見出し画像

ヘクサコルドでするめのように音楽を味わおう!

「ヘクサコルド」をご存じでしょうか?ut re mi fa sol la の6音で音楽をとらえること、つまり6音の階名唱のことで、6音のソルミゼーション、「中世の移動ド」とも言われます。

学校でグレゴリオ聖歌を学ぶ際、最初の数回は辻康介先生のソルミゼーションの授業となります。1年生の時は「この先生、何を言っているのだろう?laをre と読み替えせずに、tiを使えばいいのに」と内心思っていたのですが、食わず嫌いな性格ではないこともあって、辻先生のコーラスカンパニーのオンライン講座や、聖グレゴリオの家のソルミゼーションと教会旋法の講座を受講したり、学校の補講で先生を囲んでグイドの手をやるなどしているうちに、ヘクサコルドに徐々に慣れてゆきました。グレゴリオ聖歌のみならず、いろいろな楽譜を片っ端からヘクサコルドで読んで1年ほど経ち、その有益さに気づきましたので、ここに書き留めてゆきたいと思います。今後気づいたことがあれば、随時更新したいと思います。デメリットはヘクサコルドをやっている人が少ないので、共通言語にならないことに尽きると思います(笑)。


<ヘクサコルドが有益だと気が付いたきっかけ>

辻先生の補講で、コラールを基にした簡単なオルガン曲を使ってヘクサコルドをやったことがあるのですが、単語ごとに深く味わうような感覚があり、思わず「1単語ずつ、するめみたいにじっくり味わっている感じですね」と言ったことがあります。

 そして、とあるルネサンスの作曲家の合唱曲をヘクサコルドで読むと、アルトがut re fa mi fa re ut と歌い、少しずれて5度上をソプラノがut re fa mi fa re ut と歌っていることに気づきました。テナーもバスも ut re fa mi fa re ut と歌っている。そして、曲全体を通して、「全パートが同じことを歌っている」ことに気づいたときに、「ヘクサコルドすごい!」と思いました。中世やルネサンスの人はこのように音楽をとらえ、するめのように味わっていたのかと、不意に理解できた瞬間でした。

<ヘクサコルドでいちばん好きなエピソード>

辻康介先生の講座でドゥドゥク奏者の藤川星さんがいらした回は神回でした!これは聖グレゴリオの家の聖堂でしか体験できない、貴重な経験となりました。また藤川さんと一緒に歌いたいです!

<ヘクサコルドのメリット・練習のヒント>

  • バッハ以前の音楽なら、ヘクサコルドのほうが音楽を理解しやすい。(調性音楽で、歌える範囲の音域ならヘクサコルドでとらえることも可能と思いますが、転調があると移動ドのほうがよいのかも?)

  • それぞれの音には「utは重厚、どっしりとした」「faはやわらかい」「solは明るい」などキャラクターがあるが、単語・シラブルもその音のキャラクターに合っていることが多い。(3/13/2023追記 ヘクサコルドについて櫻井元希さんに会いに行って聞いた話: ut は必ずしも重厚なイメージではないようだ。この音のキャラクターについては1600年くらいの文献にあるが、グレゴリオ聖歌は9世紀、10世紀などの音楽。ut に対応する単語・シラブルは柔らかいことも多い。doというと確かにドッシリしているイメージ)ムタツィオ(音の読み替え)したときにも同様。ムタツィオして、読み替えた先の最高音をsolと読むときはたいてい高いDとかEになり、たいてい重要なシーン・音楽的なクライマックスで、単語も重要な単語になっていることが多い。

  • グレゴリオ聖歌は紙が貴重だった頃に聖書の内容(=神のみことば)を会衆に伝えるためのもの。単語がわかるように伝えるとなると、1、2単語なら6音が適切な音域だろう(跳躍しすぎたら単語の意味がわからなくなりそう)。次の単語は音の高さを変えてまた6音で歌う。ということを繰り返すので、tiの必要性を感じない。

  • なので、ネウマとヘクサコルドは密接な関係があり、ヘクサコルドを理解しないとネウマを理解できない。(3/13/2023追記: こんなこと書いていますが、櫻井さんに「ネウマを無視して歌っていますね」と苦笑されてしまいました。ネウマとヘクサコルドの関係は真実と思いますが、私の技量が大問題)

  • ”ti do”は歌いにくいので(ti はsolやlaよりも鋭く、エネルギーが必要)、”mi fa”と読み替えるだけで、なんとなく歌いやすくなる。

  • ムタツィオは難しくない。中世の楽譜にはハ音記号とへ音記号が使われているが、その記号のすぐ下の音は半音であることを示しているので、ハ音記号がある鍵盤(C)はutであるが、faと読み替えることができる。(このハ音記号はグイドの手でいうC-sol-fa-utなので、ハ音記号のすぐ下にフラットがあったら、ハ音記号はsolと読む)

  • 臨時記号のフラットはfaと読む。合唱に限らず、演奏していて一番難しいのは「半音」。「fa」には独自の響きがあるので、フラットが付いている音を「fa」と読むことでほかの音との間隔を掴みやすい。

  • 4線譜に慣れたせいもあるかもしれないが、音と音の幅を視覚でとらえるようになった。また、「4音跳躍するからこういう響き、5音跳躍するからこういう響き」ととらえ、実際に歌詞をつけて歌う時は、ut re mi…のことは考えず、前後の音の幅(音程)を気にするようになった。

  • まずは簡単な曲で試してみる。できれば知っている歌の曲が良い。

  • ヘクサコルドでものすごくしっかり音取りをしたあと(グレゴリオ聖歌なら、ヘクサコルドでネウマを歌えるようになるまで)、「ろ」や「あ」らだけでなめらかに歌えるようにして、歌詞をつける。たいていラテン語の曲なので、ut re mi…を考えながらラテン語も考えて歌うのは頭をたくさん使って大変なので。(ヘクサコルドの日本語の練習曲などあればよいのですが・・・櫻井元希さんあたり、作りそうな気がします!)

  • (4/26/2023追記)↑のようなことを書いていたら、櫻井さんが本当に練習曲を作ってました。教会旋法の違いを感じ、ムタツィオに慣れる練習法です。この動画でタブラのドローンを使っているのですが、私のレッスンの時もタブラのドローンを流しっぱなしにしていて、なんか歌いやすかったので、私もタブラのアプリを購入しました!

  • 辻康介先生も似たような音階練習・ムタツィオの動画をアップしていました。増4度になるところでちょっと止まってくれてます。https://youtu.be/YwOignPNAOQ  https://youtu.be/XWm40_eLXas

  • 地道な努力と妥協しないこと(辻さんや櫻井さんを見てると、本当にそう思うし、私に教えてくださる時も妥協しない)

  • (6/24/2023追記。櫻井さんのルネポリの講座より)音と身体はつながっている。その体感がヘクサコルドにもつながる。(この体得は時間がかかるだろうが、ヘクサコルドを理解する上で一番大事なことかもしれない。回り道のようかもしれないけど、急がば回れで・・・)

  • 現代譜だとすでにムジカフィクタがついていることが多いが、ムジカフィクタを採用するかどうかはオリジナル譜をヘクサコルドで読んでから考えたほうが良いかも。

  • (7/1/2023追記)櫻井さんがついにヘクサコルドの教本を出版されるそうです!大島俊樹さんが「階名唱(いわゆる「移動ド」唱)77のウォームアップ集 」を出版されているのですが、それのヘクサコルド版という感じです。移動ドは長調と短調のみですが、教会旋法は8つあるのでかなりのボリューム(100ページ超)なんだとか。序文はこちらからご覧いただけます。櫻井さんがルネポリの講座で音と体感のことをおっしゃっていたのですが、きっとヘクサコルドで読むのに大事だし、そもそも音楽をやるうえで一番大事なんだろうという直感がありました。その後、個人レッスンでひたすらヘクサコルドのワークをやり、「頭で考えないで」と何度も言われ(半分以上目をつぶっていた気がする)、頭で考えずできるようになるまでに時間がかかるぞ・・・と思っていたので、ワークショップ込みで申し込みしました!楽しみ~。

  • シュッツの歌曲はヘクサコルドで、できれば白色記譜法の楽譜で読んだ方がいい。

  • ヘクサコルドで歌うときは五感をフルで使って、身体から自然に出る反応を楽しもう。「本来の旋律」を感じられるからか、すごく幸せな気持ちになる。https://note.com/emanuel229/n/nf7a4dbb5305d

  • 櫻井元希さんが「なぜヘクサコルドでなければならないのか」という動画を作っています。https://youtu.be/q6VSGakw7aY?feature=shared

  • ヘクサコルドで歌っていない人と一緒に歌うと、違和感を感じる。レミレを歌う時にただの「レミレ」なのか、「レから少し飛び出したミ」と感じているのか、この違いは大きい。グレゴリオ聖歌はみんなで同じ旋律を歌うので、音の認識が違うと、かなりまずいのではないか。

<問題提起>