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少しの「足りない」と引き換えに

今年の春、看護師を辞めて転職した。

看護師時代は、お金を使うことで、ストレスを発散していたように思う。「今日は頑張ったからごほうび!」とデザートをよく買って帰った。毎日くたくたになって帰り、料理をする気力も残っていないので、夕食をコンビニで済ませることも多かった。

好きなものを食べ、好きなものを好きなだけ買い、物が増える。嫌なことがある度に、自分を癒すためのごほうびを選んだ。それでも自分の心が満たされることはなかった。


看護師を辞めてからは、ためらうようになった。好きな時に買っていたごほうびも、すぐにお財布の中が寂しくなるので、あまり買えない。

その代わりに、時間と心の余裕を持てるようになった。

辞める時、「看護師としてこれからなのに、もったいない」と言ってくれる人もいたけれど、今は辞めて良かったと思っている。誤解がないように言うと、単に看護師の仕事や人間関係が嫌になって辞めたのではなく、仕事をしている時の自分が好きになれなくて辞めた。

自分で決めたことだけど、辞める前は不安だった。違う環境、新しい人間関係、1からの仕事。そして今よりも少なくなる収入。先が見えない漠然とした不安が心に渦巻いた。


*  *  *

実際に転職してみて、気づいたことがある。

お金がなくなったら、お財布も心も、もっとひもじくなるんだと思ってた。

でもちょっと違った。


毎朝、お弁当を作るようになった。頑張ったごほうびは慎重に選ぶようになったし、買い物する時は本当に欲しいのか、必要なのかを吟味するようになった。お金を使わなくても、好きな風景や人の写真を撮ったり、自分が食べたいものを作ったり、寄り道を楽しんだりすれば、心は満たされる。

どうしても欲しいものや大切な人に会いに行く費用が必要なら、何かを我慢する。その我慢は、思ったよりも窮屈じゃないと知った。

自分の中で、お金に対する意識が変わった。お金は大事だし、あったほうがいいけれど、多ければいいわけじゃない。わたしには看護師時代のお給料は、身の丈に合ってなかったみたい。


              * * *

少し足りないくらいがちょうどいい。

もちろんお金がなくて困ることもあるし、転職したからと言って毎日楽しいことばかりじゃない。


それでも今あるものの中から、毎日をはっぴーにしてくれるものを探す。毎日同じでつまらないと感じるなら、自分で変える。そのほうがずっと豊かだ。


どうしたら生活が心地よく、おもしろくなるのか工夫をこらす。そうやって工夫して暮らしている人はたくさんいるのだと、周りを見渡してやっと気づけた気がする。

看護師の頃は、ずいぶん狭い世界にいたなあ。あの頃は今よりも生きるのに必死だった。飛び出した自分、よくやりました。これからも損得じゃなく、自分を好きになれる選択をしよう。少しの「足りない」が心を満たすことがあるなんて、今まで知らなかった。

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