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<おとなの読書感想文>ぶらんこ乗り

ブランコが好きな子どもでした。
公園でブランコを見つけると、真っ先に座ったものです。
小学校の校庭にブランコがないことを嘆き、誤って手を離して顔面着地しても、順番待ちで友達とけんかしても、なお好きでした。

垂らした足を折ったり、伸ばしたり。
高く上がれば嬉しく、やや怖く。
ブランコをこぐ時感じた、ちょっと不思議な感覚を今思い出します。

「ぶらんこ乗り」(いしいしんじ 新潮文庫、2004年

「わたし」の弟は小さい頃からまわりが一目置くような天才。
おはなしが上手で、何よりブランコ乗りの名人だった。
ある忌まわしい事故が起こるまでは、誰よりも滑らかに、誰よりも高く学校のブランコをこいでいた。
庭にこしらえた大きなブランコの上で、弟が夜な夜な書き留めたノートを読み返し、わたしはあの時弟が必死に向き合おうとしていたものを知る。。。

いしいしんじさんの文章を読んでいると、お腹の底がふかふか温かくなるようです。
決してこびているわけではなく、残酷なこともしっかり書かれているのだけれど、まるで上手なサーカスを見ているようで嫌な気持ちにはなりません。
嘘でしょ?と思うようなおはなしも、なんだか本当のことのように思えてきます(コアラが中毒だったなんて!)。
遠い外国を思わせる土地に住む、魅力的な人々や動物たちの息遣いまで聞こえてくるようです。

揺れる人生の狭間、危うくしなる2台の空中ブランコの間で、ほんの少しパッと手を取り合えることもある。
奇跡のきらめきは忘れがたく、たとえすぐに手が離れてしまったとしてもずっと心に残り続けるものだと感じます。

個人的には強く気高いおばあちゃんのキャラクターに魅了されました。
嬉しい予感に包まれる美しいラストをぜひ味わってみてください。

画材費、展示運営費、また様々な企画に役立てられたらと思っています。ご協力いただける方、ぜひサポートをお願いいたします。