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思い出したこと

仕事帰りのJR、次の駅で乗り込んできて隣に座った人に見覚えがある。
私が職業相談の仕事に就いたばかりの頃に受けた方だ。
このあたりでは偏差値の高い高校を出て、食品製造工場に10年勤めて、ゴム手袋にかぶれるようになり、離職してきた方…

言葉でのコミュニケーションが難しい方で、紹介状を求めて窓口に来るけど、最初は、どうやってやりとりしたら良いのかわからなかった。そもそも面接で話ができないのではないか?受けるだけ無駄ではないかと失礼なことも心の中で思うこともあるし、事業所から「なんでこんな人紹介するの?」とクレームが入るんじゃないか(これはちょいちょいある)と心配した。

でも本人は仕事に対して意欲的で、毎日来るし、求人票の内容は理解しているから、だんだんと書類選考ではなく、面接の求人を選んでくるようになった。その頃上司に相談したら「あれこれ考えずに紹介状出せばいい。」と言われてかちんときたので、それからはモーレツに、発達障害に関する本を読んだり福祉関係の知人に聞いて回ったりした。

その中で見つけたことは、その方の毎日のルーティンである求職活動、そのルーティンのひとつに私もなろうと言うことだった。
求人の説明をし、応募するかを確認し、紹介状を発行する。同じ挨拶で帰って行く。
いつもと同じが続くうちに、その方は私が空くまで、次の人に順番を譲る様になっていた。

そしてある日、いつも通りに挨拶をして出口へ向かったその方が、突然戻ってきて少し逡巡した様子をしてから急に「よろしくお願いします。」とお辞儀をした。その瞬間、説明できない何かが伝わりあった感じがした。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」と見送った。
その後、私は別の職場に異動になり、その方は別の相談員が受け持った。

その方が隣に座っていた。仕事の帰りなんだろう。期限のある仕事だけど、いろいろな所で働き続けているのは、元の職場から時々聞いていた。実は私の職場があるビルの中にある他の事業所で働いていることもあった。多分相貌失認があるだろうから、私を見てもわからないだろうけど。

その方に通じる言葉はどんなものかとか、どうすればやりとりできるか、とチューニングする毎日は、確実に私の力を磨いてくれたと思うし、それは今でも基礎になっている。

自分の働いたお金で趣味の物を買ったのか、大きな荷物を持っている。私は働くってやっぱりこういうことなんじゃないかと思う。得たお金を自分が喜ぶことに使う。そしてまたそのために働く。

その方が働いているんだな…とわかる場面に出会う度に、私は元気をもらってるんだなと思う。お礼を言いたいくらいに。

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