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【脳波解析】位相同期解析 (ITPC)

 本ページでは「Analyzing Neural Time Series Data Theory and Practice」(Mike X. Cohen and Jordan Grafman)のChapter19をベースに、位相同期解析(ITPC)について、勉強していきます。

前回のノートはこちら↓

位相同期解析(ITPC)の基本

 位相同期解析(ITPC)とは、位相ベクトルの加算平均を行い、特定電極/周波数/時間での波の一致度を確認するもので、ITPCはIntertrial phase clusteringの略です。ITPCで着目する場所は、
・振幅:ERP
・周波数:時間周波数解析
・位相:位相同期解析
で、メリットとして、周波数成分のパワーだけでなく、活動タイミングの情報が得られることがあげられます(位相見てるからね)。一方、何(タスク、気分、運動?)が原因かわからないか分からない、というデメリットもあります。これをカバーするのがwITPCです。また、原理的に、特にデータが少ないと低周波では解析が難しく、ノイズにも弱い、という欠点があります。
 位相ベクトルの加算平均を行う理由は、波は範囲をもっているため平均を出せないためで、求める際には、ベクトルの向きと振幅が、それぞれ平均位相の値とどれくらい一致しているかを見ます。計算式は以下の通りになります。noteで数式がかけないんですかね、書き方知ってたら教えてください。

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ここで、
e^i2πft:オイラーの公式、n:データ数(トライアル)、k:位相点、
r:試行、πk:時間周波数ポイント
です。数式を日本語に噛み砕くと、"時間周波数tfの位相e^ikをn回のデータ分加算平均する”という意味になります。また、時間周波数プロットでのITPCとは、全てのf, tについてITPCを算出し、3次元にプロットすることを意味しています。

ITPCにおけるトライアル数の重要性/ITPCz

 観測ノイズやエラーは、ITPCの結果に陽の影響を及ぼすため、数値を安定させるためにトライアル数を増やす必要があります。具体的には、最低でも各トライアルについて30回は用意しましょう。また、nをどれだけ増やしてもITPCは0にならず(0.1くらいになる)、⾼周波になるほど、数値を安定させるのにより多くのnが必要となります。それでは、n数が少ないときはどうすれば良いのでしょうか。まずは、30トライアルほど用意できなければ、出来る限り使うのをやめましょう。それでも、どうしてもやりたいときは、まず、条件を揃える、というやり方があげられます。これは、あまりよくないらしい。n数増えてなしいね。次に、正規化することが考えられますが、これはノイズの影響を受けやすいです。そこで、3つめのやり方として、ITPCzです。ITPCzの計算方法は簡単、
ITPCz=n*ITPC^2
で、位相が揃っていれば、トライアルが増えるにつれてITPCzも増加します。

ITPCの限界

 ITPC、すなわち位相同期解析では位相のタイミングが重要です。しかし、位相はパワーと異なり、瞳孔反応などのテンポラルジッター(トライアルごとの時間のずれ)/ノイズ/不確実性の影響をめっちゃ受けます。特に高周波はひどいです。更に、よっぽど0に近い時間が長くない限りは大丈夫ですが、パワーが小さくなると推定が難しくなるというネガティブポイントもあります。
 それだけでなく、冒頭でも軽く述べたように、ITPCの限界として、
1) 何が原因でITPCの値が上がったのかわからない
2) タスク関連ではあっても、同じクラスター内で位相がトライアルで揃ってないと見れない
ということもあげられます。そこで使えるのがwITPCです。

wITPC

 wITPCは、weighted ITPCのことで、トライアル係数ベクトルで各トライアルの位相に重みづけしてITPCをとり、求めることができます。以下、計算式です。

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ここで、b_rは重み(係数)ベクトルのことで、任意のベクトルを用いて、位相活動との相関を見ます。ので、値が⼤きい程、係数ベクトルに関連した位相活動が⾒られます。
 wITPCにも、いくつかの問題点があります。1つ目に、上限がなく、最大値が定義されない、ということです。そのため、係数ベクトルに0~1の正規化をする必要があります。ただし、正規化だけでは、ITPCの2つ目の問題(タスク関連ではあっても、同じクラスター内で位相がトライアルで揃ってないと見れない)が解決できません。そこで、ノンパラメトリック検定にかけることで、解決することができます。ノンパラメトリック検定については、別のnoteで説明しているので、ここでは説明を省きます。ITPCにおけるノンパラトリック検定では、係数ベクトルとの対応がランダムにシャッフルされたデータで、計算されたITPCとwITPCとの類似性を⾒て統計的に有意かどうか調べます。このとき気をつけなければならないことが2つあります。
1) ITPCは低くてもwITPCzは高いことがある
2) wITPCはITPCが強い(位相が揃っている)と強くなるが、wITPCzはそうとは限らない

その他ITPCの弱点

 今まで紹介してきたITPCは、全て位相分布に単峰性(1つのピーク)を仮定しています。そのため、⼭を複数持つ場合(例:1/2πと3/2π)は減弱してしてしまいます。そこで、山を複数持つ場合については、位相分布が⼀様分布(帰無仮説)とどれくらい違うか検定し、位相分岐を使用して、複数条件でのITPC強度の発散をテストする必要があります。

Spike-Field coherence

 Spike-Field coherenceとは、各周波数帯について、発火するコヒーレンス(位相の揃い具合)のことで、ISPCをパワーで重み付けしたものです。これにより、ニューロン群(頭⽪脳波)同⼠じゃなくて,シングルユニットの電極とのコヒーレンスとかも⾒ることができます。強い。

結局どれ使えばいいの?

このnoteでは、いろんなITPCを紹介してきました。じゃあ、実際の解析では何を使えばいいの?となりますが、具体的には、
ITPC:トライアル間での位相の同期具合を⾒る
ITPCz:トライアル数が⼀致してなかったりする時の⼯夫
wITPC:任意のベクトル(回答/回答時間/IQ)と位相活動との相関を⾒る
といった具合です。それぞれ、一長一短あるので、使うときには何故その解析手法を取ったかをちゃんと説明しましょう。


最後に、このノートにスキを押してくれると、とても嬉しい&更新のモチベが爆上がりします!ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
<謝辞>
このnoteを書く上で、弊ラボの後藤優仁さんにご協力いただきました。ありがとうございます。


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