<おとなの読書感想文>ゆき
落ち込むことがあると、ひとつをきっかけにちいさな日常の面倒事も気にかかるようになり、秋の青空が一層物悲しく感じられます。
こういう時、普段は好意的に思っていた誰かの快活な声を急に疎ましく思ったり、本当はなんでもない他人の振る舞いを自分への敵意なんじゃないかといぶかったり、我ながら厄介で情けなく思うほどです。
「元気が出る」特効薬があるかと言えば、それはなかなか難しいもの。
しかし少なくとも今、わたしの心のひだにすんなり染み渡った一冊の絵本があります。
「ゆき」(ユリ・シュルヴィッツ作 さくまゆみこ訳 あすなろ書房、1998年)
灰色の空から、白い雪がひとひら。
初めは地面にあたるとすぐ消えてしまいました。
降らないだろう、積もるはずはないと言うおとなたちがいます。
でも雪は、ひとひら消えてもまたひとひら、どんどん降り続きます。
こんな日の胸の高鳴りは、多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。
男の子はなんと言われようと、空を見上げることをやめません。
やがて雪は綿のように町を包みます。
建物の輪郭が消え、青空に映える白い風景はまぶしいほどの美しさなのでした。
きちんと悲しみに向き合ってね、と言ってくれた人がいて、本当にありがたいことでした。
今、無理やり辛い気持ちを押し込めてふたをしてはいけないことを、自分自身が過去の経験で知っています。
静かな気持ちで空を見上げて待っていてごらんと、そっと言ってくれているような絵本です。
画材費、展示運営費、また様々な企画に役立てられたらと思っています。ご協力いただける方、ぜひサポートをお願いいたします。