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タイムラプス観察における前核の観察と考え方

【ご質問原文】

いつも参考になる情報ありがとうございます。
下記、お手隙の際に教えてください。


ICSIを行った翌日1PNだった為、胚盤胞まで培養して判断と言われました。 (最新のタイムラプスインキュベーターを導入しているクリニックです)

タイムラプス使用で1PNか2PNの判断がつかないケースはよくあることなのでしょうか? 気になって調べた所、タイムラプスは動画ではなく静止画のコマ送りと知りました。 
その撮影されない一定時間の間に運悪く2PNが出現して いた可能性はありますか?
タイムラプスの一般的な撮影頻度 (10秒毎など)や、前核出現から消失までの平均所要時間の情報を見つけられず、その辺りも教えていただきたいです。



①の受精卵はその後分割し、5日目に4AA胚盤胞で凍結しました。今回のケースは2前核が偶然重なり続けていたと考える方が現実的でしょうか。



②の胚について、ドクターからは良好胚なので早く移植すべきと言われましたが、ICSIでの1PN胚盤胞はIVF由来のそれよりも結果が悪いという情報を見かけました。根拠は分かりません。

この胚以外に5日目良好胚(4AAと4AB) がある場合は、1PNの4AA胚盤胞の移植は最後にした方が良いと思われますか?

前クリニックではふりかけ法だと8割が多精子受精となり、受精障害と言われました。 

それ以来顕微一択で治療し正常受精率100%でしたが、その後に転院したクリニックでは、ふりかけ法で6個中1個が多核受精で残りは全て正常受精した。 
私に抗体などはなく (顕微授精で多核にはなりません)、また、卵子の質が急激に良くなるとは考えにくいのですが、この成績の差は培養技術 (培養液、培養環境含む)によるものと考えられますか? 

そして私の場合、 結局受精障害では無さそうですか?

【回答】

ご質問ありがとうございます。

答えがいのある重厚な質問ですね。
長くなりますがお許しください。

まず、タイムラプスを使用している場合、前核が観察できないことはほとんどありません。
おっしゃる通り、タイムラプスは静止画をつなぎ合わせたものですが、撮影間隔は15〜20分です。
前核は、顕微受精後平均で5時間から7時間くらいで出現し始め、平均で20時間から24時間で消失します(あくまでも平均ですので、もっと早く出現消失する胚もあります)。
どんなに最速で消失しても、数時間は出ているので、写真撮影できないことは理論上ありません。また、基本的に前核の消失のタイミングは2個でも3個でも同時に起きるので、たまたま観察したタイミングで1個だけ消失していたという胚は稀です。(なくはないですが、その消失もタイムラプスで観察できます)

1PNの出現する機序ですが、たまたま卵子の核と精子の核が近くにあり一緒になって前核を形成してしまったとする仮説が有力です。
この場合、核のDNA量は2PNと同じなので、正常受精しているのと同じです。
IVFでは、精子が卵子のどの位置に入るかがわからないので、1PNが起きやすく、また1PNが正常である可能性が高いです。もちろん多精子受精の可能性も否定できません。

ICSIでは、卵子の核がある部分を避けて精子を注入するため、1PNが起きにくいと言われています。ICSIで出現した1PNは極体放出不全によるものか、卵子または精子の核のみで形成された単為発生胚(半分の核しか持たない)ものである可能性があり、ほとんど発育しません。

胚盤胞まで発育したのであれば、正常受精であった可能性が高くなりますが、確定的ではありません。

ICSIでも、たまたま卵子の核の近くに精子を注入してしまい、前核が一緒になって形成されてしまうこともあり得ると思いますし、さらにそれに極体放出不全が重なると3倍体になります。(かなり稀なケースなので確率は低いと思います)

移植の順番ですが、上記のように異常受精の可能性がある以上は、どんなにグレードが良くとも、正常受精胚から移植するのがセオリーだと思います。


受精障害のお話ですが、ふりかけ法は顕微受精よりも多精子受精が多くなります。
また、精子の濃度が濃すぎたり、媒精時間が長すぎると多精子受精が増加します。
クリニックによって媒精する濃度や時間が異なるので、結果に差が出てしまったのだと思います。その後の経過を見る限り、ご質問者様は、受精障害ではありません。

長くなりましたが以上です。
ご参考になれば幸いです。

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