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肢体不自由でも一人暮らしができる街


肢体不自由の息子が、親元を離れて一人暮らしをする。

健常者にとっては、特に問題がないことであっても、障碍者にはとても大きな課題に直面することがあります。

健常者ならば、どうってことのない小さな段差であっても、脚が不自由なものには、簡単には乗り越えられない大きな段差になるからです。


特にうちの息子の場合、自立歩行はできますが、主治医から「長距離の歩行」「階段の上り下り」「長い時間、立ち続けること」「重い荷物を持っての移動」を避けるように言われていたため、高校を卒業するまでは毎日、親の車で学校へ送迎していました。

そんな状態の中で「初めての一人暮らし」にチャレンジしたわけですが、特に一番心配したのは、

無理をして身体を壊す

ことでした。

障害の状況によって、歩行できる距離や持てる荷物の重さが個々に違ってきます。健康な体なら「歩けば歩くほど健康にいい」と言われますが、ハンディキャップがある身体だと、自分のキャパを越える距離を歩くと、歩きすぎで骨に負担がかかり、身体を痛めることにも繋がるのです。

親元を離れて一人暮らしをする場合、もう、親が車で送迎するわけにはいきません。自分の足で移動しなくてはいけません。

そう考えた時、「アパートから大学まで、自力歩行でも身体に負担がかからない移動ができる場所」を探す必要がありました。

これは、イコール

どこで暮らすのか?

ということにも通じます。

「どこで暮らすのか?」問題…。きっと、うちの息子だけでなく、全国の肢体不自由の皆さんにも通じる、とても大きな課題ではないか…と思います。そう、肢体不自由者にとって、一番大きなハードルは「移動手段」なんですよね。

免許をお持ちの方で自動車が運転できる場合であっても、天候が悪い日に駐車場まで移動しようと思うと、(特に車いすの方は)非常に大変でしょうし、また、自力歩行ができる方であっても、(電車やバスの利用だと)部屋から駅までの道のり、また駅の入口からホームまでの距離…等、結構歩きます。そうなると、障害の状況を考慮しながら、なるべく体への負担が軽く済むように、トータルで「移動」を考えなくてはいけない…。これがなかなか大変なのです。

あと、冬に降雪や凍結がある場所も、肢体不自由者にはとても大きなハードルになります。麻痺があると「冷え」は体を硬直させます。また、滑って転倒することは身体を壊す大きな原因にもなります。ですので、できたら避けたいところですが、一人暮らしだと、雪で外出が困難だからと部屋に引きこもってもいられません。

いろいろ生じる困難さを考えると、(最初から)雪が降らない、あるいは雪が少ない地域を選択することも、初めての一人暮らしには重要です。

うちの息子は、長距離の歩行や長時間立ち続けることが難しいため、まずは「移動時の負担が少なく済む場所」を探すことから始まりました。また、冬季間の移動で雪道を歩くことも当時は難しかったので(実家では車で移動していました)、雪や凍結の心配が要らない場所を考えました。


こうしていろいろ考慮し、実際に行ってみて「ここがいい」と感じたのが、京都市でした。

周囲を山で囲まれていて、自然が多い点。

京都駅に出れば、実家がある高山へも高速バス一本で自由に行き来できる点。

高層ビルがなく街全体がゆったりした雰囲気で、それほど圧迫感がなく、ゆとりをもって暮らせそうな点。

更に、京都市内で、息子の身体を見守ってくださる良い整形外科の先生を紹介していただけたこと。

そして、何より、市バスが移動のメインになる…という点。

この市バスが、結構ポイントが高くて、息子の足にとても合っていました。


京都を観光で訪れたことがある方は、市バスを利用された経験がおありだと思いますが、市バスが市内至る所を走っているので、バスを利用すれば「行きたい場所」に自由に行くことができます。

駅入口からホームまで、通路を歩いたり階段を上ったり下りたりして、かなり歩かなきゃいけない「駅」と違って、バスはバス停まで行けばそれでOKなので、歩く距離を抑えることができます。

しかも、京都の市バスは、バス停とバス停の距離が短めなんですよね。

バスに乗ると、すぐに次のバス停に到着します。これは肢体不自由にはありがたいことで、バス停まで長い距離を歩かなくても済むので、脚への負担がかなり減らせるのです。

あと、京都なら安心だ…と感じたのは、街を歩く住民にお年寄りが多かったことです。変な観点で驚かれるかもしれませんが、「お年寄りが多く街を歩いている」ということは、お年寄りにやさしい街づくりをされている…ということでもあります。つまり、高齢で足が悪いお年寄り(移動困難者や弱者)でも、安心して出歩けるような配慮がある…ということなんですよね。ですので、お年寄りが市バスに乗ってお出かけしていたり、街中をお買い物で歩いていらっしゃる様子をお見掛けして、「ここなら足の悪い息子でも、一人でやっていけるかもしれない」と希望を感じました。

更に、大学は、障碍学生の受け入れを親身になってやってくださるところで、息子の入学時も手厚く配慮していただきました。この点でも「京都でよかった」と心から思いました。

息子は京都市内の大学を2つ受けて、どちらも合格したんですが、この京都での受験時、うちの息子より重い障害を持つ受験生の姿を見かけました。重度障碍者の受験が普通になされているところに、嬉しい衝撃と良い刺激をうけました。

実は、同じ頃、他の地方の大学の中で、「障害学生はお断り」と受験要綱にやんわり記してあった大学があったんですよね。(これはちょっとショックでした。今は変わったと思いたいですが…)

それを思うと、京都の大学はどこも障碍者への理解が深くてありがたい…と感じました。さすが福祉の先進都市だなぁ…と感心しました。



こうして、息子の一人暮らしがスタートしましたが、日々過ごしていく中で、息子は徐々に体力が付き、甲斐性もつき、移動も自分で工夫してこなせるようになりました。

途中で無理が生じて一人暮らしが立ち行かなくなったら、その時はサッと部屋を引き払って実家に連れて帰ればいい…と思っていましたが、想像以上にうまくいき、無事に大学4年間を過ごすことができました。


今、息子は、実家があるこの地元に帰ってきて、ここでも一人暮らしを続けています。

息子のアパートは職場に近い所ではありますが、この間をバスは走っていないので、障碍者用の自転車で通勤しています。また、天候が悪い時や長距離の移動の時は、タクシーを利用することもあるようですが、多くは、同僚の友達の車に乗せてもらっているようです。もちろん借りを作ってばかりではなく、お互いに助け合う形で仲良くやっているようです。

身体が不自由な人でも、安心して暮らせる街。

これは、身体が不自由な人だけでなく、全ての人にとっても暮らしやすい街なのではないか…と思います。

設備や環境も大事ですが、そこに暮らす人々の息づかいや価値観、暮らし方、生き方…等が、「その街の暮らしやすさ」に繋がっていくように感じます。



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