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野饗(のあえ) / 羈旅(きりょ)



野饗(のあえ)

 翡翠(かわせみ)のひだりの脚に結ぼれて
 惜しみなく無季の散華にゆらめきながら
 天蓋にあわい軋みを引きずってゆく
 わたしの戀文
 あなたのもとに届くはずもなく。

 蘭の密語をしたたってきては
 すこしずつ午睡のさなかに溜まる
 やわらかな壊死。さんざめく湖畔の揺らぎのような
 方解石と 柘榴の砕け。
 それもあなたの知るところにあらず。

 されば、銘もなき句碑と水鏡とを跨ぎ
 あだめく懶惰にたぶらかされつ
 めくるめく拉鬼体を棚引き
 おぼろ艘なる游禽に 心ならずも礫を投げる。
 御簾紙を契りて記す萬葉緯の一節
 一陽来復。ぬばたまの月夜
 類のごとき走狗らに馳走をふるまいながら
 帆座のもと 躑躅の満ち満ちる野をはなやぐ。


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301字

いくつかの短篇といくつかの詩。

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