貸したお金はあげたつもりで…
「上に住んでる人との人間関係…?向こう追い詰められてるわね、関係 切ったほうがいいわ。ガラスの共振って知ってる?一緒に震えて割れてしまうわ」
私は、タロットカードから顔を見上げた。去年お金を貸したり、その後LINE でやり取りしていた、上の階に住む夫婦との関係を占ってもらっていた。
「はぁ……」
と、私……複雑だった。
アパートの上の階に住む住人である同じ年頃の夫婦は、私達夫婦が5年前に越してきてから最近やっと仲良くなった。
時々、喧嘩の声が聞こえてきて、神経がまいったが、奥さんがいい人なので、財布を落として全財産を無くし困っている、と言ってきたとき すぐに1万円を貸す判断をし、しばらく後、当座の生活費にと、もう3万 渡した。
彼女は、元看護士さんで、今は自宅で医療事務の計算作業をニつこなして生活費を稼いでいるという。
乳がんを患ったことがあり、今は糖尿病にさいなまれている。
旦那さんは、居酒屋のご主人で このコロナ騒ぎで収入が殆ど無かった。
そんな中で、財布を落とした、というのである。
次の月、4万円貸してくれないか?とまたやって来た。
保険の支払いが間に合わないというのである。
このまま、ずるずると毎月借りに来るのは容易に想像がついた。
私は、心を鬼にして断った。
4万円は、デットラインとしておいた。
8万も借りると返すときにハードルが高い。
お互いが、「お金だけの関係にしたくない」と言っていた。
うちの家計もギリギリだった。
貯金も、なにかあったらギリギリ。
そんな中で、LINEは開通し、やり取りは続いた。
そのうち、うちの菜の花が咲いたら観に来ませんか?と、私。
ーいいですね、私の焼いたスコーンと紅茶をご馳走します、と、奥さん。
桜を観にも行きたいですね。私。
ーいいですね、桜がとても楽しみです。あの公園の桜を是非観に行きましょう。奥さん。
やり取りは、あたたかく続いた。
「お金は、返さないでいいです、お金だけの関係にしたくありませんから」
「いえ、必ず返します。待っていてください」
ただ、旦那さんにはお金を借りていることは内緒にしてくれ、ということだった。
心配かけたくないというのだった。
奥さんは、身寄りがなくて、
近所の人とも繋がりがあまりないらしい。
ご主人の叔父さんも居酒屋経営に関しているらしいが、
お金を借りたくても「待ってくれ」の一点ばりだったらしく。
私達が引っ越してきたときは、彼女らは車も持っていて、時々出掛けていた。
買い物は旦那さんがしていて、時々こちらにも挨拶してくれた。
いつの間にか車はなくなっていた。
ガスは止められていた。
プロパンなので利用料が高く、カセットコンロで用を足していると言っていた。
「給付金が出るのでそれまでの当座で貸してくれませんか?」と、言っていたので、
今は、お金は来ている時期だった。
ガスも再び通っているようだ。
ただ、オミクロンが流行り始めた。
また、苦しくはないか?私は心配した。
そんな中で、一度だけ、彼女らは車を借りてどこかへ出かけたりしていた。
その頃から、LINEでのやり取りもなくなっていた。
お金はまだ帰って来ない。
車で出かけたことがうしろめたいのか……
私は、彼女の体調が悪くなって最後の旅行でも出掛けたのではとまで想像していた。
私は、ずっと気になっていた。
菜の花が枯れかけても彼女からの連絡は来なかった。こちらからも、連絡したのだが、
上の階の大きな声は、だいぶ良くなったが……、
タロットをやってもらった後、暫く考えていたが、……
人も、時代の流れも、状態も変げする…
いつまでも、どん底で同じ状態で停滞する訳でもない。
いまは、余裕もないだろう。
だから、いろいろ気力もないだろう。
だから、余計な手を出さず
そっと、待つのだ。
私は、彼女たちが自力で這い上がるのを待とうと思った。
このまま私が気にしていたら、私も潰れるといわれたが、待とうと思った。お金じゃない、彼女らの生活が、心にゆとりがでるのを待つのだ。
色々、エネルギーが溜まったら、また 状態は変わるかもしれない。
彼女らの心に力が付くかもしれない。それが、時代だ。
もうすぐ、春。暖かくなる。
コロナが一段落したら、彼女らの店も息を吹き返すだろう。
這い上がって、
心の余裕でも同じところに立てたら、
お金は返さなくていい
また 友達としての繋がりの彼女を待つ。
彼女も、私も「ご縁」という言葉を使えた仲だから……
おわり