,410円)の使用が前提であるから、それを考慮すればオプション券利用時の費用は4,900円であるとも言える。ただ、そうだとしても青春18きっぷで720円分以上を利用すればチャラになるから、これはほぼ考慮するに値しないだろう。津軽線の青森~津軽二股だって990円である。
2. 他の移動手段との比較
青森と函館との間を移動したいならば、他にも手段はある。北海道新幹線を素直に新青森~新函館北斗で乗車する方法と、フェリーが2社就航している。まずは表で簡単に料金や所要時間を比較してみる。
一旦オプション券を措けば、速さの新幹線、安さのフェリーといったところである。
フェリーについては、青森も函館も駅とフェリーターミナルとは距離がありバス連絡になるため、実際は乗船時間プラス2時間程度、乗船運賃プラス500~700円程度は必要になる。駅からフェリーターミナルまで歩けない距離ではない(徒歩40~50分)が、真夏も真冬も後悔必至なので素直にバスに乗った方がいい。筆者は真冬に後悔したことがある。
一方新幹線は、新青森と新函館北斗といずれも中心駅から外れてはいるが、接続する列車が必ず存在するので一時間余裕を見ておけば間違いない。旅程次第では、むしろ目的地に近い側の駅に降ろしてくれると解釈できる場合もあるだろう。
3. オプション券を利用できる乗り継ぎ
ここから、オプション券を使って実際何時の列車に乗れるか、乗り継ぎや所要時間はどうなのかを確認していく。結論だけ読みたい方は3-4節まで飛ばしていただきたい。
3-1. そもそも奥津軽いまべつと木古内の両駅に停まる新幹線列車が少ない
オプション券は「奥津軽いまべつ~木古内間に限り、北海道新幹線の普通車の立席(車内の空いている席)を片道1回利用でき」るが、まずそもそも奥津軽いまべつと木古内の両駅に停まる新幹線列車が少ない。
表2は、北海道新幹線の列車のうち、奥津軽いまべつと木古内の両駅に停車する列車のみを表示した時刻表である。
2024年3月改正で北海道新幹線の定期列車は一日13往復設定されているが、奥津軽いまべつまたは木古内を通過する列車があるため、この両駅に停車する列車は一日7往復のみとなる。なお、2024年夏季に設定されている臨時列車は全て両駅を通過するため、臨時列車を考慮する必要はない。
3-2. 木古内での北海道新幹線といさ鉄との乗り継ぎは必ずしもよくない
木古内で上記の北海道新幹線の列車に接続するいさ鉄の時刻を確認してみる。
下り(函館方面)、上り(青森方面)とも、始発と終着にあたる2往復は接続するいさ鉄の列車が無い。従って、オプション券を利用できる列車は事実上一日5往復に限られる。
上りのいさ鉄132Dから新幹線3048Bはやぶさ48号は乗り継ぎ時間が1分しかなく、試したわけではないが乗換は不可能だろう。はやぶさ48号に木古内から乗るためには、132Dの1時間24分前に木古内へ到着する130Dを利用することになる。
新幹線といさ鉄とは30分前後の短時間で接続するパターンもあるが、1時間半程度の長時間での接続となってしまうパターンも同程度にある。
長時間の接続の場合、一日24時間しかないうちの1時間半を空費するのはやや惜しい(18きっぱーの悲しい思考)が、食事や周辺散策ができると考えればこれも悪くないかもしれない。木古内の駅前には道の駅「みそぎの郷 きこない」があり、ここで食事をしたり地域の観光情報に触れたりすることができる。ただ、道の駅の営業時間は9時~18時(冬季は9時~17時)であり、朝晩に木古内は長い待ち時間を過ごす場所に困る感がある。
3-3. 奥津軽いまべつでの津軽線代行バス・わんタクへの乗り継ぎもそんなによくない
続いて、北海道新幹線の奥津軽いまべつから津軽線津軽二股への乗り継ぎを考える。津軽線の蟹田以北は2022年8月以降災害による運休が続いているため、列車ではなく代行バスに乗車することになる。また、津軽線代行バスと重複する区間を運行する乗合タクシー「わんタク定時便」「わんタクフリー便」も細かな注意点はあるが利用できる。
「わんタク定時便」は通常の路線バスの感覚に近く、定められた経路を定められた時刻に運行する。前日までに予約を行うことを推奨していて、予約なしでも空席があれば乗車できるが、車両の定員が多くないため定員を超える場合は予約者の利用が優先となる。
「わんタクフリー便」はデマンド型の乗合タクシーで、乗降地点とおおまかな乗車希望時刻を前日までに予約する。他の利用者の希望も踏まえて効率的な経路を運行するので、時刻は読みづらい。
定時便フリー便いずれも、津軽線代行として指定されている区間内であれば、JRの乗車券を所持する者はその乗車券のみで、有効な青春18きっぷを所持する者は300円の支払いで利用できる。利用に地元住民とか旅行者とかの制限は無く、電話予約の他WEBサイトからの予約も可能なので、この手の交通手段としてはかなり利用しやすい印象を受ける。
それでは、奥津軽いまべつ・津軽二股で北海道新幹線の列車に接続する代行バスとわんタク定時便、加えて蟹田で接続する津軽線列車の時刻までまとめて確認してみる。わんタクフリー便については後述することとして一旦措く。
表中、津軽線代行バスは「代行」、わんタク定時便は「わんタク」と略記した。
北海道新幹線に接続しない代行バス・わんタクが日中にも存在する。また、下り(函館方面)の津軽線代行バス5便は土休日運休となるため、青森16:42発の列車からはやぶさ31号への乗り継ぎは平日のみ可能となる。
奥津軽いまべつ・津軽二股での乗り継ぎが可能となるのは、下り(函館方面)は平日6パターン・土休日5パターン、上り(青森方面)は4パターンとなる。
代行バス・わんタクとも、北海道新幹線との接続はあまり念頭に置いていないように感じられる(これは代行バスだからという話ではなく、津軽線が災害運休になるより前からそうだった)。下りは比較的スムーズに乗り継ぎができることが多いが、上り(青森方面)は最短58分、最長1時間40分の待ち時間が発生する。
奥津軽いまべつ・津軽二股の駅前にも道の駅「いまべつ」があり、やはり食事をしたり地域の観光情報に触れたりすることができる。例によって道の駅の営業時間は9時~19時(冬季は9時~18時)、特に喫茶コーナーやレストランの閉店は16時であり、やはり時間帯によっては待ち時間を過ごす場所に困る。
むしろ半日程度時間を確保して竜飛岬や青函トンネル記念館に足を伸ばしても面白いが、これも公共交通で行き来しようとするとなかなか時間が合わずもどかしい。三厩から外ヶ浜町営バスも駆使して何とかならないか……ということも考えるのだが、本題から外れるのでこれ以上深入りはしない。
なお、わんタクフリー便を予約すれば、おおむね30分単位の時間指定で蟹田駅などへ運んでくれる上、運賃もわんタク定時便と変わらない。これを利用すれば、何も奥津軽いまべつ・津軽二股での待ちぼうけして定時便を俟つ必要はない……、というのは間違いではないのだが、青森~蟹田の津軽線列車は上記の表に記載した列車が全てである。従ってフリー便でも定時便でも蟹田まで(蟹田から)乗る列車は変わらず、時間を潰す場所が奥津軽いまべつになるか蟹田になるかという違いにしかならない。青森方面と蟹田とを結ぶバス路線も無いので、青森と函館とを行き来するという視点で言えば考慮する意味が無い。
3-4. 結局、オプション券を利用できる乗り継ぎはこれだけ
ここまでの内容を踏まえて、オプション券を利用して青森と函館との間を移動できる乗り継ぎパターンを抜き出してみる。
下り(函館方面)は平日5パターン・土休日4パターン、上り(青森方面)は3パターンのみとなった。
下りのうち、青森を朝に出る2パターンは乗り継ぎがスムーズで、4時間程で青森から函館へ到着できる。これならばフェリーよりも安くて速く、使いでがある。
一方で、これ以外の下り3パターンと上りの全パターンは、どこかで長い待ち時間が発生する。特に函館を午前中に出発するパターンは、どちらも木古内・奥津軽いまべつの両駅で長い待ち時間があり、所要時間は6時間超となる。
なお上りに関しては、当日中に青森駅への到達はできないものの、午後に函館を出発して奥津軽いまべつまでの到達はできる(青森駅へは行けないがオプション券の利用そのものはできる)パターンが2つある。奥津軽いまべつ駅の至近にリーズナブルに宿泊できる施設もある(いまべつ総合体育館)ので、これを利用して翌日青森方面へ出発する、または函館方面へ折り返すのも面白いかもしれない。
念のため述べておくが、はやぶさ48号で19時26分に奥津軽いまべつに到着した時点で蟹田方面の代行バス・わんタクは終了している。タクシーで蟹田へ脱出したとしても、蟹田発の津軽線列車も19時03分発346Mが最終である。
はやぶさ48号で奥津軽いまべつに到着した後、津軽線の利用は諦めて奥津軽いまべつから新青森までの乗車券・新幹線特定特急券を購入(計2,190円。オプション券と合わせると4,680円)して後続のはやて98号(奥津軽いまべつ21時29分発)に乗る方法は考慮に値するかもしれない。この場合函館16時24分発新青森21時47分着となり所要時間は5時間23分となる。新函館北斗から新青森まで北海道新幹線を乗り通す(7,190円)よりは安いものの、5時間半近い時間を要してコスパが悪い上、夜遅い奥津軽いまべつで2時間待つのもしんどいように思う。もう一つ蛇足を加えると、この乗り継ぎを行うくらいなら函館17時30分発青森21時10分着の津軽海峡フェリーという手もある(ただしこの時間は青森フェリーターミナルの迎えのバスが無いので、歩くかタクシー利用になる)。
また、下り方向の移動で奥津軽いまべつに宿泊し、始発の新函館北斗方面新幹線に乗車することも考えられる。だが、奥津軽いまべつ6時49分発のはやて91号に乗っても木古内から先のいさ鉄の列車が無く、結局はやて93号到着後の9時12分発125Dまで待つことになる。移動効率という点では旨味はない。
4. 結論 - 青森を朝に出るならオプション券は使える
筆者なりの結論として、「青森を朝に出るならオプション券は使える」という形で表現したい。
青森6時16分発函館10時12分着(所要3時間56分)か、青森8時14分発函館12時21分着(所要4時間07分)のパターンで移動するならお勧めだ。途中の待ち時間は長すぎも短すぎもせず、道の駅をゆっくり見たり、ちょっとせわしないが食事をとることもできるだろう。
それ以外の移動パターンは、長い待ち時間が苦にならない人や少しでも安く移動したい人、あえてこの経路で移動してみたい人以外には積極的には勧めづらい。さっさと通り抜けてしまいたいならJR北海道にきちんとお金を払って北海道新幹線を素直に乗り通した方が圧倒的に速いし、時間はかかっていいから安く移動したいというなら、港へのアクセスは若干面倒でもフェリーに乗った方が遥かに安楽である。
あとがき - 18きっぷじゃなくて、北海道&東日本パスを使いなよ
このnoteを読んでいる方には当然ご存知のことだろうが、青春18きっぷに似て非なる切符として「北海道&東日本パス」がある。青春18きっぷとの違いは、JRのWEBサイトの当該切符の説明欄に端的に表されている。
4,000円で特定特急券を購入すれば新青森~新函館北斗の新幹線に乗れますよ、というシンプルで絶大な効果がある。オプション券よりは確かに値が張るけれど、青春18きっぷで青函間の移動をしなければならないほとんどの人が求めているのもこれなのではないだろうか。
筆者は事情があって青春18きっぷを購入したためにオプション券を使うか使うまいか悩み、調べ、結局スケジュールの都合でオプション券は使わず素直に北海道新幹線に乗ってしまったのであるが、事情が無くば青春18きっぷではなく北海道&東日本パスを購入して4,000円で新幹線に乗るのが最もコスパが良い。
18きっぷじゃなくて、北海道&東日本パスを使いなよ。
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