情報から見た金融制度のあり方
金融について見てきているが、制度論について考えてみたい。
金融における情報の役割
既に見てきた通り、市場原理が機能するためには、価格調整に関わる情報の存在が非常に重要となる。この情報の存在を無視して金融制度を考えることはできないが、現状においては、情報というのはむしろ政策手段として用いられているようで、市場における情報自体には制度的に無関心であるかのように見える。つまり、金融会合などでの公的発言によって市場をリードしようとすることはあっても、実際の需給の情報が市場に反映されるようにする、という努力はあまりなされていないように感じ、その点で制度的に改善の余地があるのではないかと感じる。
公的発言の実体経済上意味付け
公的発言の影響力はほぼ金融市場にとどまり、それが実体経済に即影響するかといえば、そもそもそんなことは意図していないだろうし、実際直接の影響も限定的であると言える。実体経済に直接影響しそうなのは為替に関する発言であろうが、それにしても財市場が影響を受けるかといえば、少なくとも輸出最終財に関しては仕向地は外国であり、国内市場価格には大きく影響しない。輸入財に関しては価格への影響はあるだろうが、最近の円安局面はともかくとして、基本的に結果はともかく、物価変動を主たる意図として為替政策を行うというのはそれほど一般的であるとは言い難いし、そもそも上からの発言によって価格が左右されるということ自体市場による価格調整機能を損なうものであると言える。
金融商品の規制
需給の情報を市場に反映させるための努力としては、まず、これも何度も書いている通り、実需とは関わりのない金融商品をなくすことで価格の動きが実需から離れた投機的な資金によって左右されることを防ぐ必要がありそう。財市場の実際の需給がより市場規模の大きな金融市場によって実需と関係なく動く金融需給に影響されれば、市場の実需による価格調整機能が損なわれてしまう。これは市場を殺してしまうようなものであり、金融商品によって市場メカニズムが破壊されるという本末転倒とも言える状況が起こるのだと言える。
需給調整のタイムラグ
ついで、市場メカニズムの想定する短期の需要による価格決定と、実際の生産調整などを考えた中長期の供給量決定のタイムラグについてどう考えるのか、という問題がある。短期的な需要のよる価格決定は、スーパーなどの小売あるいは卸売段階で、生産工程とは切り離して、商業の在庫管理などによって調整されることになる。あるいは最近ではインターネットを用いたダイナミックプライシングのような仕組みも整い、価格を中心とした均衡メカニズムはかなり精緻化されてきていると言える。一方で、供給サイドを見てみると、原価計算を反映した価格設定のため、メーカーサイドが価格決定権を持ち、そしてそうでなければ生産計画が立てられないという状況にあると言える。
生産タイムラグにおける金融の役割
金融の本来的な役割の一つとして、この生産タイムラグの間の運転資金供給というものがありそうだが、制度的にそこをもう少し強化する必要があるのではないか、という気がする。そのためには長期的な需要見通しを反映した金融市場のようなものが必要になるのかもしれない。現状、受注生産として、注文が確定してからの生産の仕組みがあるが、それを、注文証券のような仕組みを整えて事前にある程度の注文を確定させて生産できるようにするということが考えられるかもしれない。これは、支払いは製品ができてからだが、キャンセルは基本的にできないということにし、証券発行側はその証券を担保にして融資が受けられるようにし、生産ができなかった時の保険などの仕組みを組み込むことで先注文のデメリットが出ないようにするといった工夫をして、事前の注文を促進することで供給側の数量決定を市場メカニズムに乗せるようにすることができるかもしれない。これによってベンチャー企業の市場獲得なども支援することができるようになり、産業の活性化も期待できそうだ。
情報の市場メカニズムへの折り込みの困難さ
また、金融よりも情報の方が市場メカニズムを機能させるのにより大きな役割を果たしていることを考えると、そこをどう整理するのか、ということはより重要になってくると考えられそう。貨幣によって表現される価格情報よりも、需要情報の方が供給量の決定にはより大きな意味を持つようになるからだ。とはいっても、消費者に耐久消費財の買い換え情報や、需要サイドの中長期の需要計画を証券化して、需要を顕在化させることで、需要側の選択肢を増やす、というようなことも考えたが、今のところ需要側にそんな話に乗るメリットは見出しにくいのでまだ良い考えが浮かばない。これには市場構造の分析が必要になりそうなので、それについてはまた別途考えたい。
いずれにしても、市場の管理のためには、貨幣から得られる情報というのは実は極めて限定的であり、もっと広範な情報によって市場機能が支持されるようにする必要がありそうだ。
誰かが読んで、評価をしてくれた、ということはとても大きな励みになります。サポート、本当にありがとうございます。