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どうして松島君はもらったチョコを靴を脱いで踏んだのか。

千代子の話


はじめまして。
千代子です。
「バレンタイン」で思い出すのは、小5のバレンタインデー。
すっかり大人になったわたしも、この時期になると思い出す。
どうして松島君はもらったチョコを靴を脱いで踏んだのか。
この機会に思い出してみる。


わたしの親友、みっちゃんはサバサバしていて明るく陽気な性格。
クラスの誰とでも話せ、松島君ともよく話しているし、仲の良い友達の一人と思っていた。

松島君はクラスで2番目の人気者。
口数が少なく、クールでイケメン。バスケがとても上手く、
体育の科目がバスケの時は女子だけでなくクラスのみんなが注目していた。

バレンタインの日が近づくと、みっちゃんは
「チョコ、渡そうかな。」
とふいに口にした。
みっちゃん、松島君のことが好きだったんだ。
つい私もうれしくなって、
「いいじゃん、気持ち伝わると思うよ!」
と言った。

私はというと、内気な性格で好きな子すらおらず、
さめたものだったので。

当日、
バレンタインの朝に沸き起こる、なにやらよくわからない熱気やテンションのようなものにみっちゃんが飲み込まれてしまわないか心配だったけど、
ちゃんと持ってきたようだった。手作りで、ハート型に固めてあるとキラキラした目で教えてくれた。ちゃんと渡せるかな、不安だし、どきどきする、とも。
ラッピングも可愛く、すごい頑張ったんだろうなと思った。
下校のときに渡そうかと、前もって作戦を立てた。
他にも渡す子がいるかもしれないけど、
できるだけ松島君一人だけになるときを狙って。。

当日の下校時はいろんな塊ができていた。
バレンタインを意識してなのだろう。
モテる男子の周りに、茶化し組、5.6人の男子がくっついている。
どうしようね、と二人で相談していると、その茶化し組の一人がわたしたちに気づいたようだった。今のタイミングを逃しては、松島君は帰ってしまうだろうし、渡せないかもと思ったのだろう、みっちゃんは勇気を出した。

松島君のそばまで行き、
「ん。これ。どーぞ。」
顔を真っ赤にしたみっちゃんは、精一杯いつも通りの感じで
チョコの入った袋を松島くんに差し出した。
松島君は受け取った。
「おーーー!みち子が松島にチョコ渡したぜぇーーー!!」
「すげぇ~」
「ヒューヒュー」
男子たちの大きな声が上がる。
周りの視線もこちらにくぎ付けだ。

その後の出来事はもう人生で何度も反芻している。
松島くんは、
袋からチョコを取り出し、地面に置き、靴を脱いで、そのチョコを踏んだ。
そして、その割れたチョコをその場にいた他の男子みんなに配ってしまった。
バカな男子たちは、
え?松島、いいの?よし、みんなで食べようぜ~
なんて言っている。
本当にバカだ。
松島君も早くどっかへ行ってしまえ。

わたしはどうしてよいかわからず、おろおろしていた。
みっちゃんはその場から消え去るように帰ってしまった。
まだ携帯もない時代、連絡も取れず、もやもやとした気持ちで
一晩過ごしたのを覚えている。

後できいたはなしだと、松島君はもらったチョコを全部他の男子にあげたようだった。
将来ろくな恋愛をしないと思う。



みっちゃんの話


よく、だれとでも仲いいよねーとか、いつも楽しそう、と言われる。
ごたごたが嫌いだし、男子、女子隔てなく接するし、だれが嫌いということも、ありがたいことにない。みんなの中立の立場といった感じ。
性格だろう。

そんなわたしにだって好きな人はいる。誰にも言ったことがないけれど。
松島とは普通に話しているが、毎回返事が返ってくると嬉しい。
口数が少ないし、何を考えているのかわからないけど、そこがいい。
松島のことが好きという子は多いようだけど、
わたしが一番話をしていると思う。

バスケをしている時が一番好きで、真剣に頑張っているし、
上手い。素質があると思う。わたしは密かに誰よりも応援していた。

わたしには一つ下の妹がいる。
わたしより数倍女子力が高く、今年も毎年渡している彼?のような存在の子にあげるらしい。
わたしもあげよっかな、とうっかりもらすと、食いつかれた。
チョコづくりも手伝ってくれたし、アドバイスまでくれた。
好きな人を想いながら妹と作るチョコづくりは思いのほか楽しかった。


で、あんな結果になるとはね。
帰ってくるなり、どうだった?と聞いてきた妹に、
踏まれた。とだけ言った。絶句していた。

忘れよう、なにもなかったことにしよう。
その方が楽だ。
思い出したくもないし、あんな感情に向き合いたくない。
現実逃避ってやつか。
我ながら強い、と思う。靴は脱いでいたな。
さすがに悪いと思ってくれた?
ポジティブな自分に、乾杯。


松島の話

 
俺は女子と話すのが苦手だ。
クールと思われているようだが、何を話せばよいかわからないし、
話せるようになりたいとも思わない。
だけど、みち子は気さくに話してくる。
ただそれだけで、特に何も気にしていなかった。

今日はバレンタインか、めんどくさい。
周りの男子がいろいろ話しているが、ちっとも興味がない。
早く帰りたかったが、一緒に帰るやつらが、なかなか帰らないので
遅くなってしまった。
そうこうしているうちにみち子がチョコを渡してきた。
周りに盛り上げられ、その状況に腹が立った。
思わず、その場の空気を踏みにじるように、踏んだ。
さすがに靴のままだといけないと思って靴を脱いで踏んだ。
チョコにも興味がなく、まわりの連中にあげてしまった。
カバンに知らないうちに入っていたチョコなんかも、全部あげた。
きれいさっぱりな感情で帰った。

家に帰ると、兄がチョコをもらえなかったと嘆いており、
母がハイハイと量販店のチョコをあげていた。
俺ももらった。母はいつも余計なことは聞いてこない。
干渉しないタイプでそれが俺もよかった。
だけど今年は珍しく、チョコもらった?
と聞いてきた。
もらったけど、踏んだ。と答えた。
は???
それから俺は女子の気持ちとチョコづくりの手間とあなたの取った態度は最低と長々と…。
その熱は父にも飛び火し、父からもだいぶ長い間。
最高にめんどくさかったけれど
こんなに俺のことで話してくることは今までになかったなと思い、とりあえず、聞いた。

みち子には悪いことをした。
俺はもうどうしようもできないが、いろいろわかった。
ホワイトデーにはなにか準備すると母が言っていた。
踏まれなければいいけどね、と。

バレンタインデーは金曜日だったので週明けの月曜日には
みんな何事もなかったかのように戻っていた。
みち子とは気まずかったが、時間が経つにつれて普通になった。
でも、結局、ホワイトデーにみち子は風邪をひいて学校を休み、渡せなかった。カバンに入ったままの箱を俺はそのまま持って帰った。
ごめんとだけ書いた手紙を渡そうか、勇気をだしてチョコをくれたみち子になにか返事をしなければと頭をフル回転させた翌日、
今度は俺が熱を出した。


#わたしのバレンタイン  


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