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なりたい自分にはなれなかった

 小さい頃、サッカー選手になりたかったんです。W杯に出て活躍したかった。海外リーグに行って活躍したかった。プレーひとつで観客を湧かすことができるような選手になりたかったんです。ロナウジーニョのようなファンタスティックなプレーや怪物ロナウドのようなパワフルなプレーをできる選手になりたかったんです。でも現実の壁はすごく高くてあっという間に挫折してしまいました。今思うと悔しい部分もあります。小さい頃に感じた差なんて大人になってから振り返ってみると頑張りようによっては超えることができたんじゃないかと思えるんですよね。自分の可能性を信じて頑張ればよかった。


 大人になってから、都会の方に出てきて、フットサルと出会いました。フットサル場って、個人参加の人を集めてチーム分けしてくれてゲームさせてくれる日があるんですよね。初めてそれを知ったときは知らない人とボール蹴るなんて緊張すると思いました。でも、なんかあるとき、ふと参加してみようと思ったんです。なんか時々、何者かになりたいタイミングがあるんです。アクティブにそういう場所に参加出来る自分になりたかったんでしょうね。それに趣味がフットサルだったらかっこええかなとか思ったんだと思います。あとは少し太ってたのもあります。思い切って参加してみて思ったのはやっぱし緊張するってことですね。なんで参加したんだろうとも思いました。知らない人ばかりでプレーも上手くできない。他の人に話しかける勇気もない。あー、上手くいかなかったなーと思いました。多分、もう来ることもないだろうとも思いました。個人参加のフットサルが終わって帰ろうとしたとき、1人の男の人が
「明日も仲間内でここでやるんですけど、誰か来られる人いませんか?ちょっと人足りないんです。」
目が合っちゃったんです。
「どうですか?」
まあ、明日も休みだし。
「いいですよ。」
2時間くらいのことですしね。なんかのご縁かもしれないとも思いましたし、そういうの断るの苦手ですし、なんとなくOKしちゃいました。時間を確認してアドレス交換してその日は帰りました。

 次の日も同じ場所に来ました。昨日の筋肉痛を引き連れて。その日も殆ど知らない人ばかりだったんですけど、一度同じようなことを経験しているので前日ほどの緊張感はなかったです。そして少し楽しくなってました。思えば部活のときは勝つためにこうしなきゃいけないとかミスをすると先輩が怖いとかボールをロストしては絶対ダメだとかこういうときはこう動かなきゃとか要らないことばかりに気を取られていたことに気付きました。「ドラゴンジャム」っていうストリートバスケのマンガがあるんですが、そこに「ただひたすら楽しむってのも悪くない」って言う台詞があるんです。どうせ知らない人ばかり、大会でもあるまいし勝っても負けても何かがあるわけでもない。自分のやりたいようにやってみて、ただひたすら楽しむだけってのもいいかもしれないと思いました。

 それから定期的に連絡いただけるようになって、そこからチームにでやってるところにも呼んでもらえるようになりました。チームと言っても寄せ集めです。経験者ばかりでもないし、年齢層もばらばらで男女も混合です。フットサル場主催のその日のうちの午前か午後だけで終わる大会に出るだけです。そういう大会の試合時間って短いんですよね。で、交代もしながらなんで、自分がピッチに出られる時間なんて非常に短いんです。だから、目一杯走りました。その短い時間で自分のやりたいことをとにかくやらなきゃいけない。勝てなくても良いけど、満足感は得たい、欲を言えば点を取りたい。とにかくピッチ上を時間いっぱい走り回りました。毎週、ずっとそれを続けてたら、チームで評価されるようになりました。走り回ってる自分のことをチームメイトが高く評価してくれるようになったんです。それがとても嬉しかったんです。運動神経はあまり良くなかったので、部活で頑張っても評価されることなんてあんまし無かったんです。だから、すごく嬉しかったんです。

 なんとなく個人参加のフットサルに参加してみて、そこで出会った人に誘われてなんとなく続けてみて、毎週チームに参加するようになって、ただ楽しんでたら、みんなに認めてもらえて、こんなのもなかなか悪くない。小さい頃なりたかったのは、サッカー選手でした。ぼくは、サッカー選手にはなれなかった。でもきっとぼくが小さい頃、夢見てたのは、大人になってもボールを蹴っていたいってことだったんです。それを表現する言葉をサッカー選手としか知らなかっただけで、本心は大人になっても友達とボールを蹴っていたいってところだったと思うんです。そう思うと、ぼくはサッカー選手にはなれなかったですが、なりたい自分になれています。なりたい自分になるために血の滲むような努力をしたわけでもないです。頭使って戦略的になりたいものをめざしたわけでもないです。ただなんとなくの好奇心ととりあえず目の前のことを楽しんでたら、なりたい自分になれていました。きっと心の持ち方ひとつでなりたいものになれるんだと思います。

#なりたい自分

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