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あなたの会社はあなたを大事にしているか?

こんにちは、アカウントエンゲージメントチームの佐野です。
2日連続で失礼いたします。

昨日は、『顧客愛というパーパス』という書籍の紹介をいたしましたが、同書では顧客愛だけでなく従業員への愛にも触れられていました。
そのため、本日は従業員と会社の関係について角度を変えてお話しようと思います。

人的資本開示とは?

「人的資本開示」というワードをお聞きになったことはあるでしょうか。

既に自社で取り組みを行っている、名前だけは知っている、全く知らない、様々な反応があるかと思いますが、特に来年2023年以降で私たちにも関係深いワードになってくると思います。

人的資本とは、人が持つ能力を「資本」として捉えるもので、この人的資本の価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営のことを、人的資本経営と呼びます。

企業の持つ「人的資本」を外部に公表していく活動が「人的資本開示」ですが、注目されている背景として、2010年半ば以降、日本では企業の労働生産性の低さが問題となり、再成長するためには働き方改革などの政策実行が急がれていました。
一方で世界の金融界では、短期志向や株主偏重の資本主義のあり方への疑念や環境問題の深刻化も相まって、ESG*重視の投資が積極化していくにつれ、投資家は企業の人的資本を重要視し、各国の政府や株式市場運営主体に人的資本の開示を積極的に行うように要請をしていました。

そのような中、日本でも人的資本の開示と強化に向けて準備が進められ、2022年1月第208回国会での岸田首相の姿勢方針演説では「付加価値の源泉は、人にある」とし、人的資本や非財務情報の開示ルールを定めていくと明言されました。
政府が掲げている経済政策である「新しい資本主義」の中核を担うのが、人的資本であり、これからの人的資本経営であるということです。

これまでの経営では、ヒトという経営資源は単年度の損益計算書(PL)において人件費として管理されていました。いわゆる「コスト」であり、業績が悪くなればカットされる対象となっていました。
しかし、「人的資本」という概念では、従業員への報酬や教育研修関連費用はPL上の管理に加えて、バランスシート(B/S)の上で「資本」として取り扱われ、1年単位ではなく3~5年ほどの時間をかけながら、いかにして価値創造につながる資産へと変換できるかが重要視されるようになります。
そのため、価値創造できる人材や組織で可視化されていないノウハウや組織文化を、極力データ化して価値評価を行い、資産として変換できるようにしていかなければなりません。
まずは、組織全体の価値観を再確認し、数値と向き合って仮説検証を繰り返し、行動スピードを早める必要が高まっています。この取り組みをするにあたり、欠かせないものが、データとHRテクノロジーですが、昨今のテクノロジーの進化によって、数値化がしやすくなっています。
ただ、単純に数値化・デジタル化するだけではなく、数値に基づいた科学的なアプローチで人事・組織領域の意思決定を行う仕組みを企業は整えなければなりません。

そこで、国際標準化機構(ISO)は2018年に10年近い時間をかけて世界で初めて人的資本マネジメントの開示に関する統一規格として、「ISO30414」というガイドラインをリリースしました。

ISO30414とは?

ISO30414とは、人的資本の情報開示に関する国際的なガイドラインです。
2018年12月、スイスのジュネーブを拠点とする国際標準化機構(ISO)によって発表されました。国際標準化機構(ISO)では、「人的資本の情報開示」を、企業の人材戦略を定性的かつ定量的に社内外に向けて明らかにすることと定義しています。

ISO30414が定められた目的として、1つは「組織や投資家が人的資本の状況を定性的かつ定量的に把握すること」が挙げられます。人的資本が組織の成長にどれくらい貢献しているのかを明らかにするのです。

もう1つの目的は「企業経営の持続可能性をサポートすること」です。人的資本に関する情報を定量化することで、どのような人材戦略が、組織にどのように影響を及ぼしたのかを数値化することで、企業の長期的な発展に繋げます。

ISO30414には、人材マネジメントの11領域について、データを用いてレポーティングするための58のメトリック(測定基準)が示されています。しかし、すべての項目を開示する義務はなく、どの項目について開示するかは基本的に企業や組織に委ねられています。

ちなみに、11領域は下記です。

※引用:ISO 30414:2018 Human resource management -- Guidelines for internal and external human capital reporting

企業は何をすればいいのか?

人的資本開示について、企業は形式的に開示するのではなく、自社のパーパスや経営戦略に基づいて、開示する指標を取捨選択して体系化し、人事組織領域における定量的なPDCAサイクルを回して、持続的な成長につなげていくことが重要です。

なぜなら、人的資本開示は一過性のものではなく、企業価値向上を望める取り組みであるからです。その理由として、企業の重要なステークホルダーである、投資家、労働市場、従業員に対する効果を考えてみようと思います。

まず、投資家ですが、投資家にとって人的資本の情報は企業から自発的に開示されない限りはブラックボックスとなってしまう情報です。ただESG投資が積極的に行われる今日において、非財務情報であっても積極的に情報開示をしている企業のほうが、投資家の関心を惹きつけて投資対象に選ばれ、結果として企業価値向上につなげていけると言えます。逆に言うと、開示に消極的な企業は、そもそも投資先検討の土俵にすら上がれない状態になっていきます。

また、労働市場においても、自社の優位性をアピールする機会になります。様々な働き方が生まれ許容される現状、働き手は自分のキャリア人生を選択する上で、自身のスキルを活かして価値貢献できる働き場所、キャリア成長のための投資を行ってもらえる場所、お互いの価値観を重視してくれる場所かどうかで、働く企業を選択する傾向にあります。労働市場から、自社に貢献してくれる優秀な人材を採用することで、持続的な成長に向けて企業価値を上げることができます。

そして、今共に働いている従業員に対しても、自社の向かう方向性を示すことができます。人的資本について、どのような価値観で人材を育み、投資を行い、どのような基準で評価し、どのように報いていくかの情報発信が人的資本開示を通じて行うことができるのです。
会社がどれだけ従業員のことを考えているか、どれだけ大事にしようとしているかを対外的に示す取り組みですから、対面での伝達以上に重みのある情報になります。企業と従業員の新しい関係性、従業員エンゲージメント向上が求められている中、重要なコミュニケーションになると考えられています。企業の成長と従業員の成長の総和によって企業価値向上を目指す取り組みとなると言えるでしょう。

人的資本開示が面倒な手続きだと位置づけて形骸化した取り組みにするか、現状から更により良くなるための機会と位置づけて積極的な取り組みにするかは、各企業姿勢にかかっています。
まずは現状の棚卸から始め、対外的に認められたプロセスを踏んでいるか明らかにする場合は、ISO30414認証取得を検討するのも一つの方法だと考えられます。

自分にどう関係するのか?

さて、あなたの会社はあなたをどれだけ大事にしていますか?あなたは、会社から大事にされているとどのくらい感じられているでしょうか。

人的資本開示では、会社があなたとどのように向き合っているかが明文化されます。自社の開示や開示への取り組み検討などがあった際は、自社にとって人材はどのような意味をもっているかを、ぜひ考えてみてください。

会社があなたを大事にする理由、あなたが会社を大事にする理由、双方の期待と評価が一致していれば、非常に良い関係性が築けているのだと思います。

一方で、会社ばかりがあなたを大事にしている、もしくはあなたばかりが会社を大事にしている状態ですと、偏った関係性だと言えると思います。どちらかに無理が発生しやすい状態になり、このような状態が長く続くと先が見えてきてしまいます。

人的資本への考え方に不満はなく、あなたの目的と会社の目的が合致しているのならば、あなたは会社と良い関係性を築いていけるのではないでしょうか。

企業の従業員愛は、人的資本開示という形でも表されるようになるかと考えています。今後の各社の取り組みに注目していきたいと思います。

*ESG(イーエスジー)とは「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治(Governance)」の3つの単語の頭文字を取った略語で、企業が持続的な成長を目指すためには、これら3つの観点が重要であるという考え方。


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