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【脳波解析】位相ベースのコネクティビティ(ISPC)

 本ページでは「Analyzing Neural Time Series Data Theory and Practice」(Mike X. Cohen and Jordan Grafman)のChapter26をベースに、位相ベースのコネクティビティについて、説明をしていきます。

前回のnoteはこちら↓

ISPC(時間/トライアル方向)

 ISPCintersite phase clusteringの略で、電極/ボクセル/ニューロン間の位相角差の極空間でのクラスタリングを簡潔に説明したものです。ISPCは時間方向(ISPC-Time)及びトライアル方向(ISPC-Trials)に分けることができます。時間方向のISPCは、1回の試行に対する連続時点にわたる位相角差分布を用いて計算し、トライアル方向のISPCは、複数試行にわたるある1時点に対する位相角差分布を用いて計算します。
 時間方向のISPC(ISPC-Time)は以下の式で説明されます。

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ここで、f=周波数帯、 n=time point数、 x,y=チャンネル、t=時間、Φ=位相です。一方、トライアル方向のISPC(ISPC-Trials)は時間方向のISPCに似ていますが、タスク関連の位相ベースコネクティビティを評価するのに使えます。
 それでは、どっちを使うべきなのでしょうか?時間方向のISPCについて、まずトライアル間のジッターに強いことがあげられます。これは、トライアル間の位相差を扱うため、位相ロックしていないコネクティビティを見ることができます。また、これに繋がることとして、時間方向のISPCは非位相ロック(non-phase locked)と位相ロック(phase locked)なコネクティビティの両方を含んでいます。イベントトリガーがテンポラルジッター(トライアルごとの時間のずれ)していても、チャンネル間のジッターを考慮する必要がないためです。さらに、ジッターしやすい高周波帯でのコネクティビティの算出に有効です。しかし、時間方向にクラスタリングするので時間分解能が下がってしまうという欠点があり、特に低周波の場合は(特にくっつきすぎている場合)他トライアルに漏れる危険があります。一方、トライアル方向のISPCについて、時間により厳密なためTask related modulation に対してはより強力なエビデンスとなります。また、刺激にタイムロックで時間分解能が失われないため、10~100ms オーダーのコネクティビティの時間変化を見たければトライアル方向のISPCを使うべきだそうで、ERPにも使えます。一方、ジッターに対しsensitiveであることに注意しましょう。
 ISPCとパワーの関係ですが、振幅と位相はほぼ独立なので、振幅が0の場合を除き(振幅0の時は位相が測れない)、ISPC はパワーの影響を受けません。

ISPCにおけるトライアル数

 (ISPCに限った話ではないですが、)トライアル数がある程度多くないと安定した結果が得られず、ランダムでもある程度数値が出てしまいます。そのため、40トライアルを目安とし、40トライアルあれば、平均ベクトルが安定します。さらに当たり前ですが、時間方向よりトライアル方向のISPCの方がsensitiveです。そのため、そもそもトライアル数多いような実験デザインをしましょう。、また、トライアル数が少ないときは、トライアルの影響を補正した指標を使いましょう(Vinck et al. 2010)。

wISPC-Trials

 wISPC-Trialsはweighted ISPC-Trialsの略で、トライアル方向のISPC(ISPC-Trials)とトライアル変動行動/実験の統計的関係性を見たいときに使えます。計算方法はwITPCとほぼ一緒で、1電極の位相角ではなく、2電極の位相角の差を使います。wITPCはコネクティビティをボリュームコンダクションから切り離すのにも使えます。というのも、wISPC-Trialsが顕著であり、かつパワーとトライアル変動の変数に類似した相関がない場合、トライアル変動の位相角差(phase angle differences)はボリュームコンダクションが原因である可能性が低くなるためです。

コヒーレンス

 コヒーレンスとは、ISPCをパワーで重み付けしたものです。ただし、パワーの影響を受けすぎてしまう可能性があるため、周波数帯ごとにbasline subtractionをする必要があります。

位相のずれをベースとした測定 (Phase lag based measures)

 位相のずれをベースとする場合、0位相 / π 位相のずれはvolume conduction の恐れがあるので避けましょう。この測定には様々なやり方があります。
1)Imaginary Coherence (Nolte et al. 2004)
 ボリュームコンダクションによる偽の接続性を気にせずスペクトルコヒーレンスを適用する方法で、コヒーレンスの位相部分の虚部だけを使います。
2)Phase Lag Index (Stam, Nolte, and Daffertshofer 2007)
 位相角差(phase angle differences)が複素平面上の実軸or虚軸に対してどの程度分布しているかを測定する方法で、以下のように計算することができます。

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ここで、imag(S)はタイム(またはトライアル)ポイントのクロススペクトル密度の虚部を示しています。
3)Weighted Phase Lag Index(wPLI) (Vinck et al. 2011)
 Phase-lag indexの考えを拡張したもので、位相角差が実軸からの距離を元に重み付けされます。計算方法は以下の通りです。

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4)Debiased Weighted Phase Lag Index (Vinck et al. 2011)
 wPLIの考えをさらに拡張したもので、トライアルの数をいじることで、サンプルサイズによるインフレを補正することができます。
5)Phase Slope Index (Nolte et al. 2008)
 直接的な位相ベースコネクティビティを測定する際に発達した考え方で、異なる周波数帯において時間のラグのサイクルが比例している時、そこにはコネクティビティがあると考えます。例えば、10msの位相遅れがある時、5Hzでは 0.05サイクルの遅れ、10Hzでは0.1 サイクルの遅れとなる。このslopeが隣り合っている周波数帯でずれが一定なら、directed connectivityがあると考えられます。ただし、Bidirectional connectivityは見れないため、他の指標と合わせて使うべきです。

 Phase lag based measuresでは、Preferred phase angleが安定でない(スムージングやウェーブレット変換の段階で周波数特性が微妙にぶれる)と値がブレてしまいます。時間変化により、どこに情報位相が集まるかが異なります。そのため、条件間でpreferred phase angle が違う時は気を付けましょう。

結局なに使えばいい?

 考えるべきは、①仮説ベースvs. 探索的、②Time vs. Trial、の2点です。①仮説ベースvs. 探索的について、仮説があるなら ISPC & Volume conductionの検証で十分です。ISPC が最もsensitiveで、仮説がある&少ないコネクティビティならば、volume conductionの検証ができます。また、探索的なら 上記のPhase lag based measuresやimaginary coherenceを使いましょう。ただし、全コネクティビティの volume conduction をチェックするのは難しいです。
 ②Time vs. Trialについて、高周波帯での活動を見たい時、またはresting stateなど時間が長いタスクをするときは時間方向の位相ベースコネクティビティ、低周波での活動がみたい時、または素早い反応を見たいときはトライアルベースのコネクティビティに着目するといいでしょう。

Mean Phase Angle

 ISPCによる位相角のコネクティビティに着目することでいいことが二つあります。一つ目が、2つの電極間の位相/時間遅れを提供する点です。位相遅れの単位はラジアンを含んでいますが、以下の式でmsに変換することができます。

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ここで、Φはラジアンで示された位相角差を表します。
 二つ目に、v-testを用いて、ある位相角が、他のある位相角と統計的に有意な差異があるかを検証することが出来ることです。

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ここで、n=サンプル数、φ=観測された位相、Φ=preferred phaseで、φとΦの差分を取ってます。標準正規分布になるので、そのまま p 値に変換できます。ただし問題点もあり、データ数が多いとデータの半分が "significantly equal to" になります。また、極座標で一周回ってしまいます(symetric; i.e., cosであるため-π/6とπ/6が同じ)。また、0or1になりやすくFalse positive が多い(5-6%)です。そこで、著者はgv-test(Gaussian v -test)を提案しています。これは、以下の式で計算ができます。

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ここで、n=サンプル数、φd = φ - Φで、gv-testの良い点として、まずデータ数が多くても大丈夫であることがあげられます。また、極座標で一周回ってしまうため、0か1かになりにくいです。さらに、v-testに比べ、False positive が少なくなります(0.5%ほど)。


最後に、このノートにスキを押してくれると、とても嬉しい&更新のモチベが爆上がりします!ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
<謝辞>
このnoteを書く上で、弊ラボの坂本嵩さんにご協力いただきました。ありがとうございます。

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