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【脳波解析】複素ウェーブレット変換

 本ページでは「Analyzing Neural Time Series Data Theory and Practice」(Mike X. Cohen and Jordan Grafman)のChapter13をベースに、複素ウェーブレット変換について、勉強していきます。
前回のノートはこちら↓

複素ウェーブレット変換(cmw)の基礎的理解

 複素ウェーブレット変換(cmw)は、EEGデータから、シグナル/パワー/位相の3つの情報を抽出するのに用いられます。"複素"という名前からもわかるように、cmwは実数部分と虚数部分を含んでいます。これは、各データを区別し、独立性を持たせるためです。cmwの考え方は、ヒルベルトに応用可能となります。複素数2次元座標に落とし込む際、
直交座標:x/y 軸がそれぞれ実数/虚数
極座標:原点からの距離と軸に対する角度で表す
の、どちらの方法でも表すことができます。
 複素ウェーブレット変換は、その名の通りベースはウェーブレット変換にあり、オイラーの公式を導入することでウェーブレット変換の性質を拡張します。そのため、計算方法はウェーブレットと同じように、sin波とガウシアンの掛け合わせとなります。cmwを用いた畳み込み処理の結果を極座標にプロットすることで、以下の情報が抽出できます。
1) シグナル(実数部分)
2) パワー(原点からの距離 M)
3) 位相(位相角 θ)
これからわかるように、実数情報は脳波解析で利用できますが、虚数情報は利用されません。また、ウェーブレット変換は時間窓の調整をしているのではなく、元のウェーブレットを引き伸ばしてまとめている(スケーリング)ことに注意しましょう。

畳み込み処理(コンボリューション)によるデータ解析における重要事項

 ここで着目すべき点が5つあります。
1) データの上限下限: 4-60Hz がスタンダード
 これは、4-60Hz は、多くの認知タスクに関わる周波数帯域を含んでいるためです。上限/下限のギリギリを見たい場合には、より広い周波数を用いて解析しましょう。ただし、⾼周波数帯域を扱いすぎると演算に時間を要するため注意しましょう。

2) 周波数のパターン数
 単一ウェーブレットのみの場合、統計的に不十分であり、不充実です。そのため、複数の周波数帯の情報を扱うことで、統計的な情報を充実させ、スムーズな視覚化が可能になります。一方、増やしすぎると計算量が増えたりデータが重くなることもある、というデメリットもあります。

3) 周波数の表示方法
 実際に解析データをグラフにプロットする際、どのように表示をするかにより、見かけの印象が異なります。対照的に周波数をスケーリングする、すなわち、低周波数帯域を引き伸ばしてグラフにプロットすると、低周波数帯域の情報が鮮明になります。一方、線形に周波数をスケーリングする、すなわち、一部の周波数帯を引き伸ばさず、そのままプロットすると、高周波数帯域の情報が鮮明になります。どちらを使うかは、見たい周波数帯によって異なります。また、既にプロットされたデータを見る際にも、周波数帯域を確認してからデータ全体を見るようにしましょう。

4) ウェーブレットの長さ
 最大長に制限はなく、最も周波数の低いウェーブレットが時間窓に収まるサイズにします。通常-2.0~+2.0secあれば十分です。中心を 0sec に重ねることでタイムポイントが奇数になり、コンボリューション処理に適します。なんで?って思った方はこちらの記事をご覧ください。

5) ガウシアンカーネルに用いるサイクル数
 これは、解析時に何を注目したいかによって異なります。例えば、同じデータでも3サイクル用いた場合、時間における変化が明確になりますが、10サイクルを用いた場合、周波数帯域による変化が明確になります。一般的には、3~10サイクルを用いることが多く、理由がない場合には、サイクル数を決め打ちするよりは、いくつかのサイクル数を試した方が良いでしょう。


最後に、このノートにスキを押してくれると、とても嬉しい&更新のモチベが爆上がりします!ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
<謝辞>
このnoteを書く上で、弊ラボの山口立人さんにご協力いただきました。ありがとうございます。

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