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この国のルールとは?『日本社会のしくみ~日本を支配する社会の慣習』を読む①

社会学者、小熊英二による「社会のしくみ」を解くことで、今の日本の特徴や問題点を浮き彫りにした本です。

作者は今の日本社会の問題点をこのように述べています。

たとえば、女性や外国人に対する閉鎖性、「地方」「非正規雇用」の格差、高度人材獲得の困難、長時間労働のわりに生産性が低い(先進国で人口比最下位)、ワークライフバランスの悪さなどなど…

こういったことについて「改革しよう」という掛け声だけは威勢がいいが、実際の変革はこの数十年まったくみられていない。

なぜ、このような「停滞ニッポン」になっているのでしょうか。そのためには日本社会の「しくみ」を知ることからはじめよう、というこの本を読んでいきます。

1.日本社会の三つの生き方

よくわたしたちは「ふつうの暮らし」と表現しますが、それはいったいどんな暮らしなのでしょうか。作者は日本人の生き方には3種類あるといいます。

①「大企業型」→大学卒業後「正社員・終身雇用」で働くひと(とその妻と子)

②「地元型」→中卒、高卒で地元から出ない働き方、農業、漁業や自営業が主。

③「残余型」→①と②にあてはまらない残り。大都市の非正規労働者と中小企業の正社員が典型例。新しい存在です。

①は高収入だが、地縁が薄い。労働時間も長く、核家族のため主に妻が育児などで仕事を辞めることも。住宅ローンなど支出が多く、定年後は不安定。また、政治に対して意識が希薄。

②は収入は少ないが、地縁があり、家族(両親)が近くにいることが多い。人間関係が濃厚で、商工会農協が関係すれば政治も身近。地元出身、もしくは選挙区の政治家との付き合いは欠かせないため。地域の過疎化、高齢化、職の少なさが問題。

③には年金も社会保障も、まるでいいところがない、といっていい人々です。給与は少なく、地域のつながりもなく、受け取ることのできる年金額も少ない。地縁がないので政治意識も希薄。

①と②と③のひとびとはこれだけ生き方が違うので、抱えている問題点も違います。「ふつうの暮らし」は住む場所、雇用形態など、生き方でまるで変ってくるのです。

2、日本の働き方、世界の働き方

ここでは欧米(米英仏独)の働き方と日本のそれを比較しました。

①日本では「大企業⇔中小企業」に対し、欧米は「ブルーカラー⇔ホワイトカラー」で分けされる。

日本では「どの会社」で働いているかという区分が重要で、対し「どの職務か」という区分を重要視するのが欧米です。

欧米は基本的にⒶ目標を立てて命令するⒷ命じられたことをするホワイトカラーⒸ命じられた仕事をするブルーカラーが存在すしています。欧米の場合、働き方の内容もどの層に属するかで決まっているのが普通です。

日本では「どの会社」に入るかがとても重要になっているのは「新卒一括採用」と会社内での「社員の平等」があるからです。平等というのは多くの日本企業では一つの社内での「タテの移動」、つまり昇進していくシステムです。(欧米ではⒷの雇用で入社したら、そのままずずっとⒷ。)

これはパートタイムでもこの構造は同じで、EUでは雇用形態を理由とした給与格差を認めていません。(例えば経理職で入社したら、大企業の正社員も、中小企業の正社員も、パートタイム社員も同じくらいの給与)日本は同じ仕事をしていても、勤める会社の規模、地域、雇用形態で賃金が違います。欧米でも日本でも社会格差はありますが、格差のタイプがまったく違うのです。

3.社会のしくみは教育にも現れる

職種による給与の違いは、大学院進学や博士号の取得数に変化をもたらしています。

欧米では最初から幹部候補生として、有名大学で博士号などを取った人が採用されます。こうした違いは教育のありかたにも反映します。

なぜなら、職務ごとに労働市場があり、職務ごとに募集がかかるからです。そうすると、学位や実務経験のない若年層の就職に門戸がなかなか開かれないので、彼らは資格をとったり、学位をとったりします。大学も修士や博士号を取ればいかに年収があがるかをアピールして生徒を集めています。よって、いったん社会に出て就労したものが大学や大学院などで学びなおすため、学生の平均年齢が上がっています。すると、学校の勉強にも熱心にならざるを得ないし、学位が取れるめどが立ってから就職活動(学位と職業が密接に結びついているため)をはじめます。高所得が得られるためには 専門の学位が必要なのです。

日本の企業や官公庁は職務に即した専門的学位は求めていません。大学で何を勉強したかもさほど問題にしていません。日本企業が重視するのは、どんな職務についたとしても適応できる潜在能力です。その能力は偏差値の高い大学の入学試験に合格したことではかられます。

偏差値は1070年代くらいから重視され始めました。「大学卒業」者が増えたため、差別化を図らなければならなかったからです。しかし、就職に有利ではないため、大学院のランキングはありません。



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