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こんなときどうする?「職業未決定の学生を早めに支援する」

<こんなときどうする?シリーズ>

第2回目のテーマは「アレコレ考えすぎたり、不安や恐れが先立って、なかなか意思決定ができず、職業未決定の学生」を支援するための AREYA KOREYA を書いてみます。

 リクルートが運営する就活支援サイト「リクナビ」の2023年4月1日時点における調査によると、就職内定率(大学院生を除く)は48.4%で、同じ時点の昨年(2023年卒対象)の38.1%に比べ、10.3ポイントも上回る早いペースだという報道がありました。新年度になって早々ですが、大学のキャリアセンター等で学生のキャリア支援をされている方々は、「未決定」の学生は、「職業未決定」と「就職先未決定」という大きく2つの異なるタイプに分かれることを意識したうえで支援をしていく必要があります。

職業未決定と就職先未決定は、全く異なるタイプです。


​前者の「職業未決定」は、​大学生などが卒業後にどのような職業に就くか決めていない状態を指し、​後者の「就職先未決定」は、​就職活動をしているが、​まだ具体的な就職先が決まっていない状態を指します。​「就職先未決定」の場合、学生は既に就職活動をしており、求人にエントリーをしているので、ステイタスとしては求職者になっています。​一方、​「職業未決定」の場合、​求職者としてのステータスはなく、​進路決定に向けた支援が必要とされます。​また、「就職先未決定」の場合は、​学生自らの意思で就職先を選択することができますが、「職業未決定」の場合は、​自分自身の適性や興味を考慮して、​どのような職業に就くかを決める必要があります。しかし、実際には、大学4年生の4月、5月の時点でその前段階で何かしらの困難や問題を抱えている場合が少なくありません。


図1 「職業未決定」と「就職先未決定」の異同

職業等のキャリア選択に関わることに関して一時的に困難を抱える職業的優柔不断(vocational indecision)とは異なり、日常の些細なことやキャリアに関連しないことも含めて、あらゆるタイプのの意思決定を行なうことに対して、より永続的で全般的な困り感を持っていることを優柔不断(Indecisiveness)と言います。

Gati、2013

 このような特性的な傾向が、キャリアの意思決定プロセスにおいて問題の原因となることがあります。このよう優柔不断は、認知、感情、アイデンティティ、関係性要因と関連付けて以下のように分類することができます。

(1)仕事の世界や 自分自身がコントロールできることに対して悲観的な見方をもっている
(2)自尊心の低さや 自己の確立が十分されていない状態
(3)日常の生活全般に渡る不安
(4)自分のキャリア選択や それに伴って生じるであろう結果や不確実性に対する不安
(5)家族の人との間の対立・葛藤や分離など 

Saka&Gati,2007

 クライエントが、日常生活の中で繰り返しなんらかの意思決定をすることに対する困難を訴える場合、図2のような図を紙に描き、その図を見せながら「優柔不断というものは一般的には2種類の原因から生じているんだよ」と説明してあげましょう。具体的には悲観的な見方と不安によるものがあり、どちらもごく一般的なものです。


図2 「優柔不断」の概要

 悲観的な見方をしている人は、自分自身や世の中に対してネガティブな見方をしている場合が多いです。自尊心が低い場合は、特に個人としての自分に対する価値観に関連する悲観的な見方として理解することができます。

  このようなモデルをクライエントに紹介した後、「この中にあるどのようなことが、あなたが意思決定しようとする時の妨げになっているのかな?」と質問してみましょう。その回答によって、以下のような介入目標を立てることができます。

(1)悲観的な見方を減らす
(2)自尊心を高める
(3) 間違った意思決定をするのではないかという恐れを取り除く
(4)不確実性に耐えられるように支援する
(5) 選択することに対する不安を和らげる
(6)一般的な不安に対処できるようにする
 (なお、家族の人との間の対立・葛藤や分離の問題は、国家資格キャリアコンサルタントの知識や能力を超える対応が必要となると考えるため、割愛します。)

悲観的な見方を修正するには?

悲観主義とは、世の中や自分自身の存在を否定的に捉え、常に最悪な事態を想像する傾向が、比較的一貫して存在し続けていることを指します。ある特定の状況下では、この傾向は適応的で防御的である可能性があります。なぜなら、この傾向があることによって、その人は何がうまくいかないかを予測し、結果として望ましくない障害を回避することができるからです。

Stadleret al.

しかし、

悲観主義のレベルが高い人は、楽観主義のレベルが高い人に比べて、抑うつ症状や身体症状が多く、対処戦略も少ないことが報告されています。

Scheier &. Carver, 1992

悲観主義は、認知の歪みと呼ばれるネガティブで、ときとして非現実的だと考えられるような世界の認識のしかたと関連しています。 これは、認知的なエラーにつながり、個人が特定の状況で自分の環境、スキル、または個人的なコントロールを評価するときに発生する可能性があります

Beck and Alford ,1967/2009

認知の歪みには、以下のようなものがあります。

(1)恣意的推論
(2)過度の一般化
(3)選択的な注目
(4)過小評価
(5)拡大解釈
(6)個人化
(7)二項対立的思考

Cungi, 2006

図3では、このような認知の歪みについて、簡単に定義や例を示し、それを修正するための方法を挙げてあります。


 図3 「認知の歪み」の概要

柔らか頭になってもらおう!

 このような認知の歪みに面談で遭遇した時に、ついついクライエントに反論したくなったり、感情的になってしまうキャリアコンサルタントがいます。その気持ちを抑え、その代わりに、反対の事例を探してもらったり、他にもいろいろ考えられることを話してもらったりして、自分の物事の捉え方や考え方を、ちょっと見直してもらうように促しましょう。「そんなこと、絶対にムリ!」 と言うクライエントには、「 もしこれが可能だとしたら、どのようにすればいいかな?」 と質問するなどして、クライエントが自分自身に対して持っている無力感を質問の形で言い換えるよう促すこともできます(Ilgner、2006)。また、クライエントに「この状況で起こる可能性がある一番良いことは何だろう?」と考えてみることを提案し、脅威よりも好機(チャンス)に焦点を当てるよう促すこともできます。

二項対立的思考(白黒思考)には線分図を書いて話をしてもらおう!

 二項対立的思考(白黒思考)に遭遇したときには、紙にサッと10cmくらいの線を引いて、両端に両極端の言葉(例:「成功」と「失敗」)を書くことで、クライエントの二極化した物事の捉え方・見方を視覚化することができます。そのうえで、この両極端の間にあるレベル分けしたうえで、出来事、スキル、結果、あるいは性格的な特徴などが両極端に偏ることは少なく、むしろ中間レベルや中間レベルに寄る傾向があることを説明します。その後、クライエントには、ここで描いた線を見ながら、二項対立的思考を修正してもらうように促すことができます。


図4 二項対立的思考認知の歪みを修正するための方法

3つの扉のワーク

 ポジティブ心理学による介入方法として、One door closes, one door opens exercise (Rashid, 2008)というものがあるので、ここで紹介します。このワークでは、クライエントに、人生の中で重要な機会(チャンス)に通じる扉が閉まった時(喪失、失敗、不合格等)を3つ考えて、書き出してもらった後に、その失われてしまった機会(チャンス)のおかげで開かれた新しい機会(チャンス)は何だったのか?ということを挙げてもらいます。
そして、クライエントが新しい扉が開かれていることに気づくまでにどれくらいの時間がかかったか、また、その時に気がつかなかったのは何が原因だったのかを振り返るよう促すことができます。このワークをすることで、既に起きたことだけでなく、将来、他の大切な扉が閉まったときに、より早く新しい可能性に気づくために何ができるかを考えることができるため、将来への備えにもなります。

死亡前死因分析(premortem)のワーク

 ちょっとドキッとする名前のワークですが、名前の通り、死亡する直前に死亡する要因を分析するという事です。つまり、実際にその計画が失敗した時のことをイメージして、その失敗の原因や、それを回避するための方法は何だったかと考えることです。これは行動経済学者であり心理学者のDaniel Kahnemanが名著「ファスト&スロー」の中で、自信過剰・楽観主義を治すための方法として紹介していたものです(Kahneman, 2011)。

いまが一年後だと想像してください。私たちは、さきほど決めた計画を実行しました。
すると大失敗に終わりました。
どんなふうに失敗したのか、5 ~10分でその経過を簡単にまとめてください。

Kahneman, 2011

 この方法では、意思決定に影響する2つのバイアスに気付いたり、クライエントが自らの批判的な視点を活かしてリスクを分析することにより、「最悪の事態はすでに起こってしまったのだから、そこから教訓を得なければならない」というような理由で未来を想像できなくなる悲観主義がもたらすマイナスの影響も軽減することができます。

以上のようなことを使いながら、特に優柔不断が原因と思われる
「職業未決定」の学生に対して早め早めの支援をしていきましょう。