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中秋の名月と月の名を持つ銘香

2021年9月21日は中秋の名月です。
中秋の名月とは、太陰太陽暦の8月15日の夜に見える月のことをいいます。太陰太陽暦という暦は月の満ち欠けと太陽の動きを基に作られた暦です。この暦では毎月一日は必ず新月になります。ですから15日はほぼ満月。旧暦の秋は7月8月9月ですから、中秋は秋の真ん中の月の満月の日、ということになります。

1.月を愛でるはじまり


中秋の名月を愛でるという習慣は平安時代に遣唐使から伝えられ、「望月」という月を見る催しとして平安貴族のあいだに浸透しました。「望月」が浸透した理由はなんといっても白居易です。
中国の詩人の中でも白居易を日本人はこぞってもてはやしました。白氏(白居易)の詩は誰もが暗記し、源氏物語や枕草子にも強い影響が見られます。中秋の名月の詩を白居易はいくつも書いていますが、特に有名なものはこちらです。
「八月十五日夜、禁中に独り直し、月に対して元九を憶う」という詞書がされています。元九さんは白居易の親友なのですが、今は左遷されて長安から遠い土地にいます。
「三五夜中新月の色 二千里外故人の心」で始まる詩で、和漢朗詠集にも掲載されています。
意味は同じ月を二千里離れた君はみているだろうか。という抒情的な詩で、この詩に感じ入った日本の多くの貴族が八月十五日の夜は遠くにいる友人を想い、また自分の人生の来し方行く末を想う日となって定着していきました。のちのちそれは農業行事と結びついて現在のお月見となります。

2.月と日本人の原風景

日本で中秋の名月を描いた大変有名な場面に竹取物語があります。「今はむかし、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹を取り、よろづのことにつかひけり」で始まる竹取物語は、「物語のいできはじめの祖」と呼ばれています。現在は子ども向けのお話として流通していますが、本来は大人向けの物語でした。翁が竹の中から三寸ばかりの子をみつけ、大切に育てます。3カ月ほどで長じ、多くの求婚者が訪れました。求婚者の中で特に熱心だった5人の皇子や大臣たちはかぐや姫から難題を振られては落伍していきます。最後は天皇からも求愛を受けましたが、月からの迎えがあって月に帰る、というお話です。
中秋の名月が出てくるのは、かぐや姫が月へ帰る場面です。このように描かれています。
家の周りは昼くらいの明るさで輝いている。ふだんの月の明るさを10倍するくらい明るくて、人の毛穴までみえるほどだ。大空より、人、雲が下りてきて、地面から五尺ばかりのところに留まった。
当時の人々は人間世界と天上の世界にははっきりした区分けが存在する、と考えていました。月の満ち欠けは何度も生まれ変わる不老不死をあらわす存在でもあり、信仰の対象でもありました。
人々は月を仰ぎ見て賛美します。けれどもそれは決して手に入れることができない美しさ。かぐや姫はこの世の人々の心を奪いまどわせたあげく、「おのが身はこの国の人にあらず」「今はとて天の羽衣着る折りぞ」と詠み月へ去っていくのです。この冷たさこそが、竹取物語の本質です。
竹取物語をテーマにした組香もありますが、香木の名前、銘に月の名前を付けられたものも多くあります。

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