キャストを観に行く芸能か、面白い物語を観る芸能か

演劇の研究者が「宝塚歌劇は作品の内容以上にキャストを観に行く芸能である。だからこそ作品自体が大概トンチキでも、ファンが作品の中にキャストの素敵なところを見出せたら通ってくれる」と言っていてハッとしたことがあります。

そして、「キャストを観に行く」というのは単に「劇場に観劇をする」というだけじゃなく、宝塚音楽学校を出て高校生くらいの年齢の少女が、経験を積んでいって大階段をトップスターとなって駆け下りる成長を見守ったりする、いわゆる「推し事」も含まれると、(件の先生はそこまで考えているかは知りませんけど)私はそうは感じたわけです。

それと比べるとまだまだラブライブというのは「キャラクターを観る芸能」であるとか、「面白い物語を観る芸能」という受容のされ方がかなりが強いように思えるのです。

さて、「面白い物語」とはそもそもなんなのか。それを解き明かすヒントがこちらには有ります。

『キャラクター小説の作り方』(大塚英志著)によれば物語というのはだいたい以下のパターンで示されているそうです。(第8章『お話の法則を探せ』より引用)

  1. 何かが欠ける

  2. 課題が示される

  3. 課題の解決

  4. 欠けたものがある状態に戻る

たとえばドラえもんなら、1.ジャイアンにいじめられて、2.ドラえもんがひみつ道具を出す、3. ひみつ道具を使う、4.ジャイアンに仕返しをするとなるわけですし、無印一期なら1. 廃校危機に陥る、2. スクールアイドルを結成する、3. メンバーを集め活動をする、4.廃校問題が解決するということになるのでしょうか。

で、ことりの留学とか、のび太が調子に乗って悪用しだして自滅するとか、もう1展開があったりしますけど、基本的には「何かが掛けて、それを戻す(かあるいは代わりのものを見つける)」というのがお話の基本ですけど、それらだって、「欠落」→「回復」と言って言えなくは有りませんね。

で、問題はここからなんですが、アニドルをアニメにすると、1.主人公が新しいことをやりたいと思う 2.アイドルに出会う 3.メンバーを集めたり、練習する 4.ライブに成功するみたいな展開になりがちというか、それしか基本的にやりようがないのです。

思えば、アニガサキの一期って実にこの展開に忠実でしたし、逆にラブライブ!に出るだの、進級したら新メンバーだのって、リアルじゃ当たり前にやることだし、むしろやらないと3年後には人がいなくなるものだけど、物語でそれやるには、それでは不十分。新メンバーを入れる説得力、すなわち「新しい欠落」と、「メンバーを入れないと欠落を解決できない」と受け手に納得する何かがないと意味がないと思うのです。

さらにいえば、スポ根だのなんだの言われているけど、この作品でいちばん大事なへその部分というのはじつは仲間集めで、そのあとの大会で優勝するというのはそんなに大事じゃないと思います。そこはスタッフも承知している(と思う)から、大会は書き割りであっさりと流してしまうのです。

だからといって、仲間集めの結成秘話だけなら1クールで終わってしまう。冗談半分で、「結成話やったら、あとはにじよんみたいなワチャワチャでいいだろ」と言っていたりするけど、実際には、(主に商業的な要求から)できるだけ多くアニメを、それもSDじゃなく本格的な30分アニメを作るべきと考えているのだろうと思うのです。

正直なところ、ラブライブというコンテンはきちんとストーリーが完結するタイプをとるキャラクター展開と、その先10年続けるようなキャスト展開という矛盾と、「キャラクターや面白い物語を観る芸能」と言う宿命からは逃げられないのです。

もちろん一番手っ取り早いのはキャラクター展開を辞めるということではあるけど、他のアイドルとの差別化という意味においても、サンライズが製作しているという意味においても、おそらく頭にはないのでその範囲内でアイディアを弄りだすしか無いのです。

その矛盾の解消へのアイディアが、宝塚好きの手塚治虫が宝塚を参考に取り入れた「スターシステム」を取り入れたヨハネであり、もしかしたら、蓮ノ空もリンクラ展開を終わらせても活動記録を何期にも分けてアニメ化するという方針なのかもしれませんし、それならキャストの活動とキャラクターの活動はかなり一致させられるはずですし、個人的にはリンクラ路線に進むしか無いのかなという感じはある。

しかし、With×Meetsなんて随分斬新なんだとおもいますけど、特に売出し時期は今のタレントなんてSHOWROOMとかで連日配信をするなんて三次元では当たり前になっているわけですから、キャラクターもそうあるべきという考えはわかるけど、蓮ノ空が未だにLiella! ほど外部出演がないのは「配信が負担になっているのでは」という気はするし、かなりハイコンテクストなコンテンツではあるから、なかなか異次元フェスまで人が来なかったとも言えるんですよ。

まあ、ラブライブ自体10年もやっててかなり敷居が高いハイコンテクストなコンテンツになってるだろうし、外部出演なんて演出(収録したものを流す疑似生放送配信とか)だったりとか、メンバー増やしたりして、少なくても違和感を持たれない工夫をするしかないんだろうけどね。

例えば、リンクラに出つつ、舞台出演なら2ヶ月はそれに掛り切りになって、その分穴が空くけど、そこはみんな承知の上でくるものだと思うけど、そのあたりをどういう言い訳するのかという楽しみは生まれるのかもしれない。「鈴原希実が暇なときじゃないと配信できないVTuber」とかもあるしね。


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