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cinema diary 『パリタクシー』 PARIS TAXI

「この時間をつぶしたい」とロケーションとタイムテーブルの相性だけで選んだ。
『パリタクシー』ってベタなタイトル。マドレーヌ役のLine Renaudがやたら綺麗、90歳を超えた国民的歌手?女優の認識だったけど歌っていたのね。本当に美しい。『パリ、18区、夜。』でも目にしていたけど、今が最も美しい気がする。

自宅から施設までの移動に呼び出されたタクシー。ドライヴァーと乗客のたわいのないおしゃべりを引き延ばすかのように寄り道を重ねる。口調はおしゃべりだが中身は告解であり、寄り道先は彼女の壮絶な人生のロケ地を辿っている。初めて会う
ワタクシと同世代くらいのタクシードライヴァーのシャルル(Dany Boon)はワタクシと同じくらい不器用で空回りの人生に辟易していて、最初は変わったお客の話に付き合う程度だったが、いつしか彼女のおそらく人生最後のリクエストに寄り添うことに使命を憶える。
最後は映画らしい優しいギフトで終わり、まあ良かったね、というところだが、筆舌では表しきれないことってあるよな、と車窓越しにみるパリのあちこちは、スクリーンに身を沈めて観るから一層雄弁だ。
マドレーヌがこれまでの出来事を語る時、青い瞳はまさしく青空、当時の情景はそこに映し出されているようだった。その演技?に収まらない演技に惹き込まれ、まだ元気だった時に嘘でもいいから思い出話をたくさん聞き出せば良かった、と認知症になって久しい母を思い出した。ワタクシはシャルルのように話しやすく、気持ちよく聞いてあげられただろうか。正直にいうと母への思慕は複雑である。でも聞いておくべきだった。
仕事や関わった人々のせいで屈折したバイアスも相まってパリに対して特段憧れを持っていない。でも、激動という言葉が安っぽくなるくらい厳しく、夢という言葉が陳腐になる刺激に溢れたマドレーヌが歩んだパリの街並みへは、シャルルのドライヴのおかげだろうな、美しく、ちょっと行ってみたくなる。
この残りをどうやって生きて、どうやって死ぬべきか、具体的に考えなくてはいけないのだ。


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