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はじめてココアを飲んだ日のこと

はじめて母にココアを淹れてもらったときのことはよく覚えている。

「ココア、作ろうか」と母が言い、ココアの粉が入ったこげ茶色の小箱から、スプーンで1さじ、2さじ、マグカップに入れる。コトコト小鍋であたためた牛乳を注いでできあがり。そのころ住んでいた家のキッチンには、いつも赤いラジオがあった。

あたたかいマグカップを両手ですっぽり包み、ふーぅふーぅしながら飲む時間は特別のように思えた。

大人になって、自分自身のためにココアを作ることはなくなっていた。忙しい毎日にぴったりなのは、どうしたってコーヒー。コーヒーメーカーに入るだけの水とそれに対応する粉を投入し、スイッチオン。勉強や仕事のお供としての飲み物であるコーヒーを取り入れる日々だった。

あるとき、姪っ子が遊びに来た。おしゃべりの中で、長女が姪っ子に「●●ちゃん、好きな飲み物はな~に?」と聞くと、姪っ子は「ココア!」と答えた。わが娘たちは目をぱちくり。ココアを飲んだことがなかったからだ。

「ママ、私もココア飲んでみたい」                         「私も!」                       

そして数日後。私は、小鍋と牛乳とココアの小箱を用意してキッチンに立つ。ココアの粉をスプーンで1さじ、2さじ、マグカップに入れ、コトコト小鍋であたためた牛乳をそそぎ、できあがり。

娘たちは、おそるおそる手をマグカップに伸ばし、やはり両手ですっぽりマグカップを包み、ふーぅふーぅと言いながら、ちびちび口に含む。

ちょっぴり背中を丸めて、小さな手でマグカップを包み込む姿が、この上なく愛らしい生き物にみえる。母も私をこのように見ていたのだろうか。

「おいしいね」                                  「わたし、ココア好き!」

娘たちは互いに顔を見合わせて笑う。

娘たちよ。母は君たちの「はじめてのココアの顔」、ちゃんと記憶にきざんだからね。


この記事は、下記の企画に参加しています。たくさんの「ほっこりする話」を知ることができる素敵な企画だと思います!dekoさんの記事で知ることができました。ありがとうございます。dekoさんのお話、ほっこりです^^




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