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親密な関係が怖い。でも、寂しいままでいたくない。

友人に囲まれ、雑談が得意で、笑顔が眩しく、誰からも愛されている、そんな人に私たちは憧れる。

出会ったばかりですぐに親しくなり、自己開示を適切にし、共感的に振る舞い、他者の痛みにもそっと寄り添うことができる人。誰もがそんな存在になりたいと願う。

しかし、なぜ彼らはそのような「離れ業」ができるのだろう。そしてなぜ私たちにはそれが途方もなく難しく感じるのだろう。

私たちの人間関係の多くは、幼少期に形成された愛着のパターンによって形作られているという「愛着理論」がある。諸説あるものの、遺伝的な性格パターンだけではなく、親子の愛着関係で生じた問題が成人になってからも解消されず、さまざまな問題を繰り返す患者を多く見てきた。

この見えない糸は、大人になった今でも私たちの行動や感情をまるでパペット人形のように操り、支配しているかのように見える。


愛着の形成と基本的信頼感

人間関係の基盤となる愛着は、生まれてから2-3年の間に大きく形作られていくとされている。とは言え、まず強調しておきたいのは子供は基本的には柔軟であり、親の態度が多少の幅があっても影響は受けないということだ。
常に適切なタイミングで応答し、優しくいられる親はいない。

しかし、あまりにも不安定で不安を与え続けてしまうと、その蓄積が幼子の愛着の基盤に影響を与える可能性があることは意識しておきたいものだ。

ある程度愛情を注がれ、放置されすぎることなく適度なタイミングで応答される子どもは、世界は安全で、自分は愛される存在だという感覚を育んでいくとされる。

一方で、応答があまりにも不規則だったり、無視されたりした子どもは、世界は予測不能で、自分は十分な価値がないかもしれないという感覚を持ちやすくなる。

この違いは、大人になってからの人間関係にも影響を与える可能性がある。私たちが精神科の外来で幼少期の頃の家庭の様子や、家族関係に関して必ず聴取するのには理由がある。

よくあるパターンを記してみよう。
ある女性は、母親が精神的に不安定で、時に過度に密着し、時に完全に無視されるという経験をしてきた。そんな彼女は大人になった今、親密な関係になると、相手が突然いなくなるのではないかという強い不安を感じる。その不安から、むしろ先に関係を壊してしまおうとしたり相手の些細な態度の変化に過敏に反応してしまったりする。これは幼少期の経験が、現在の関係性に影響を与えている典型的な例だ。

境界線の問題

自分と他者との心理的な距離感、つまり境界線は、関係性を左右する重要な要素だ。健全な境界線というのは、状況に応じて近づいたり離れたりできる柔軟性を持ち、どこまでが自分でどこからが他者かが明確で、必要なときにはNOと言える強さを備えている。

NOが言えないある男性を思い出す。
彼は常に仕事で上司との関係に悩んでいたが、実は家族との関係でも同様のパターンを繰り返していた。相手の要求を断れず、自分の気持ちや意見を言えない。そうして内心で怒りや不満が溜まっていき、ある時突然爆発してしまう。これもまた、境界線が曖昧なために起こる典型的な例である。

3Fの理解

人は、関係性に脅威を感じると、三つの反応のいずれかを示す。それは「闘争」「逃走」「凍結」だ。これは人以外の動物では特に顕著であり、頭文字をとって「3F」と呼ばれることがある。

動物的な脳、本能に近い場所(扁桃体という小さな部位)が脅威を見つけると考える前に上記3つのパターンで対応しようとする。

愛着関係に問題がある中で成長した人は、不安を解消できずに他者との対人関係において不適切に「脅威」を感じ3Fモードへと突入する。

「闘争」モードに入ると、些細な意見の相違でも激しく言い争い、相手の人格を否定するような言葉を投げかけ、過去の出来事を蒸し返して攻撃材料にしてしまう。
「逃走」モードでは、深い関係になりそうになると突然連絡を絶ち、重要な話し合いを先延ばしにし、仕事やその他の活動に過度に没頭して関係を避けようとする。
「凍結」モードでは、感情表現が全くできなくなり、相手の言うことに機械的に同意し、その場にいても心ここにあらずの状態になってしまう。

健全な関係構築への道

まず大切なのは、自分のパターンを理解し受け入れることだ。

例えば、見捨てられ不安を感じやすい傾向があるなら、それを「見捨てられ不安モード」と名付けてみる。それだけのことだが、自身が陥ってる混乱を主観だけでなく少しだけ客観視できるものだ。
そして、大切なのはそのパターンについて信頼できる人と話し合い、それが起きたときの対処法を考えておくこと。

こんな自分は嫌だ、なぜいつもこうなんだ。変わらない自分を嘆くより、今日からできることを少しずつ試そう。

自分を変えていくには、まず自己観察から始めるといい。
感情日記をつけ、どんな状況で不安や怒りが引き起こされるのかを探っていく。そして、新しい行動パターンを少しずつ試していく。

最初は小さな変化から始め、成功体験を積み重ねていく。たとえ失敗しても、それは学びの機会として捉えていけばいい。

よくある誤解の解消

人間関係について、私たちは意外なほど誤解を抱えていることが多い。

例えば、「愛は自然に生まれ、続いていく」という考え方。しかし実際の愛は、意識的な選択と行動の積み重ねであり、定期的なコミュニケーションと相互の努力が必要不可欠である。この点に関してはフロムの「愛するということ」を読むことを是非お勧めしたい。

また、「意見は常に一致すべき」という考えも要注意だ。
恋愛に依存しがちな人に多いこの誤解はどんな素敵な関係も必ず壊してしまう毒物である。

健全な関係では、むしろ違いを認め合い、建設的な意見の相違があることが自然なのだ。それぞれの個性を尊重できることこそが、真の絆を育む。

「すべてを分かち合うべき」という考えも、実は関係性を窮屈にしてしまう。適度な距離感があり、個人の時間や空間が確保され、別々の趣味や友人関係があることは、むしろ関係性を豊かにするのだ。親子関係、夫婦間で特に多いすれ違いの背景にこの誤解が潜んでいる。

おわりに

これまで人生を通して築き上げてきた人間関係のパターンを変えることは、もちろん簡単なことではない

。しかし、理解を深め、小さな一歩から始めることで、必ず変化は起こせる。大切なのは、完璧を目指すのではなく、より良い関係性に向かって少しずつ進んでいく姿勢を持ち続けることが大切だ。

自分を理解し、受け入れることから始めよう。

そして、その理解を基に、周りの人々との関係をより豊かなものへと育んでいけることを信じよう。大きな変化を期待せず、まずはマイクロステップを目指そう。1mmでも前に進めばいい、時に後退してもいい。

変化は必ず起きる。そして、その変化は私たちの人生をより豊かで幸せなものにしてくれる。

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