アナタの彼氏は私の元カレ
「それってアリなの?」
いいのかな?
それが最初に思ったこと。
私の目の前に座っている男は、美味しそうにパスタを頬張っている。その姿を見るのは久しぶりだったけど、あれから何も変わっていない。
あいかわらずよく食べるし、きっとこの後に甘いものをオーダーするに違いない。
「で、誰かを紹介しろって?」
「うん、誰でもいいってわけじゃないけど。一番俺のこと知ってるだろ?」
そんな会話をしてから、半年が過ぎた。
そして今、なぜか私の前にその男がまた座っている。
あの時と同じように、そんなに食べるんかいっ!ってくらいのオーダーをして満足そうにしているその姿。
でも半年前とちょっと違うのは、男の横にかわいい女の子がいるってこと。
「いや、本当にありがとうな。お礼も言いたかったし、一回くらいは3人で食事でもって思ってたんだよ」
「まさかね、そこまでいい関係になるなんてちょっと意外だった」
「だろ?」
私と彼との関係は、ずいぶん前に終わっていたし、私には新しい恋人もできた。だから、誰かを紹介して欲しいって言う元カレの頼みも、すんなりと引き受けてあげた。
いいのかな?
最初にそう思ったのは、元カレのために何かしてあげるなんていいのかな?ってこと。でも、ちょうど彼氏を欲しがっている知り合いがいたから軽い気持ちで連絡を取ってあげた。
つまり私は橋渡し役。
それ以上でもそれ以下でもなく、連絡先を教えてあげるから、あとはご自由にどうぞって感じだった。
そんなことがあってから半年。元カレからのラインで食事に誘われた。
二人をつないであげる前から、私はわかっていた。きっと紹介する女の子のことを元カレは気に入るだろうって。だって、元カレが好きなタイプの女の子を紹介したつもりだったから。
だけど、二人がうまくいく保証なんてなかったし、紹介した子が元カレのことを気に入るかどうかもわからなかった。
まあ、私にとってはそれくらいの出来事だったってこと。
「やっぱりね、そうだと思った」
三人の食事は楽しかった。でもひとつだけ、元カレの彼女が知らないことがある。それは私が彼の元恋人だったってこと。
そんなこと言う必要もなかったし、完全に友達になってしまった人だから特別な想いなんてのもない。
いたって普通の知り合いを友達に紹介しただけ。
そんな関係の3人が一緒に食事するなんて、少し不思議だった。でもぜんぜん悪い気はしない。だって私がつなげた二人が幸せそうにしているんだから。
そんなことをふと考えていると、元カレがトイレに立った。
「本当に感謝してるんだ。彼を紹介してくれたこと」
「それならよかったよ。紹介した私も嬉しいよ」
「ホントに優しいんだよね、彼」
そう話す彼女の小指に光るピンキーリング。
よく見ると、胸元で揺れている華奢なネックスレスと似たようなデザイン。
きっと、そのネックスレを彼女にプレゼントしたのは元カレ。
そしてピンキーリングを左手の小指にしているのも、元カレの言葉があったからでしょ?
左手の小指にするピンキーリングには意味がある。
幸せは右の小指から入って左の小指に抜けていく。だから、入ってきた幸せを逃がさないようにって言われなかった?
きっと、私の推測は合っている。
だって、元カレからそんな話を聞いたことがあるから。
でも私はピンキーリングを左手の小指につけたことはない。そんなロマンチックな女性じゃなかったからかな。
「こんなに想われたら女は幸せに決まってるじゃんって思うよ」
彼女のちょっとしたのろけ話はまだ続く。
「ほら見て」
そう言って見せてくれたのはブランド物のリップ。
「似合いそうだからって、彼が買ってきてくれたの」
それって、あなたの名前が刻印されてるでしょ?
「私の名前が入ってるんだよ」
実は私もそれをもらったことがある。でも、そのリップをもらった時は勝手に選ばせなかったけどね。私が一緒の時に、私が選んだものを買ってもらった。
そういうところ、可愛くなかったんだよね、私。
普通なら、どんなものでも買ってきてくれたら嬉しいって思うんだろうけど。
まだまだ、私にはわかることがある。
スマホのケースにもあなたのイニシャル入ってない?
記念日にはとびっきりの食事に連れていってくれたでしょ?
洋服選びも何時間だって付き合ってくれるはず。
その幸せそうな顔を見ていれば誰だってわかる。優しい彼氏に守られてるんだなって。
「私だってちゃんとわかってる。とびっきりの彼氏だったって」
元カレ=友達の彼氏
そんな関係がいいか悪いかはよくわからないけど、とにかく私は色んな意味で気持ちよかった。
元カレに対してヤキモチも嫉妬もない。
そして友達にだって後ろめたいこともない。
それどころか私が紹介した人めっちゃいい人でしょ?って誇らしくさえ思える。
しばらく3人で盛り上がったあとに、またいつか飲もうねって約束して解散となった。
幸せそうな二人の後ろ姿をお店の前で見送ったあと、私も一人で駅に向かって歩きはじめる。
手の中のスマホで彼にラインをする
ーこれから帰るねー
ー飲み過ぎなかった? 気をつけて帰っておいで。駅まで迎えにいくからー
ほらね、私の彼氏だって、あの子の恋人に負けないくらい優しい。
やっぱり私って男を見る目があるんだよね。
つまりはそういうこと。
ずっと一緒にいるけれど、今夜はいつもより彼の顔を見たくなった。
さ、早く帰ろう。
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