アメリカ大統領選挙

民主党のバイデン大統領が撤退し、ハリス副大統領と共和党トランプ大統領の対決という構図が見えてきた。

日本のような議院内閣制では、首相候補は国会議員の中から選ばれることになるので、どうしても限られた狭い世界からの人選とならざるを得なくなるが、2000年以降の候補者を見てみても、とりわけ共和党は元テキサス州知事のブッシュ、元マサチューセッツ州知事のロムニー、そして実業界からのトランプと背景が多様で、上院議員出身であったマケインもマーヴェリックと呼ばれ、決して主流派ではなかった。一方で民主党は下院議員から上院議員そして副大統領となったゴア、上院議員からのケリー、オバマ、バイデン、あとは元ファーストレディで国務大臣も務めたヒラリー・クリントン、そして上院議員から副大統領となったハリスという女性陣となる。性や人種においては多様なように見えるが、政治的キャリアは非常に保守的で面白みにかける。その辺りが、とてもではないが共和党らしいとは言えないトランプが支持を集める背景にあるのかもしれない。

共和党も、それ以前は議員出身の候補者が目立っていたが、2000年代以降急速に脱議員化している。これには、一つには父ブッシュ政権以降中央政界でいわゆるネオコンと呼ばれる勢力が急激に力を増し、共和党が共和党らしくなくなってきたということに対して、特に地方部の草の根保守層のバランス感覚が発揮され出したと言えるのかもしれない。それにしても、トランプがそのバランス感覚を体現しているようにはみえず、共和党の方も戦略的行き詰まりに至っているようにも見える。つまり、現代民主主義の総本山とも言えるアメリカで、どうもその民主主義のあり方が限界を迎えているようにも見受けられるのだ。

このような状況に直面して、とりわけアメリカ依存の非常に強い国家体質になってしまっている日本はどのように対応したら良いのだろうか。まず一つには、アメリカの政策がどうあれ、その政策に過度に影響されることなく、独自の政策遂行を心がける必要が出てくるだろう。とりわけ外交・安全保障に関しては、対中国ということもあり、集団的自衛権などが問題になり続けるだろうが、外交に関しては伝統的に比較的日本の立場に近かった共和党の支持者の中でその強硬派であるネオコンの扱いに困ってこのような混迷を迎えていることを考えると、アメリカと一蓮托生という考えのリスクはあまりに高いのではないかと感じる。

ついで、上に述べたような共和党の政策との親和性から、日本のとりわけ保守政界では親共和党の感覚が強いように感じるが、それに対応するかのように小選挙区導入以来野党サイドが親民主党的な立場をとることで、アメリカの政治情勢が直接的に日本の政治状況に反映されやすくなっており、特に民主党の(アメリカ的)リベラル志向の強い政策が日本のマスコミとの親和性が高いために、アメリカであってもトランプ支持というかなり過激な選択肢でしかそのリベラル化の潮流に歯止めがかけがたくなっているのに、より抵抗力の低い日本においていかにしてその暴走に歯止めをかけるのか、という問題がある。典型的には、価値観の根本的変革には憲法の改正が欠かせず、修正法でより簡単に憲法をいじることのできるアメリカとは全く状況が違うのに、例えば同性婚の問題などどのように対応するつもりなのか、私には全く見当もつかない。こんな状況で果たして社会が持つものなのかすらも私には疑わしく感じてしまう。とにかくアメリカの政治からは少し距離を置いた方が良いのでは、という程度の感想しか述べることができない。

そして最後に、かといって、超大国であり、それでも自由と民主主義を国是として掲げているアメリカと真っ向から敵対するなどという選択肢があり得ない中、いかにして付き合ってゆくのか、という問題がある。私は、基本的には、国という単位よりも、草の根の地方自治レベルで交流を深めた方がさまざまな点で有効なのだろうと感じる。アメリカの田舎者は身の回りだけが世界だと思っているなどと揶揄されることもあるが、私はそれは複雑怪奇な世界情勢に対して健全な不可知論で対応しようとする真っ当な感覚だと感じており、そのアメリカの草の根の自由主義的な感覚は十分信頼に値するのではないかと感じる。政治的に集約された何らかの集合的・社会的意思よりも、そのような個別の感覚とできるだけ多く、多面的に接点を持つことで、アメリカという広大な国の方向感をより幅広く捉えてゆく必要があるのではないかと感じる。だから、例えば自治体ごとにアメリカの各地の五つとか十とかの自治体と個別の関係性を築いてゆき、それぞれの自治体がそれぞれ独自の信用できる情報ネットワークを組み立ててゆくことで、結果として国全体としても多様なソースから多面的にアメリカという国を捉えることができるようになり、より多くの選択肢を確保して行けるのではないかと考える。

これから秋にかけて、ますますアメリカ大統領選挙についての話題が増えてゆくと思われるが、そのニュースの波に飲み込まれるのではなく、いかに主体性を持って国際的な情報の流れに対応して行けるかが問われるのではないだろうか。

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