見出し画像

【漫画】胚培養士ミズイロを読んだ感想と解説(1)


どうも!ぶらす室長です。

今回は、話題の漫画「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」について感想や解説をしていきたいと思います。

「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」は週刊ビッグコミックスピリッツで連載中のおかざき真里先生の作品です。

胚培養士を主人公とした漫画で、現代の不妊治療の現状や課題、患者さんの葛藤などを描いた医療漫画となっています。


何を隠そう私は大の漫画好きで「漫画と学術論文しか読まない胚培養士」として日夜活動しています!

そんな3度の飯の時にも漫画を読んでいるぶらす室長(ご飯の時にはご飯に集中しよう!)
の本業はもちろん胚培養士なわけですが、胚培養士ミズイロの連載が始まった時には「自分の職業がついに漫画化された!」と感激の涙で顕微鏡の接眼レンズがびしょびしょになったのを覚えています。笑

常日頃からたくさんの漫画を読んでいる私ですが、本業がめちゃくちゃ特殊なのでこれまで漫画の解説する機会がなかったのです。
(需要もないので)

バスケを本気でやった事がないので「スラムダンク」は解説できないし、クラシック音楽をやった事ないので「のだめカンタービレ」も解説できない。

医療系とはいえ医者じゃないので「医龍」「コウノドリ」も解説できません。

そんな私につ、ついに!ゴリゴリに解説できる漫画キター!っという事で
「胚培養士ミズイロ」第1巻について感想と解説やっていきましょう!

ちなみに、この記事を書いている時点では3巻まで刊行されていますが、第1巻の内容までの解説として、それ以降は随時記事にしていきたいと思います!


主人公 水沢歩

本作は、水沢歩という男性っぽい雰囲気で描かれた女性胚培養士が主人公です。

この主人公は、まさに「受精卵第一主義」のコテコテの技術者として描かれています。

何よりも受精卵。受精卵にとって良いと思った事は患者だろうが医者だろうがどんどん意見して実践しちゃうタイプ。

ちなみに、胚培養士でこのテの人は多いです。

行動や言動にツッコミどころは多々あるものの、胚培養士が読めば割と共感するセリフが多いように感じました。

アースクリニック

水沢さんが働いているのはアースクリニックというクリニックです。

ここはもう皆さんご存知の通り「リプロダクションクリニック東京」がモデルですね。

外観のビルも内装もそっくり。

※単行本の隙間ページでもリプロのHPでも紹介もされていますので公式という事で。

院長が泌尿器科出身というところまで一緒です。 

漫画を読んでいて勘違いしないで欲しいのは「全ての不妊クリニックがこんなに綺麗で設備が良いわけではない」という事です。

リプロは東京だけでも年間3000〜4000件ほど採卵をしている大規模クリニックですので、培養室にもかなりお金をかけています

もっと物置みたいなところで培養している施設も少なくない(むしろそちらの方が多い)と思います。

さっそくネタバレですが、第3巻で学会に参加するシーンや患者さんに新しい治療法を提案するシーンなどが出てきますが、もうほぼリプロダクションクリニックのドキュメンタリー?ってくらいリアルとリンクしてます。笑

それについては、別記事で!

第1話 声を聴く人

第一話は主に胚培養士という仕事と不妊治療の紹介、水沢さんのキャラクター紹介がメインでしたね。

◯ 「卵の声が聴こえる」

出典 「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」
第1話

連載開始時に物議を醸したこのセリフ。

私は個人的にこのセリフは好きだし、漫画だからこそのわかりやすさの為の表現だと思っています。

もちろん、私に卵の声は聴こえない。笑

でも、近しい事を言っている胚培養士には会ったことがあります。それも1人や2人ではなく。。

私の解釈では「プロの経験に基づく勘」を比喩的に表現しているのだと思っています。

例えば、経験の長いプロのパイロットは機体の微妙なエンジン音の違いに気がつくでしょう。

また、プロの料理人は、食材の見た目ではわからない鮮度や味の差を、手に取っただけで見分ける事ができるかもしれません。

個人的に、胚培養士にもこの「プロの経験に基づく勘」は、あると思っています。

その表現方法は、胚培養士によって違うと思います。

「妊娠しそうな胚が光って見える」とか
「卵が呼んでる」とか
「なんかダメな気がする」とか

そんな事を言っている胚培養士はよく見ますし、自分もたまに言います。笑

なので「卵の声が聴こえる」という表現にそこまで違和感を感じなかった自分がいます。

あと、「聴こえる」の漢字が「聞こえる」ではないところも重要ですね。
(細かい描写だなぁ)


◯ 「この受精卵はちゃんと1つでも育ってくれると思います」


第一話では、育ててくれた祖母のために早く妊娠したい若いご夫婦が2個胚移植を希望するシーンが出てきます。

この時に、胚培養士との面談で水沢さんが放ったセリフが「この受精卵はちゃんと1つでも育ってくれると思います」というセリフ。

これは、個人的にちょっとなぁと思いました。

まぁ、水沢さんの性格をわかりやすくするために、あえて胚培養士としては言い過ぎなセリフを言わせているのでしょうけど。

2個移植を勧めないのはもちろん同意ですけど、新人にツッコまれていた通り「言い切ってはいけない」。

妊娠したから良いものの、しなかったらどうしてたん?と思いました。

水沢さんの胚の目利きの良さも表していたのでしょうけど、自分ならこの言い方はしないなぁと思いました。(責任取れないので)

第3話 果実とプライド②

※第二話は割愛

第三話では、第二話で無精子症疑いとなった治療に非協力的だった夫が改心し、採卵を行うシーンが描かれます。

精子が少なく、顕微鏡下で捜索しながら顕微授精をしなければいけません。

ここで、第二話で患者に化けてクレーム患者を撃退していたイケメン。

アースクリニック室長 一色さんがラボに入ってきます。(本日からアースクリニックに配属されたという設定)

◯ 「精子と卵子のために最適化されている」

ラボに入って早々に水沢さんの精子捜索を手伝い始めるのですが、一色さんのその所作は「精子と卵子のために最適化されている」と他のスタッフが見惚れてしまうほどのものでした。

「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」
第3話

「センスのいい人というのがいる」という前室長の回想が挿入されます。

水沢さんにも「綺麗な手さばきだった」と褒められる一色さん。

さて、この「精子と卵子のために最適化されている手さばき」は実在するのか?という事ですが、

現役胚培養士の私としては「実在するよ」と答えたいと思います。

でも、これに関しても何も胚培養士だけに限った話ではないと思っています。

初めて包丁を握ってトマトを切る人と、プロの料理人の手捌きは素人が見ても明らかに違うでしょう?極端に言えばそういう事です。

ただ、料理人と違うのは「ある程度みんな同じような所作になる」と私は思っています。

つまり、そこまで個性は出ないはずです。

なぜなら「ミスが許されないから」です。

私なら「ミスが発生するリスクを最小限に抑えた所作」と付け加えますね。

あと、たぶん一色さんはセンスだけじゃなくて努力もしているタイプとみた。

センス良いだけじゃダメなんだよ。

第4話 選択①

第4話は、45歳の女優さんが不妊治療と仕事の両立の難しさで悩みながら治療を進めるお話です。

胚移植後に、馬に乗る役をやらなければいけない女優さんは、「胚にとって良くなさそう」という事を理解しつつも、せっかく自分が選ばれた仕事を手放せずに水沢さんに「止めないで」と伝えます。

◯ 「治療と仕事、って片方しか選べないものなんですかね?」

水沢さんが患者さんの前で思わず呟いたセリフです。水沢さんは患者さんに寄り添い「止められません」と伝えます。

この話は、現実の不妊治療と仕事の両立の難しさをとても上手に表現されていてすごいと思いました。

そしてこの後、水沢さんと一色さんの考え方の違いで口論するのですが、そこがとても面白いです。

私は、この二人の考え方の対立がこの漫画の醍醐味だと思っています。

感情と感覚の胚培養士 水沢

システムと効率の胚培養士 一色

一色「(移植後の)行動制限は一律で決まっていて欲しいもんだな、システムとして運用しないと意味がない」

水沢「人によって生き方は違うので事情を汲むべきです。一律にはできない」

一色「生き方?占い師にでもなったつもりか?

ああ。。
一色さん最高ですね。

出典 「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」
第4話


僕も誰かに感情論ぶつけられたら「占い師にでもなったつもりか?」とイケメン風に返してやろうと思います。笑

どちらも間違った事は言っていないと思うのですが、私は断然、一色さん派ですね。

不妊治療は結果論です。
それ以上でも以下でもない。

仕事を選んで妊娠せずに後悔する未来。
仕事を選んでも妊娠して幸せになる未来。
仕事を選ばずに妊娠して幸せになる未来。
仕事を選ばず、でも妊娠せず後悔する未来。

胚培養士にその未来は読めないので、患者さんに選んでもらうしかない。

だったら、一律にシステムで説明した方が良いと。完全に同意です。笑

◯ 卵の状態がいいかどうか、経験豊富な胚培養士ならひと目でわかる

顕微授精前の裸化操作のシーンですね。
ひと目でわかるかどうかと言われると難しいですが、悪そうなのはわかるという感じですかね。

水沢さんの言っている通り、ダメかもしれないと思った子が、受精後素晴らしい成長をする事もあります。なので、あくまでも主観的な違和感ですね。

反対に、良さそうだったのに発育しなかったという事もよくあるので、見た目の評価はあまりアテにはなりません。

◯ 胚培養士としてできる限りの事はする。そこから先は卵の力だ。頑張れ。頑張れ。

これは、一色派の私も水沢さんの言う通りと完全同意です。

胚培養士は卵を良くする事はできない。
卵の力をできるだけ引き出してあげる事に全力を注ぎます。

まとめ

いやー。胚培養士ミズイロ超面白いですね!

こうやって深読みすると、水沢さんのキャラクターの尖り方とか胚培養士の極端で頑固な部分を再現できていてわかりやすい構成になっていると思いました。

そして、それが現実ではなかなか難しい事を、リアリストの一色さんが諭すという構図が見ていて面白いです。

まだまだ解説したいシーンやセリフもたくさんあったのですが、すでに超長い記事になってしまっているのでこのへんで!

まだ読まれていない方は、胚培養士の業務がよくわかるので是非ご一読ください!

次回の解説にご期待ください!
ではまた!

引用:「胚培養士ミズイロ〜不妊治療のスペシャリスト〜」第一巻

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?