法治主義・正義・民主主義と新規事業との決定的な相性の悪さ

よく、資本主義のベースとしての法治主義や民主主義が言われるが、それは本当にビジネスと新和的なのだろうか？

価値観の押し付け？としての新規事業

社会にこれまでないような価値を提供する新規事業というのは、新たな社会的価値観の提示ということになる。それは、文字通りこれまでの社会的価値観とは違うということであり、それが既存の枠組みに照らし合わせて善であるのか悪であるのか、という判断は個別の正義意識に委ねられることになる。そこで、新たな価値観の提示は、特に万人の万人に対する闘争のような環境であれば、他者に対して自分の価値観を押し付ける、ということでないと新たな価値観の提示というのはなかなかにしにくい。

民主主義での主導権確保のための強引さ

一方で、民主主義によって定まる法治国家というのは、既存の枠組みは民主主義に基づく正義観念によって定まった法律によって規定される。民主主義である以上、新たな価値観の提示というのは常に少数から始まらざるを得ず、それを多数派にするには、価値観の押し付けなり主導権争いなりの強引さが求められることになる。本来的には議論を通じての多数派形成であるべきなのだが、それは常に既存のヒューマンキャピタルに依存するわけで、そして民主主義が功利主義によって成り立つ以上、多数派形成には何らかの利益供与が必要となり、そしてその利益供与には政治的資源配分の変更、それはまさに社会的価値観の変更であり、それを行うのに多数派を形成するほどのそれを提供するには、過去からの何らかの価値観を変える必要があり、それをするには政治に関わるか、政治家に依存してそこを任せるか、ということになり、政治に関わっていたら新規事業はやりにくいし、政治家に依存すると何らかの価値観のトレードオフを求められ、それが自分の価値観と合わないと前に進めなくなってしまう。

新規事業と政治的手続き

つまり、新規事業を行うのに、価値感を浸透させる政治的手続きが必要となり、そのために政治的取引を求められることで、ビジネスは常に何らかの価値感を取引に出してそのかわりに自分の価値観を実現するという非常にインモラルな状況に追いやられることになる。要するに、民主主義のためにビジネスは悪魔の取引を求められる、ということになるのだ。

悪魔の取引を強いる民主主義

私は、ビジネスによって社会を変えてゆく、という可能性を信じているのだが、それに対してたとえ法に触れるようなものではなくとも、価値観変更には、特に民主主義という枠組みにおいては、常に何らかの政治的取引を求められ、そしてそれは利益供与の幅が大きければ大きいほど良いという取引の基本に基づき、典型的にはできるだけ多くの財政などの政治的利益を供給するよう求められることになる。つまり、ビジネス自体のもたらすメリットのみで話をするのが大変難しく、良い関係性においても公平感覚からビジネスのもたらすメリットが大きければ、政治的な対価を供与する、ということになり、ビジネス自体よりも、政治的な方向に押す圧力がかかりがちとなる。それは、ビジネス自体よりも政治に資産を割かなければならないことを意味し、政治的な風向きを読んで行動するなどビジネスとは関係のないことに考えを致す必要が出てくる。

政治がもたらす不要な社会的コスト

政治的な方向にも様々なレイヤーがあるわけで、ローカルビジネスならば地方政治で、となるのだろうが、特に予算が中央に依存していることを考えるとそれは結局中央政治に関わる、少なくともアンテナを張る必要が出てきて、そうなるとそことの誰とどのような取引をする、といった、本来のビジネスとは全く関係のないことに関わらざるを得なくなり、それによってその取引内容の提示など、やる必要もないことにどんどん時間と手間を取られ、その間に様々な関係性や自分の価値観の整理などもややこしくなり、その挙げ句に自分のビジネス自体も競争にさらされ、それが他の政治的闘争に巻き込まれる形で、社会的にはどんどん状況が混乱してしまう。

問題を悪化させる中央集権

これは、中央集権的、そして官僚的になればなるほどひどいことになってゆき、どの人脈のどの経路を通さないと動かない、と言ったような関係性理解が重要となってくる。裁量で動かすことが政治力を見せるポイントだと考える政治家が暗躍すればするほどに、理屈は通りにくくなり、政治的関係性が重要になってゆく。

ビジネスを政治化させる現行民主主義

ローカルの新規事業を一つやるのにすぐにこんなにもややこしいことになってしまい、それをやろうとすると、民主主義的な多数派に対してなぜだか挑戦する、ということになり、そうするとインモラルな方法も含めてそれをひっくり返すように、という政治的な圧力がかかるようになる。関わりたくもないそんなことに関わらないとビジネスができない、などというおかしな社会的構造を作り出すのが、現状の民主主義なのだと言えそう。

独裁よりは遥かにマシだとはいえ、全く理想とは程遠いのが現状の民主主義であるといえよう。