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映画『シン・仮面ライダー』〜中年マーケット〜

私がまだ小学生の頃、正直、仮面ライダー1号、2号は仮面ライダー本の中で知る過去の存在でした。はっきり見た記憶があるのは仮面ライダースーパーワンとかスカイライダーくらいからだろうか。再放送で仮面ライダーアマゾンを見た記憶もあるが、それも斬新な設定だったから記憶に残っている程度である。だから、仮面ライダーに思い入れが強い世代ではない。

一方でなぜか中学に入って、仮面ライダーブラックが放映された時にはビデオに録画してまでして見ていた。なぜなら、中学の運動会で仮装をしなくてはならない競技があり、その仮装の対象として見たのである。しかしこの仮面ライダーブラックにはハマった。主人公の仮面ライダーと宿敵が幼馴染同士の設定や、仮面ライダーブラックと敵役のシャドームーンのビジュアルの良さ・斬新さ。さらに主題歌・エンディングを宇崎竜童・阿木耀子夫妻がなぜか担当(どうやら飲み屋か何かで石ノ森先生にお願いされたらしい)していてこの歌がまた良いのである。特にエンディング曲が大好きで聞いていた。(今もYouTubeなどでたまに聞いている。)

つまり私にとっての仮面ライダーは仮面ライダーブラックなのである。そんな私がシン・仮面ライダーを映画館に観に行った感想と言っても、特別感傷的で郷愁的な感想もないので、庵野秀明監督が仮面ライダーを撮るとどうなるのか?その観点から感想を話していきたい。

感想は一言で言ってしまえば『あまり面白くなかった(仮面ライダーファンの方すみません)』である。途中で何箇所か眠気が襲ってきて、きちんと観れなかった部分もあるけれど、どうしてもその世界観に入り込むことができなかったのである。

まず、主人公が改造人間にされた背景の描写が薄いので、主人公が改造されたことへの憎しみや絶望感があまり描かれていなく、淡々と受け入れて、博士の娘を一途に守ろうとするのである。ここで『なんで』って疑問が。少し博士が、その部分に触れるセリフもあるのだが、ここの苦しみがないと仮面ライダーとしてのアイデンティが薄く感じた。

続いて、次々とオーグと呼ばれる怪人が現れて対決していくのだが、その怪人がどれも弱そうで全然ドキドキしない。(長澤まさみの怪物は政府の特殊部隊に始末される始末)また、この怪物が漫画的で少しも不気味さがなく、軽いコメディタッチに描かれていて対決の真剣さ、過酷さが伝わってこない。(それでいて、仮面ライダーが倒すショッカーの戦闘員はリアルに血を流して死んでいく。)

仮面ライダーブラックがそうであったように、改造されたことの不条理さに悩み、戦う相手も中の良かった幼馴染だったりして、苦しみと葛藤で戦う設定だとその辛らさがより伝わってくるのだけれど。昔の仮面ライダーファン向けに原作に忠実な設定で描いていて、懐かしさに応えていたのかもしれないけど。

あと、仮面ライダーを現代的にリアルに描こうとしている一方で、CGを使ったシーンがやたらと安っぽく見えてしまった。オートバイでのカーチェイスの場面でもものすごいスピード感があるけど、早すぎて逆にリアルに見えなかった。少し幼稚に見えてしまった感が否めない。仮面ライダーを現代風にリアルに描こうとする一方で、CGのアニメ感がその良さを打ち消してしまった感があった。

この映画ではヒロインに浜辺美波さんが緑川教授の娘役で出演しており、冷静で感情を押し殺した役を見事に演じている。決め台詞の『私は用意周到なのである』をシン・ウルトラマンの山本耕史ばりに連発していく。これはこれで面白かった。一方で敵から身を隠すために隠れ家に潜伏する場面では、何日もお風呂に入れていないこと嘆き、本郷にも『着た切りの服を洗いなさいよ、匂いのよ』と感情を露わに少女のように当たり散らすシーンがある。(確かにオートバイにニケツしてるので、匂いをもろに感じるのだろう。)この場面がいかにも庵野らしいヒロインの描き方だと思った。いわゆるツンデレヒロインである。そう、エヴァンゲリオンのアスカ・ラングレーである。庵野さんは
間違いなくこのタイプの女性が好きなのだろう。それはどこか成熟した大人ではなく、強がってはいるけれど、本当は儚くて弱い女性を。

あくまで個人的な感想なので、世代が合う人(仮面ライダー1号、2号)にとっては楽しめる部分もあるのではないかと思うが、ここ最近の映画界の傾向としては、若年層を狙った映画よりも中年層を狙った映画がヒットしている傾向にある。(トップガン、スラムダンク、ウルトラマンなど)これは正しいマーケテイングで、若年層はお金、時間が限られていて映画のようにたっぷり2時間も時間を拘束されるタイパ・コスパの悪い娯楽には時間を割けなくなってきているのではないかと感じる。一方で中年以降の大人は昔、子供の頃に夢中になっていたTV番組やアニメ、漫画に時間もお金も割ける年代になっている。その巨大で有望なマーケットに対して作品を投入していくことは正しいやり方である。ここで断言しよう。今後も70〜80年代にヒットした作品のリメイクがどんどん出てくると。制作側としても、すでに知名度のある作品を送り出すことは売上が読みやすく、広告費も抑えることができる。

しかしである。一映画ファンの私としては、もっと今までに観たことがないようなオリジナル感に溢れた作品が見たい。もっと若い才能が攻めた尖った映画を見たいのである。それは長い目で見ると映画業界の発展と盛り上がりにつながっていくはずである。
次回作も匂わせるような終わりだったが、おそらく観ないだろう。

この映画を見終りロビーで次回先のパンフレット眺めながら、『持ち帰りたいパンフレットがないな』と手ぶらで帰った。部屋の壁には『シン・仮面ライダー』のパンフが貼ってあるが、次の観たい作品に張り替えることができないままである。

最後に、いい点の挙げておこう。浜辺美波さんの着ていたコートがかなりかっこいい。撮影された場所がどこだかわからないが、ローケーションが美しく、走っているオートバイを引いて撮っている映像がかなりいい。あと仮面ライダーの仮面から後ろ毛が少し出ているのがリアルで生々しく改造人間ぽくって良かった。(池松壮亮さんも昭和っぽくって良かった。)

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