私の想い出〜私を探さないでください〜

 ある雨の日、私は主人とテレビを眺めていた。雨にまつわる歌を歌う歌手がいた。
(ああ、似てるな、あの人に)
隣で観ている主人は、私を見てやきもきしていた。
「やっぱり似ているな」
つい、言葉に出してしまった。
 主人の機嫌は悪くなったみたいだ。
「けどね、ノドボトケが小さいね。あの人は、ノドボトケが大きかったよ」
あの人は、変に色気のある、モテて優しい人だった。

 もう、何年も前の事だ。
 私が、大学生の頃。
 中学時代から好きだった同じ男の子に、2度目の告白をし、2度目の付き合いをした。
 その付き合いは、最初の時より長く続いた。最初も2度目もその子だったのだが、5〜6年、長い春だった。
 無邪気にじゃれたり、はしゃいだり、周囲は高校生のようだ、と、呟いた。ただ、相手の誠意を疑う友人は、最初のうち多かった。
 その疑いを払拭するように、その男の子は、誠意を持って付き合い続けてくれた。私のとても幸せな時期だった。

 ただ、就職する頃から すれ違いが生じた。
 私は、就職先の仕事がきつく 倒れてしまった。その時に頼りにしていたその恋人とうちの両親が初めて会ったのだが、その時に親戚の叔父もいて、私の持病のことを話した。

 私は、不安になった。

 同時にその頃は、通い先の病院で 疲れてぐったりしている私に対して 抗うつ剤が処方されていたのかも知れない。

 自宅で、独りで居なければならなかった私は、片端から友人知己に電話をかけた。

 躁状態になっていたのである。

 もちろん、恋人の先にも……

 恋人は、たまらず 私と別れることにした。就職も失敗した、都合よく結婚に希望をかける私と……


 同時に、友人たちも離れ始めた。連絡をそれまで狂ったように取り続け、さらに恋人に振られ、半狂乱になった私から


 おまけに、胃痛、頭痛でたまらず入院すると、その先でたった1つのアドレス帳を紛失してしまった。


 私は、全くの独りになった。


 自殺未遂も何回もした。


 恋人からは 伝言で 「もう、連絡しないでくれ」と……


 私は、孤独に弱い。


 寂しいと、たまらなくなる。


 そんな時、一青窈の「ハナミズキ」が流れた。


 雰囲気が「あのひと」だった。


 ただの偶然だったと思う。


 けど、「私を探さないでください」と、言っているようだった。


 歌手にもなれたと思う。

 ギターが上手くて。

 歌も、心がこもってて。

 ルックスもよかった。


 なのに、社会に埋もれて生きたいんだね、


 そっとしておいて欲しいんだね、


 ………………探さないよ、大丈夫、


 今、主人のほうを振り返る。

 あれから私は、「子育てが上手そうな、アットホームな人」を探した…………


 真面目そうなのに、突然 面白い事をする カッコイイ、だけど動物占い「タヌキ」の あの、中学時代から好きだった あのひとじゃなく……


 子供は出来なかったけど、私が子供みたいでも許してくれる、大きな アットホームな 優しい主人と…………ずっと、ふたりで暮らしている。


 いろいろあるけど、やって来た。


 さようなら、


 もう 探していないよ、


 大丈夫。




 私の過去の呟きに付き合っていただいてありがとうございました。


               おわり


 


 


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