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<おとなの読書感想文>文房具56話

削りすぎて小さくなったえんぴつを、恥ずかしいと思ったのはいつ頃のことか。


子ども向けの絵が描かれているえんぴつや、銀色のホルダーで持ち手を長くしたえんぴつはどうも格好悪く思え、小学校を出てからはシャープペンを使うことの方が多くなりました。

専攻を美術に定めた頃から、えんぴつは字を書くより絵を描くために使うことが多くなりました。
デッサンに使うえんぴつは手回し式の削り機では削れず、芯をうんと長く出すように、カッターナイフで一本ずつ削りました。
その芯も、カリカリと硬いものからクレヨンのようにやわらかいものまで様々な種類がありました。
黒の色が違う、ユニが良い、いやステッドラーだなど、予備校の先生の間で好みが分かれ、なんとなく影響を受けながら画材店でいくつも買い揃えました。


思えばえんぴつを筆頭に、人生のずいぶん早い段階から文房具とのお付き合いは始まっています。
とりわけ文房具を愛する人ならば、きっとこの本のタイトルを見ただけで手にとってみたくなるでしょう。


「文房具56話」
(串田孫一 ちくま文庫、2001年)


正直、わたしの知らない文房具が色々ありました。

ダイモテープライターってなんだろうと思って調べてみると、ああ、見たことある!
家にあった古い電卓に、家族の名前のローマ字が貼ってあった気がします。
吸取紙は確かに小説の中に登場することはあるけれど、使ったことはおろか見たこともないのです。
吸取紙が必要ないというのは、ひとえに筆記用具の性能の向上によるものでしょう。
昔から変わらない物もある一方で、文房具の世界の進歩は目覚ましいのです。

各章から、著者の串田孫一さんの溢れる文房具愛が感じられます。
特に物を長く大切に使ったり、あるいは工夫しながら自分なりの形をこしらえたりする姿勢に、かつて自分が無駄にしたえんぴつや色々な道具のことを思い出し、チクリと胸に刺さるようでした。


今、いただいたものも含めるとわたしの手元にはたくさんのえんぴつがあり、当分使い切ることはなさそうです。
使いかけているえんぴつから使用することにして、それらがいよいよ書けなくなったら今度は多分アニメキャラクターが描かれたファンシーなえんぴつを惜しげもなくおろすでしょう。
受験用に本格的なデッサンをするのでなければ、メーカーにそれほどこだわりはないのです(紙にひっかかってしかたない芯のえんぴつもまれにあるにはあるのですが)。

銀色のホルダーはむしろ嬉しくなります。
なぜなら所有するえんぴつの中で最も大切にしているのは、使い込んで短くなったお気に入りの数本だからです。
いちばん短いものはユニのHBで、全長4cm以下。これはもう、飾ってオブジェにでもした方がいいでしょうか。

いつの日か、小さなえんぴつが机の引き出しいっぱい溜まったら、誇らしい気持ちになるに違いありません。


画材費、展示運営費、また様々な企画に役立てられたらと思っています。ご協力いただける方、ぜひサポートをお願いいたします。