パスコードは息子の誕生日

彼氏と1ヶ月ぶりに会った。

昨日お酒を飲んだからか、今日は昼前まで寝てしまった。

11時くらいに目を覚ましてケータイを見たら、「今日空いてるんだっけ」と彼氏からLINEが来ていた。

予定を聞かれるのは久しぶりだったから、少し驚いた。やっと会えるのかと思うと嬉しいはずなのに、なぜか怖くなった。

空いていると返事をすると、彼の家の近くの銭湯に行こうと誘われた。

なんだか気落ちした。銭湯も嫌いじゃないけれど、せっかく会うのなら、買い物とか、ごはんとか、カフェとか、そういうデートらしいものがよかったな。

そう思いつつも会いたいから出かける準備を進めた。

お風呂に入らず寝てしまったから、銭湯に行くけれどお風呂に入って、洗濯を回して、思ったよりも時間がかかってしまった。

急いで家を出ようとしたところに、着信。まさかとは思ったけれど、内定の電話だった。内定が出るだろうなとは思っていた企業だったから、そこまで嬉しいとは思わなかったし、何より急いでいたから早く電話を終わらせたかった。

だけど、結局30分くらい時間を取られてしまった。そこから急いで駅に向かって、1時間かけて彼のところへ向かった。

向かう途中、最後の乗り換えでまさかの遅延。たった10分なのに、ひどくイラついてしまった。

電話で30分、遅延で10分、計40分彼と会える時間が遅くなってしまったからだ。一秒でも早く会いたかった。

久しぶりに会った彼は、やっぱりかっこよかった。スーパー銭湯の館内着であそこまでかっこいい人は見たことがない。

ずっと会っていなかったからか、会った瞬間、何を話せばいいのか、どんな顔をしたらいいのかわからなくなって、うまく話せなかった。

それぞれで温泉に入ったり、漫画を読んだり、ゴロゴロしたりしながら4時間半くらい一緒にいた。

4時間半で、友達とだったら30分で話せるくらいの量の会話しかしなかった。

話したいことは山ほどあったのに、少しも話せなかった。

部屋を解約して実家に戻る話もできなかった。

一緒にいない時間に慣れすぎて、一緒にいる時間がぎこちなかった。

あんなに会いたかったのに、会えて嬉しいはずなのに、どう接したらいいのか分からなかった。

彼が、酔っ払って携帯のパスコードを変更したあと、それが分からなくなって携帯が初期化されてしまった話をしていた。

彼のパスコードはずっと息子の誕生日だったらしい。

そういえば彼は私の誕生日を知らない。

私の携帯の壁紙は彼の写真だったけれど、なんだか恥ずかしくなってこっそり変えた。

血の繋がった息子と他人の私を比べることは間違っているかもしれない。けれど、自分の仕事と別れた奥さんと息子のことで精一杯な彼の中に、私はきっといないのだろう。

果たして私たちは、恋人同士なのだろうか。

そんな疑問さえ浮かぶほど、私たちの間には果てしない距離がある。