転勤と私生活上の不利益に関する裁判例



本人病気

・会社が把握していない病気は考慮されない(④D)。但し病歴はできる限り伏せたいものであるから、転勤の面談や内示の時点で公表されたら考慮すべきという考え方はあり得る。
・一般的な病気であれば、転勤先で病院を探せばよいと評価される(③、④D、⑤)。
・メンタル不調の場合は、現在の病院に通うことが望ましいという評価があり得る。
・通勤距離が長いことを問題視している判例があるが(②、④F)、転居すればよいから、転居できない事情が必要と考えられる。
・休職等からの復職時の転勤命令は無効とされる可能性が高い(①、⑥)

①損害保険リサーチ事件(旭川地決H6.5.10●)
・旭川→東京
・うつ状態により1年3か月休職、復職時に東京への転勤命令を発令
・復職時に転勤を命ぜられた者は相当少ない、復職時に転勤を命じる場合は意見聴取をした上で意思に反して発令したことは一度もなかった、休職期間中支えた妻の仕事の関係で単身赴任となり健康上大きな不都合が生じる
・転勤命令は無効

ミクロ情報サービス事件(京都地決H12.4.18●)
・京都→大阪
・違法な自宅待機命令中にメニエール病に罹患、解除後は無遅刻無欠勤で飛び込み営業等をしていたが、メニエール病の発作を発作を防ぐために車の運転を控え、歓送迎会に参加しないなどの体調管理をしていた
・営業成績が悪く、協調性もないとの理由で、大阪支社への転勤と主任からの降職を内示
・メニエール病により仕事に支障が生じるかもしれないことは職場において周知されていた、大阪支社に通勤するためには40分以上を要するがメニエール病のために耐えられるか疑問
・転勤命令は無効

③NTT東日本事件(東京高判H20.3.26、東京地判H19.3.29)
原告F(高裁○、地裁○)
・北海道→東京
・業績悪化による構造改革として業務を外注、担当業務がなくなった従業員について首都圏を中心に転勤を命じる
・高血圧については健康診断上指導区分とされるものではなく、中高年者によく見られる疾病であって通院先も全国に存在する、転勤後に高血圧が悪化したと認められない
・転勤命令は有効

④NTT西日本事件(大阪高判H21.1.15、大阪地判H19.3.28)
原告D(高裁○、地裁○)
・大分→大阪
・HTLV-1(成人T細胞白血病ウイルスⅠ型)のキャリアについて以前に説明をしたことがない、健康上重大であることは訴訟提起時に把握したものであって会社も考慮することができなかった、睡眠時無呼吸症候群・シックハウス症候群も会社に説明したことがない
・転勤命令は有効。もっとも病気及び転勤先が遠方であることから、状況を踏まえた適切な配慮が必要
原告F(高裁●、地裁○)
・大阪→名古屋
・糖尿病罹患により通院加療中で食事療法で、運動療法を行わなければならなかった
・転勤により、食事を正しい間隔で摂取することや、運動療法に充てる時間に制約を受け、通院も困難となった
・転勤命令は無効

⑤NTT東日本事件(札幌高判H21.3.26、札幌地判H18.9.29)
原告A(高裁○、地裁●)
・札幌→苫小牧
・喘息の持病があり、月に1回診療
・転勤により持病の喘息に支障が生じる恐れがあったとは認められない
・転勤命令は有効(※地裁は業務上の必要性がないとして不利益性は判断せず)

⑥ピジョン事件(東京地判H27.7.15●)
・東京→茨城
・反応性抑うつ状態等により1か月半欠勤、時短で復職後2週間で急性腎盂腎炎により約1週間入院、主たる原因が過労・仕事のストレス
・復帰直後に転勤の内示、本人・主治医の意見聴取をしないままに発令
・その後病状が悪化し、欠勤→休職→退職に至る
・通勤に5時間程度がかかるため朝6時に家を出なければならない、軽微な業務だとしても精神疾患は環境の変化それ自体が症状を悪化させる可能性がある、専門医や本人の意見を聞いていない
・転勤命令は無効

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