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パウリ行列周辺観光

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 これは「EMANが堀田量子第2章を書いてみた」の補足記事です。本文中に出てきた条件を満たす$${ \hat{\sigma}_i }$$は相似変換によって必ずパウリ行列へと変換できること、パウリ行列と同じ固有値を持つこと、パウリ行列と同じ交換関係を満たすことを説明します。文体は常体とします。初学者ガイドですから、線形代数に慣れた人には当たり前に思えることでも丁寧にやります。

 ではお楽しみください。

パウリ行列を特別扱いすることに不満がある

 堀田量子の第 2 章では次のようなパウリ行列$${ \hat{\sigma}_x \, \hat{\sigma}_x \, \hat{\sigma}_x }$$が天下り的に導入されている。

$$
\begin{aligned}
\hat{\sigma}_x \ &=\
\left(\
\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{array}
\ \right) \\
\hat{\sigma}_y \ &=\
\left(\
\begin{array}{cc}
0 & -i \\
i & 0
\end{array}
\ \right) \\
\hat{\sigma}_z \ &=\
\left(\
\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}
\ \right)
\end{aligned}
\tag{1}
$$

 パウリ行列はスピンを表す演算子として便利に使われるものである。これらは次のような交換関係を満たしている。

$$
\begin{aligned}
&[ \hat{\sigma}_x \,,\, \hat{\sigma}_y ] \ =\ 2i \, \hat{\sigma}_z \\
&[ \hat{\sigma}_y \,,\, \hat{\sigma}_z ] \ =\ 2i \, \hat{\sigma}_x \\
&[ \hat{\sigma}_z \,,\, \hat{\sigma}_x ] \ =\ 2i \, \hat{\sigma}_y
\end{aligned}
\tag{2}
$$

 従来の量子力学ではこのような交換関係が重視されており、測定値を同時に決定することができないことを表したりしているのだった。堀田の教科書では従来の量子力学の筋書きになるべく頼らずに量子力学の体系を一から再構築することを目標としているのに、このような特別な性質を持つ行列を突然どこからともなく持ってきてもいいのだろうかというところが心配になる。

 ところがこれは問題ないのである。本文中に出てくる次の条件を適用すれば自動的に (2) 式のような交換関係が導けてしまう。

$$
\hat{\sigma}_i \ =\ {\hat{\sigma}_{i}}^{\dagger} \tag{3}
$$

$$
\mathrm{Tr} \big[ \hat{\sigma}_i \big] \ =\ 0 \tag{4}
$$

$$
\mathrm{Tr} \big[ (\hat{\sigma}_i)^2 \big] \ =\ 2 \tag{5}
$$

$$
\mathrm{Tr} \big[ \hat{\sigma}_i \, \hat{\sigma}_j \big] \ =\ 0 \tag{6}
$$

 上から順に、エルミート行列だということ、対角和が 0 であること、同じ行列どうしの積の対角和が 2 になること、異なる行列どうしの積の対角和が 0 になること、である。

固有値はどれも±1になる

 さてどうやって話を進めようか。いきなりその証明に取り掛かっても良いのだが、まずは簡単なところを眺めてみて状況に慣れるのも良いだろう。

 まずは$${ \hat{\sigma}_i }$$が 2 次のエルミート行列だという (3) 式の条件と、$${ \hat{\sigma}_i }$$の対角和が 0 だという(4) 式の条件を考えてみる。これらを取り入れて具体的な行列の成分を作ってやると次のようになる。

$$
\hat{\sigma}_i \ =\
\left(\
\begin{array}{cc}
a & b+c\,i \\[5pt]
b-c\,i & -a
\end{array}
\ \right) \tag{7}
$$

 ただし$${ a,b,c }$$は任意の実数である。

 このことから、この条件に合う行列の作り方は実数 3 つ分の自由度しかないことが分かる。この 3 つの実数を$${ (a,b,c) }$$と並べてベクトルを作ってやれば、行列のひとつひとつが 3 次元空間の各点と対応させることが出来る。行列をベクトルのようにとらえるこのイメージは、堀田量子の第 3 章を読むときに重要になってくるだろう。

 この行列の固有値を求めてみると、

$$
\lambda \ =\ \pm \sqrt{a^2 + b^2 + c^2} \tag{8}
$$

であることが分かる。さらに (7) 式を (5) 式に当てはめて計算してやると次のようになる。

$$
2(a^2 + b^2 + c^2) = 2 \tag{9}
$$

 以上のことから、固有値は必ず$${ \lambda = \pm 1 }$$となることが決まってしまった。

 以前に書いた記事『EMANが堀田量子第2章を書いてみた』では固有値が必ず ±1 になることについて面倒な説明をしていたが、実はこんな簡単に導くことが出来るものだったのだ。

固有値が同じなら相似変換で結ばれる

 さて、エルミート行列は必ず何らかのユニタリ行列$${ \hat{U} }$$を使って次のような相似変換で対角化できることが知られている。

$$
\hat{\sigma}_d \ =\ \hat{U} \, \hat{\sigma}_i \, \hat{U}^{\dagger} \tag{10}
$$

 対角行列(diagonal matrix)の英語の頭文字の d を使って$${ \hat{\sigma}_d }$$と表記することにした。このときの対角行列の成分は、もともとの行列$${ \hat{\sigma}_i }$$の固有値が並ぶことになる。つまり +1 と -1 である。

$$
\hat{\sigma}_d \ =\
\left(\
\begin{array}{cc}
1 & 0 \\[5pt]
0 & -1
\end{array}
\ \right) \tag{11}
$$

 この固有値の並び順を入れ替えるような相似変換もユニタリ行列を使って行うことができるので、ユニタリ行列をうまく選ぶことで必ずこの形に持ってくることができる。本当だろうかと思った人は、対角化を行うためのユニタリ行列の作り方を思い出してみると良いだろう。規格化した固有ベクトルを縦に並べればいいのだった。そのときに並べる順を変えれば、固有値の並びを好きに変えてやることが出来るのである。

 では次に、同じ固有値を持つ行列どうしは必ずユニタリ行列を使って行き来させられることを説明しよう。(3)(4)(5) 式の条件を満たす 2 次の行列を二つ用意して$${ \hat{\sigma}_a \,,\, \hat{\sigma}_b }$$と書くことにする。これらはそれぞれ異なるユニタリ行列を使って対角化できる。

$$
\hat{\sigma}_d \ =\ \hat{U}_a \, \hat{\sigma}_a \, {\hat{U}_a}^{\dagger} \tag{12}
$$

$$
\hat{\sigma}_d \ =\ \hat{U}_b \, \hat{\sigma}_b \, {\hat{U}_b}^{\dagger} \tag{13}
$$

 $${ \hat{\sigma}_a }$$を$${ \hat{U}_a }$$を使って一旦このような対角行列$${ \hat{\sigma}_d }$$に変換できるのだから、そこから別のユニタリ行列$${ \hat{U}_b }$$を使った逆変換によって$${ \hat{\sigma}_b }$$へと変換してやることができるだろう。つまり、$${ \hat{\sigma}_a }$$と$${ \hat{\sigma}_b }$$は、必ず何らかのユニタリ変換で行き来することができるはずだ。

 念のため、これについてもう少しじっくり説明してみよう。(12) 式と (13) 式の右辺どうしを等式で結んでやって、それを次のように変形していく。

$$
\begin{aligned}
\hat{U}_a \, &\hat{\sigma}_a \, \hat{U}^{\dagger}_a \ =\ \hat{U}_b \, \hat{\sigma}_b \, {\hat{U}_b}^{\dagger} \\
\therefore \ &\hat{\sigma}_a \ =\ {\hat{U}_a}^{-1} \, \hat{U}_b \, \hat{\sigma}_b \, {\hat{U}_b}^{\dagger} \, ({\hat{U}_a}^{\dagger})^{-1} \\
\therefore \ &\hat{\sigma}_a \ =\ {\hat{U}_a}^{\dagger} \, \hat{U}_b \, \hat{\sigma}_b \, {\hat{U}_b}^{\dagger} \, \hat{U}_a \\
\therefore \ &\hat{\sigma}_a \ =\ ({\hat{U}_a}^{\dagger} \, \hat{U}_b) \, \hat{\sigma}_b \, ({\hat{U}_a}^{\dagger} \, \hat{U}_b)^\dagger
\end{aligned}
\tag{14}
$$

 ここで、

$$
\hat{U}_{ab} \ \equiv \ {\hat{U}_a}^{\dagger} \, \hat{U}_b \tag{15}
$$

というユニタリ行列を定義してやれば、$${ \hat{\sigma}_a }$$と$${ \hat{\sigma}_b }$$は次のような相似変換で結ばれることになる。

$$
\hat{\sigma}_a \ =\ \hat{U}_{ab} \, \hat{\sigma}_b \, {\hat{U}_{ab}}^{\dagger} \tag{16}
$$

 さっき言ったことを具体的に表してみただけであり、式自体はそれほど重要ではない。同じ固有値を持つ行列どうしはユニタリ行列を使った相似変換によって必ず行き来できるということだけ納得してもらえば良いのである。

 ところで、物理では「ユニタリ行列を使った相似変換」が頻繁に出てきて毎回そのように言うのが面倒なので「ユニタリ変換」と言ってしまうことが多い。「ユニタリ変換」というのは正式にはベクトルをユニタリ行列で変換することを指す言葉なので初学者を混乱させてしまうことがあるのだが、そういう事情である。私もそろそろ面倒くさくなってきたので、今後はそうさせてもらうことにする。

必ずパウリ行列にたどり着ける保証はあるのか

 ここまでで、(3)(4)(5) 式の条件を満たす 2 次の行列はどれもユニタリ変換で結ばれることが言えてしまった。ただしこれは 3 次以上の行列では成り立たないということを強く注意しておこう。2 次の行列では固有値が ±1 に定まってしまうから成り立っているのである。今回はパウリ行列に絡む話がしたいだけなのでそれでいいのである。

 しかしまだすっきりしないことがある。たとえば、(6) 式の条件に従うような 3 つの行列$${ \hat{\sigma}_{a} \,,\, \hat{\sigma}_{b} \,,\, \hat{\sigma}_{c} }$$を何とか自前で用意したとしよう。それぞれを 3 つのパウリ行列のどれにでも変換できるということはすでに分かった。しかし、ただ一つのユニタリ行列だけを使って$${ \hat{\sigma}_{a} \,,\, \hat{\sigma}_{b} \,,\, \hat{\sigma}_{c} }$$の全てを 3 つのパウリ行列$${ \hat{\sigma}_{x} \,,\, \hat{\sigma}_{y} \,,\, \hat{\sigma}_{z} }$$へと変換することはできるのだろうか?

 ここで誤解の無いようにイメージを正しく持っていてもらいたいのだが、例えば$${ \hat{\sigma}_c }$$を$${ \hat{\sigma}_{z} }$$へと変換する$${ \hat{U} }$$があったとしても、それを使えば残りの二つの$${ \hat{\sigma}_{a} }$$や$${ \hat{\sigma}_{b} }$$が必ず$${ \hat{\sigma}_{x} }$$や$${ \hat{\sigma}_{y} }$$に変わってくれるというわけではない。$${ \hat{\sigma}_a }$$を$${ \hat{\sigma}_{z} }$$へと変換する$${ \hat{U} }$$は一通りではないのである。

 これは対角化を行うためのユニタリ行列$${ \hat{U} }$$の作り方を思い出せば分かる。固有ベクトルをそれぞれ大きさ 1 に規格化してやって縦に並べるだけで良いのだが、それぞれに$${ e^{i\theta} }$$のような因子を掛けてやっても大きさが変わらないため、その分の自由度が残っているのである。

 ここで、$${ \hat{\sigma}_{a} }$$や$${ \hat{\sigma}_{b} }$$がどんな行列に変換される可能性があるかを考えてみよう。例えば、$${ \hat{\sigma}_c }$$を対角化する$${ \hat{U} }$$を作って、それが$${ \hat{\sigma}_z }$$と同じ形になったとする。残りの 2 つは残念ながらパウリ行列には成れなかったが、パウリ行列と同じ交換関係だけは満たす形になったとしよう。そうなってくれるという証明はまだこれからだが、そうなって欲しいので考えてみるのである。

 多少面倒だが、そのようになる条件を手計算で求められないことはない。
その結果、次のような形にならなくてはならないことが分かる。

$$
\begin{aligned}
\hat{\sigma}_a \ &=\
\left(\
\begin{array}{cc}
0 & \cos \theta + i \, \sin \theta \\[10pt]
\cos \theta - i \, \sin \theta & 0
\end{array}
\ \right) \\[20pt]
\hat{\sigma}_b \ &=\
\left(\
\begin{array}{cc}
0 & \sin \theta - i \, \cos \theta \\[10pt]
\sin \theta + i \, \cos \theta & 0
\end{array}
\ \right)
\end{aligned}
\tag{17}
$$

 対角成分は必ず 0 になっていなくてはならず、意外と制限がきついことが分かるだろう。もしこのような形になったとしたら、ここからさらに変換してパウリ行列にしてやることができるだろうか? つまり既に$${ \hat{\sigma}_z }$$と同じ形になった$${ \hat{\sigma}_c }$$の形は変えずに、$${ \hat{\sigma}_a }$$や$${ \hat{\sigma}_b }$$だけを変えるというユニタリ行列は用意できるのだろうか?

 心配は要らない。それは従来の量子力学の教科書でもよく出てくるもので、ひと目見てみれば安心できるだろう。

$$
\hat{U}_z \ =\
\left(\
\begin{array}{cc}
e^{i\phi/2} & 0 \\[5pt]
0 & e^{-i\phi/2}
\end{array}
\ \right) \tag{18}
$$

 これはスピン状態を$${ z }$$軸の周りに角度$${ \phi }$$だけ回転させる変換として知られているものである。

 このような具体的な話は状況をイメージしやすくなるように差し挟んだのであって、この後の議論には直接は関係ないし、まだ問題は解決していない。

 自前で用意した行列が「変換後に」パウリ行列と同じ交換関係を満たしていてくれれば何とかなるということだけは分かった。果たして、自前で用意した行列は本当にパウリ行列へと変換することが出来るのだろうか?

ユニタリ変換しても交換関係は保たれる

 今の話はもう一歩だけ先へ進める事ができる。交換関係を満たす行列の組をそれぞれ同じユニタリ行列で変換してやっても、その結果の行列どうしは同じ交換関係を満たすことが知られているからである。

 これは従来の量子力学の教科書でもよく出てくる話である。次のような計算をすることで簡単に確かめることができる。

$$
\begin{aligned}
[ \hat{\sigma}_x , \hat{\sigma}_y ] \ &=\ 2i \, \hat{\sigma}_z \\
\therefore\ \hat{\sigma}_x \hat{\sigma}_y \ -\ \hat{\sigma}_y \hat{\sigma}_z \ &=\ 2i \, \hat{\sigma}_z \\
\therefore\ \hat{U} \Big( \hat{\sigma}_x \, \hat{U}^{\dagger} \hat{U} \, \hat{\sigma}_y \ -\ \hat{\sigma}_y \, \hat{U}^{\dagger} \hat{U} \, \hat{\sigma}_z \Big) \hat{U}^{\dagger} \ &=\ 2i \, \hat{U} \, \hat{\sigma}_z \, \hat{U}^{\dagger} \\
\therefore\ \hat{U} \, \hat{\sigma}_x \, \hat{U}^{\dagger} \ U \, \hat{\sigma}_y \, \hat{U}^{\dagger} \ -\ \hat{U} \, \hat{\sigma}_y \, \hat{U}^{\dagger} \ U \, \hat{\sigma}_z \, \hat{U}^{\dagger} \ &=\ 2i \, \hat{U} \, \hat{\sigma}_z \, \hat{U}^\dagger \\
\therefore\ \hat{\sigma}'_x \hat{\sigma}'_y \ -\ \hat{\sigma}'_y \hat{\sigma}'_z \ &=\ 2i \, \hat{\sigma}'_z \\
\therefore\ [ \hat{\sigma}'_x , \hat{\sigma}'_y ] \ &=\ 2i \, \hat{\sigma}'_z
\end{aligned}
\tag{19}
$$

 このことを使えば、自前で用意した行列の組の間に交換関係が成り立っていれば、変換後にも交換関係が成り立っていることが言える。よって、パウリ行列にまで変換することが保証される。

 結局、最初に書いた話を証明しなくてはならなくなってしまったわけだ。

なぜこんな話を続けているのか

 こんなに話を長引かせているのには事情がある。ここまでの一つ一つの話は別々に話せば無味乾燥であり、それらを有機的に繋げてみたかったのである。

 肝心な話以外の部分、つまり、ここまでの話くらいは無料で公開したかったというのもある。

 もうひとつ。これが一番の理由なのだが、私は従来の量子力学を当たり前のように学んだ人間であり、パウリ行列から話を始めることには慣れている。パウリ行列をユニタリ変換しても同じ交換関係が成り立つことを知っている。パウリ行列は (3) ~ (6) 式の条件を全て満たすことも知っている。しかも (3) ~ (6) 式の条件はユニタリ変換してもそのまま成り立つことを知っている。それは簡単なので式を書いて説明しなくても大丈夫だろう。「対角和の中では行列の順序を入れ替えてもいい」という規則を使えばすぐに確かめることができる。一応書いておこうか。

$$
\begin{aligned}
&\mathrm{Tr} \big[ \hat{\sigma}_i \, \hat{\sigma}_j \big] \\
=\ &\mathrm{Tr} \big[ \hat{U}^{\dagger}\hat{U} \, \hat{\sigma}_i \, \hat{U}^{\dagger}\hat{U} \, \hat{\sigma}_j \big] \\
=\ &\mathrm{Tr} \big[ \hat{U} \, \hat{\sigma}_i \, \hat{U}^{\dagger} \ \hat{U} \, \hat{\sigma}_j \, \hat{U}^{\dagger} \big] \\
=\ &\mathrm{Tr} \big[ \hat{\sigma}'_i \, \hat{\sigma}'_j \big]
\end{aligned}
\tag{20}
$$

 ならば証明への近道は一つ。パウリ行列からのユニタリ変換によって (3) ~ (6) 式の条件を満たす行列の全てに繋がることが言えれば良いのである。
当然そうなっているだろうと思っていた。なぜなら、これまでパウリ行列からユニタリ変換によってたどり着ける行列しか扱ったことがなくて、それが全てだと信じ切っていたからだ。しかしじっくり考えてみると話が繋がってくれない。パウリ行列に変換できないような行列の組が存在しているかも知れないという可能性が消せないのだ。この可能性を消すにはどうしたらいいか。

 結局、手段と目的が入れ替わってしまった。(3) ~ (6) 式の条件を満たす行列の組は (2) 式のような交換関係を満たすということを証明したくて、そのような行列は全てパウリ行列に変換できるということを証明しようとしたのだが、そのためにはそのような行列が (2) 式のような交換関係を満たすことを証明しなくてはならなくなった。失敗だ。方法を変えなくてはならない。

 しかし具体的な行列を使ってあれこれ試しながら苦労したお陰で色んな誤解を解くことが出来た。これまで自分には見えていなかった風景があれこれ見えてきたので、あまり賢くない内容ではあっても書き残しておけば誰かの役に立つかもしれないと思えてきた。

 では、これさえ分かれば全てが解決するという部分の証明をこれから考えてみよう。

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