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海外の医療制度⑦ シンガポール 後半


医療制度に入る前に、シンガポールの社会保障制度について触れる。
シンガポールには国民に貯蓄を半ば強制的に行わせる仕組みがあり、これはCPF制度(Central Provident Fund=中央積立基金)と言う。
給与額の一定割合を使用者及び労働者が労働者個人の口座に積み立て、その使徒に応じて使われるようになる。口座は以下の3種類ある。

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画像:Singapore CPF Board Youtube より

普通口座(Ordinary Account (OA)):退職後の公共住宅費、子供の教育費など
特別口座(Special Account (SA):退職後の生活費など
医療口座(Medisave Account (MA):入院費の支払い、医療保険など、医療費の為の口座

55才になるとOAとSAが統合され、退職口座(Retirement Account(RA))が作られる。このRAのプールの残高に応じて65歳から年金として支払われるようになる。この口座は55才から引き出せるようになるが、政府が運用しているので、プールをしておくと、その元手で65才までによりお金を増やしてくれる。

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また希望する支払額に応じてプランを決めることもできる(CPF LIFE Plan)。生前の生活費用を多めにとりたい場合はStanderd Plan、対して遺産を多めに残したい場合はBasic Planとなる。
また、日本と同じく、年金を受け取る時期を遅らせても良い。その場合は遅らせた分だけ支給金額は増える。

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ちなみにこの積立に関しては2.5%超の利回りを政府が保証しているのだからすごい。さすが投資国家というべきか。

さて、医療費も同じく医療口座(MA)と言う口座に入り、プールされている中でやりとりがなされる。使わなかった分は制限があるものの、年金として受け取る事もできるようになっている。
所得や年齢ごとに拠出割合が決まっており、給与天引きのため、所得が高いほどMAに沢山の資金がプールされるようになるため、より質の高い医療が受けることができる。
大体の目安だが、55歳までは給与の37%が3つの口座に振り分けられ、医療口座は8-10.5%、55歳以降は天引き率も下がってくる。シンガポールも高齢化が進み、医療費支出が増えている。そのため、政府は2015年1月よりCPFへの雇用主の拠出率を引き上げるとともに、医療口座への振分率を1ポイント引き上げている。

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出典元:https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/17/dl/t5-10.pdf
シンガポールの医療制度は以下の3Mと言われる保険制度から構成されている。
①Medisave
②Medi SheildLife
③Medifund

MedisaveはMAに積み立てられた資金から拠出。入院費用、日帰りの外科手術、特定の慢性疾患の外来の医療費に使うことができる。ちなみにここに入らない一般外来はMAからの拠出は不可で、全額自己負担になる。
Medi SheildLifeはMedisaveではカバーできない多額又は長期にわたる医療費支出を支援する医療保険。長期の入院や抗がん剤治療などの一部外来にも適応可能。2015年より国民全員が入るように義務づけられた。掛け金はMAから支払うことができる。また、入院治療に関しては民間病院などの高いクラスのものはカバーできないため、民間保険(IPs)に入ることが推奨されている。この民間保険料もMAから支払うことが可能だ。
Medifundは医療費等が支払えない低所得者に対するセーフティネットとして、政府により設立された基金。自分のMA(Medisave、Medi SheildLife)、現金、民間保険も全て使い尽くした場合の不足分に支給される。

次に医療機関について見ていく。
シンガポールは公が運営しているポリクリニックと民間クリニックに分かれる。ポリクリニック18施設に対して、民間クリニックは1500施設もある。プライマリーケアの8割は民間クリニックで行われているという。
民間クリニックはポリクリニックの5〜20倍の費用がかかるという。ある話だとポリクリニックは待ち時間が長くて医者も選べないということであまり人気ではないらしいが、公的医療機関で三大といわれている以下の病院に関しては投資をして施設も充実しているイメージだった。
シンガポール国立大学病院:NUHS
シンガポール総合病院:SGH
タントックセン病院:Tan Tock Seng

タントックセン病院に関しては2018年に見学をしてきたので少し紹介したい。
資産家であるTan Tock Sengが、1844年にシンガポールに病院を建てるための資金をスペインに寄附をしたのがはじまり。TTSH(Tan Tock Seng Hospital)と略される。
・シンガポールの中でも最も古い病院のうちの一つで、1961年に政府の管轄になった。政府から運営を任された医療グループが運営している。
最先端の医療技術の導入と実践を行っており、同系列のグループが他のポリクリニックも各所に展開している。
イオンモールかと思われるくらい1階の吹き抜けがしっかり作っていて、館内全体に余裕がある。スタバも中に入っていて、ここには表記の人が集まるような感じがない。フードコートも人で賑わっており、長時間いて元気を吸い取られるような雰囲気ではなかった。
薬局も興味深かった。病院内の調剤をさばいているため、激混みだったが、過去においてはもっと壊滅的な状態だったらしく、現在はシステムを活用してうまくさばけるようにしている様子が伺えた。
例えばOPASという処方薬の充填プロセスを自動化し、特定の医薬品の手動ピッキング精度を向上させるシステム。調剤室ではロボットが処方箋にしたがって薬をピッキング。患者ごとの薬剤が入ったかごをベルトコンベアー奥から流し、投薬台後ろにあるロボットアームが薬かごを指定された棚にセット。薬剤師が棚からかごをとり、投薬台に持っていき監査・服薬指導を行う。基本その場で作業が完結するため、薬剤師として集中できる環境が作られている

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写真:地下の外観から。投薬台は奥で緑に光り輝いているのが薬カゴの棚で、指定の棚に後方のロボットアームが薬カゴをおいている。

最後に、シンガポールはヘルステック系のスタートアップのエコシステムが政府が後押しして進められている。国の病院はその技術を受け入れ先になることもある。企業とのコラボは比較的意欲的な印象を受けた。
National Healthcare GroupのMedical Innovation&Technologiesセンターの担当者によると、実際に連携してどれだけ成果が上がったのか、プロトコルを作って検証するプロセスを踏むということをお話しされていた。

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写真:病棟に接続する形で建てられたというHealthcare Innovation center(2018年11月段階)。撮影時は内装はまだこれからという状態だったが、現在はどのような使い方をされているのか興味深い。

ちなみにタントックセン病院はNovenaという医療施設が集合した地域に位置する。このエリア自体を2030年めどに統合されたヘルスケアコミュニティーにするための、マスタープランが建てられており、急ピッチで整備が進められている。2016年くらいからこの辺りを通っているが、医療関連施設の建物がどんどん建てられている。

確実に高齢化の波が差し迫るシンガポール。アジアのヘルスケアのハブを
目指しているハイテク国家は、メディカルツーリズムも積極的に推し進め、医療を産業にしようとしている。
”自分の健康は自分で守る”のスタンスは堅持しつつも、その先には医療とwellbeingが密接に結びついた、豊かな暮らしを想起させるコンセプチュアルな構想が進みつつある。今後の展開に注目していきたい。


参考文献:
CPF Retirement Sum – How Does It Work and How Much Do You Need?
2016年の海外情勢

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