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まどろみの中で

桜のつぼみが膨らんだ頃、2人で旅をしていた。大学生の貧乏旅行だったけれど、久々の再会にふわふわとした幸せを感じていた。

空腹で歩いていると、湯葉料理店が目に留まる。本格的な湯葉料理を食べてみたい、とお店に入ることに。

高級なお店だと気づいたのは、メニューを開いた時だった。豪華な懐石料理が並ぶ中、一番安い湯葉定食を2つ注文する。

豆乳がしたたる生湯葉を口に入れると、すうっととろけていく。「おいしい!」と、顔を見合わせた。揚げ湯葉も、出汁に浸した巻き湯葉も、苺が添えられた羊羹も、どれもおいしい。

帰りのバスで、また「おいしかったね」と言い合った。

誰かとの旅は、感動の共有の連続だ。分け合いたい、という気持ちは旅の温度を上げてくれる。

やわらかな春の光が、2人を包み込む。少し上がった体温と、バスの揺れ、疲労感、すべてが心地よい。このまま旅がおわらなければいいのに、とまどろみの中で、ぼんやり考えていた。

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