長い旅が始まった日
あの日、中学生の私は初めてCDショップに足を踏み入れていた。そこは田舎で唯一のCDショップだったが正直売り上げは芳しくないのか文房具と本も取り扱う何でも屋みたいな店だった。
私の目的はただ一つ、マイケルジャクソンのベストアルバムを何でもいいから手に入れて帰ることだった。遡ること3週間前、世界中にマイケルが亡くなったという衝撃的なニュースが世界中を駆け巡って沢山の人が悲しむ様子と共に流れるマイケルのダンスと歌に私は脳天を貫かれる衝撃を受けた。
それからこの日まで私が何をしていたかというと、ニュースなどから聞き取ったマイケルの曲のフレーズをひたすらブツブツと繰り返し呟き忘れないようにすることだった。ずっとこうしていても埒が明かないし、彼の曲を聴きたいという欲が高まっていたため、お小遣いを全て貯金箱から出して握りしめてCDショップに突撃したのだった。
「どれがいいのかな。」
いちおう追悼特設コーナーに行ったけど、当時の私はアルバムとシングルの違いも分からないレベルで音楽の知識が無かった。そんな時真っ赤なジャケットのCDが目に入った。これにしようかな。私は迷わず「Michael Jackson KING OF POP Japan edition」を手に取りレジへ向かった。その隣の棚にリアーナの「Rated R(R指定)」が置かれていて少し怖かったのを覚えている。
「Michael Jackson KING OF POP Japan edition」は2008年にマイケルの生誕50年を記念して世界各国で行った人気投票を元に制作されたベストアルバムだ。それぞれの国ごとに投票結果も異なるため私が手にした日本盤は日本人のファンが愛してやまない曲の数々だったということだ。マイケルを愛し続ける沢山の人が選んでくれた曲が10代の私の手元に届き、それを毎日毎日聞いてどっぷりとマイケルジャクソンに頭からつま先まで浸る時間は至福以外の何物でもなかった。そして私は音楽の世界をもっともっと探検したいという思いが芽生えて行った。
その後も大きなCDショップへ行ってマイケルのCDをたくさん買ったし、マイケルを通して他のミュージシャンを知るともっと色々な音楽を聴いてみたくなるから、沢山の歌手やバンドを覚えたし、いつしか唇からは誰かの曲のフレーズが漏れてくるほどの音楽好きに育って行った。CDショップはいつだって私の居場所だった。
いまも実家のCDラックにはケースに傷がつきヨレヨレになったブックレットと共にしまってある「Michael Jackson KING OF POP Japan edition」がある。そしてその右隣にはずらりと沢山のCDが並んでいて、いまも増え続けている。これまで聴いた曲は今も私の血肉となり常に思い出と日々を紐づけてくれているし、これからもきっと変わらない。
あの日あのCDを手に取ったことで、マイケルが亡くなった後も彼の音楽を聴いて受け継いでいくことと、永久に音楽の世界を旅して歩くことを運命づけられたのかもしれない。
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