デリバティブの数理学上問題点

金融商品としてのデリバティブというのは、ある金融商品から派生して生まれるもので、例えば債権リスクをまとめて商品化してリスクヘッジを図る、といったことに用いられる。しかしながら、片方がリスクをヘッジすれば、当然もう片方がその負担をするわけで、それは数学的にアルゴリズムが組まれてもっともらしく商品化されるが、本当にその数学的考え方は信頼できるのか。

つまり、リスクを売るために商品化する側は、情報を持っていた上で、いずれにしても全ての情報を伝えるということは不可能なので、なんらかの形で隠して売り出すことになる。その時点で、同じ自然数の1であっても、その中に含まれる情報は異なっているわけで、だとすればそもそも売り手と買い手との間で自然数の定義の共有がなされていない可能性がある。そうなると、数字上リスクヘッジがなされたとしても、実は真のリスクはその顕在化されていない、自然数定義の違いの中にあるのかも知れず、その意味でリスクとは本質的にヘッジできないものであるといえる。

そして、その情報は取引されるたびに削り落とされ、拡散される。特にデリバティブにおいては、さまざまな取引をパッケージ化して商品にしているので、個別リスクについては、取引がなされるほど、また時間の経過に従って特定しづらくなり、そしてまさにそれこそがデリバティブという商品の狙いだといえる。つまり、デリバティブでは、最初に定義された自然数から、取引のたびに情報がこぼれ落ち、それは中身が低減していることを意味し、そしてそれ自体を目的にしているといえるのだ。これは数理学上、意図的に作られた詐欺商品だといっても良いのではないか。

これは、情報世界における経済学の理論的不備も露呈している。経済学においては、主としてモノの商品を想定して、生産性に焦点を当てて収穫低減を定義しているが、情報の場合、取引のたびにその貨幣的価値は下がり、一方で商品化した方はそれによってリスク要素が拡散され、情報拡散益を得ることになる。これはまさにフェイクニュース拡散の基本的メカニズムを形成しているといえる。フェイクニュースは、市場、というか、公の場で拡散されることによって、匿名化され、発信者リスクが減ってゆく中、その中身だけが拡散して発信者は拡散益を得ることになる。また、価値があると思われた情報ほど、自分でなんらかの加工を行って発信者利益を付け替えようとするので、基本的に匿名で拡散する情報ほど価値がない、ということになる。経済学上、情報は収穫逓増の効果を持つ、などと言われることもあるが、貨幣のやりとりが究極的にはゼロサムであることを考えると、片方が収穫逓増ならば、もう片方は必然的に収穫低減する、という、取引の片務性が全く考慮されていないのだ。

つまり、デリバティブに置き換えれば、公開市場によって取引されるようになった情報は、取引すればするほど、その商品で設定されたリスクなりなんなりの情報が拡散され、商品自体が情報拡散益を得る一方で、取引する方はその拡散されたリスクのババ抜きをする、ということになるのだ。そしてリスクが実現すれば、商品設定者は言わんこっちゃない、とほくそ笑むことになり、リスクを実現させることにメリットを見出すことになる。これは、逆説的には、商品設定されること自体がリスクを高めることになるということを意味する。

そして、論理的に、数字を作った側はそこに付加価値なり手数料なりを上乗せして売るわけであり、つまり数字を買うということは、劣化した情報を高値で買うということに他ならない。そうなると、売る側は書い手の中の誰かを損させて他者に利益を付け替える、というやり方でしかその情報の利益を保証できないことになり、デリバティブは胴元に利益を運ぶために買ったもの同士で潰し合いをする、という、全くメリットの見いだせないものになる。デリバティブなるものは、リスクなる妄想を煽られて、その不安意識から市場で果てしなき潰し合いをするという、病原体顔負けの厄災しかもたらさないものなのだ。そして、その潰し合いをしたからといってリスクは全く低減するわけではなく、却ってその値上がり、値下がりのニュースによって、さらにリスクを増幅させるという、リスクヘッジという名に託けたリスク増幅装置で、それを売りつけて儲けるという、死の商人などという言葉で片付けられるものではない、インモラルこの上ないものだといえる。

果たして、そのような無意味な数字の売買に資源を費やすこと、それが公的な市場で売買されること、そしてそれによって社会全体がその影響を受けるということを合理化できる功利主義的であろうがなんであろうが、そういった理屈は存在するのであろうか。数学があたかも普遍的真実をもたらすのだ、という幻想につけ込んだ詐欺行為を合法とするのは、人間の精神を底なしに劣化させ、社会の基本となるべき人間間の信頼関係を崩壊させる、人類史上における最大級の愚劣な行為だといえるだろう。

誰かが読んで、評価をしてくれた、ということはとても大きな励みになります。サポート、本当にありがとうございます。