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勝とうとするな。負けんぞと思え、という教え

(執筆:2017年1月頃。当時執筆者は福井におりました)

福井にUターンしてきてから、何かと移住者コミュニティと新しく知り合う機会が多い。移住者のみなさんはきっと知らないであろう、「マイナーな分野で実は日本一」ブランドを誇る福井が、百人一首競技かるたというまたもマイナーな分野で「かるた王国」の二つ名を馳せていることを(ただし『ちはやふる』愛読者を除く)。

そんな王国にはかつて、さかんなところだと公民館ごとにかるた教室があった。私は小学校3年生で福井に転校して、学校でもらったかるた教室のチラシを「いろはかるた教室」だと間違えて入門して以降、つき指するとピアノに支障があるからと中学2年生で辞めるまで、かなり本気で打ち込んだ。『ちはやふる』で言えば、クジ運の悪さは太一並み、万年B級度はヒョロ君並みである(*1)。

入門してすぐ、当時の師匠に教わったのがタイトルにある心得だ。

勝とうとするな。負けんぞと思え。

競技かるたは1対1の勝負の世界。「相手に勝とう」と意気込めば、自分が負け始めるとミスばかりが気になって、焦りが出る。いつもの取りができない。でも、「負けないぞ」と思っていると、たとえどんなに大差で負けていても、挽回するチャンスを狙おうとする。チャンスをつかめば、勝つこともできる。少なくとも、途中であきらめて、試合を投げ出そうとする弱い自分には負けない。

「あきらめたら、そこで試合終了ですよ」のあの教えと、根っこは同じですね。試合の途中であきらめて、集中力を途切らせ無意味な試合をした時が、いちばん叱られたっけか。「試合を投げてんたらあかん(捨てちゃったらだめだ)」と。

生涯ずっと大切にしていたい教えの一つです。

(*1) 太一のクジ運の悪さと、万年B級のツラさについては、『ちはやふる』単行本6~10巻を参照。ちなみに、万年B級者が長い葛藤の末A級昇格に至る境地については、前掲書16巻に詳しい。つき指するほどの激しさが信じられない読者は、前掲書14巻末をあわせて参照のこと。

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