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歴史とか戦争とかいうワードが面倒くさい感じになっているけど、戦争関連の本を紹介します


最近どうも、歴史とか戦争とかいうワードそのものが、面倒くさい感じになりつつあります。
SNSで攻撃的なコメントを見かけるたびに「とりあえず口にしない方が良さそう」と思うのは、当然のことかもしれません。歴史好きとしては、とても悲しいですが。

私たちと同じたくさんの人間が過去をどう生きたのか、そこに私たちは何を感じるのか、そう感じるのはなぜなのか。これまで、そんなことを考えながら、歴史に触れることを楽しんできました。
一方で、どこかの国が悪いとか素晴らしいとか、そういう結論ありきで過去を学ぼうとすると、一気にその魅力は色褪せます。全然面白くない。というか、そんな単純なわけないじゃないですか。

そんなことを思いつつ、終戦の日が近づいてきたので、太平洋戦争関連の本を勝手に紹介したいと思います。
全部で4冊、どれも読んでよかったなぁと思う本です。割とメジャーで読みやすいものばかりなので、歴史好きな人はこんなの知ってるよ、と思うかもしれません。
そうでない方は、ぜひ1冊くらい、この暑い夏のお供にいかがでしょうか。


「図説 占領下の東京 1945-1952」 (佐藤洋一)

日本は1945年から1952年まで、アメリカに占領されていました。この「占領下の東京」は、アメリカの占領によって東京がどう変化したのか、丁寧にわかりやすく説明してくれます。

まずは、タイトルに「図説」と冠しているように、占領期の東京の写真や地図がたくさん載っています。
特に、主な接収地がひと目でわかる地図は圧巻で、皇居を見下ろす丸の内のビルはほぼ接収、ホテルもデパートも病院も飛行場も接収、富裕層の住宅もたくさん接収されています。接収が決まると、日本人は立ち退き、占領軍の関係者や家族が入居しました。
他にも、占領軍の人々が、自分の住宅からGHQのオフィスに「出勤」するための専用バスのルートまで示されています。都内の中心地に、何万人もの占領軍や関係者が暮らしていたことがよくわかります。

そしてこの接収は、1952年に占領が終わったからといって、一気に解除された訳ではありません。
例えば、いまの代々木公園や国立競技場あたりは「ワシントンハイツ」と呼ばれ、827戸もの米軍住宅や商店、学校などが建っていました。日本人がこのエリアに自由に入ることはできませんし、日本の法律も適用されません。返還されたのは1964年、東京オリンピックの選手村にするためだったそうです。

そうやって、徐々に接収が解除され、再び東京の街に変化が生まれていきました。ご存知の通り、そのまま現在まで返還されていない基地もあります。


太平洋戦争というと、遠い過去のイメージになりがちですが、現在と同じような地図や区画を目にすると、現在の暮らしにつづいていることをしみじみ感じます。地図を見るのが好きな方や、お散歩が好きな方、昔の風景を見るのが好きなか方にも、おすすめの一冊です。 



「それでも、「日本人」は戦争を選んだ」 (加藤陽子)

最近、書店で太平洋戦争に関する本が特集されると、だいたいこの「日本人は戦争を選んだ」が入っています。それだけの価値がある、とても素晴らしい本です。その理由を紹介したいと思います。


本書は、タイトルの通り、「なぜ日本人は戦争を選んだのか」という問いについて、著者の加藤陽子先生が高校生に講義した記録を書籍化したものです。

加藤先生は東大の教授で、1番の専門は1930年代の外交と軍事です。太平洋戦争は1941年に始まっているので、まさに「戦争へ向かっていった10年間」を専門にしているわけです。

本書の冒頭2ページで、加藤先生はさっそくその10年間の教訓を紹介してしまいます。そのうちのひとつが、当時の国民は1930年代中盤まで、「あくまでも民意が正当に反映されるような政治システムへの改革を願っていた」ということ。

しかしそれは、既成政党や国会によって実現されなかった。その結果、どうなったのでしょうか。一部、引用したいと思います。

擬似的な改革推進者としての軍部への国民の人気が高まっていったのです。そんな馬鹿なという顔をしますね。しかし陸軍の改革案の中には、自作農創設、工場法の制定、農村金融機関の改善など、項目それ自体はとてもよい社会民主主義的な改革項目が盛られていました。


戦争への道すじが、少し見えてきます。冒頭のページは、電子書籍の立ち読みで読める範囲なので、興味のある方はぜひ読んでみてください。


そして、この本では、戦争に至るまでの10年間だけではなく、明治のはじまりから太平洋戦争までをカバーしています。日本が近代国家として生まれてから戦争に負けるまでの道のりを解説しているんです。
明治時代のスタートが1868年で、太平洋戦争の終戦は1945年なので、その歴史は80年弱。まさに私たちが、戦後~現在までを一つの流れで語るのと同じような時の流れを感じることができます。

加藤先生は、過去から教訓を引き出そうとする一方で、簡単に「歴史は繰り返す」とか「現在は戦前とそっくり」とか言うことを諌めています。ごく限られた情報だけで教訓を導き出して悲劇を生んだ例がたくさんあると。
そして、当時の世界の常識や日本の事情、そして各国の事情など、出来る限り広い範囲の中から、必死になって適切な教訓を導き出すことの大切さと面白さを教えてくれます。

「それでも日本人が戦争を選んだ」背景をくっきりと映し出してくれる、とてもおすすめの一冊です。


「昭和史 1926-1945」 (半藤一利)

これまで、戦争に関する本をたくさん書かれてきた半藤一利さん。そんな半藤さんの代表作のひとつが「昭和史 1926-1945」です。

先ほどの加藤先生はとても分析的ですが、半藤さんはドキュメンタリー的。まるでドラマを見ているかのような語り口が特徴です。
というのも、半藤さんは戦前生まれで、終戦時は15歳。その後、記者としてのキャリアをスタートし、戦前からの報道関係者や、戦前の政府の要人に直接インタビューをしています。そのため、自分自身が戦争の当事者であるだけでなく、戦前や戦時中に権力を持っていた人物の貴重な声を聞いてきています。

半藤さんがよく語る、空襲の翌朝の話が、戦争に対する姿勢を表しています。

焼け跡を見て、何を思ったか。俺はもう、この世で「絶対」という言葉は使わないぞ、と。「絶対に神風は吹く」とか、「絶対に日本は勝つ」とか、そういうことはありえない、そんなものはウソだと(後略)
「あの戦争と日本人」より

そんな自身の経験から、当時の政府や軍部に対しては、いささか厳しいです。ただ、厳しい目を持ってただ責める、というわけではなく、どうしてこんなことになったのか、という疑問をずっとたぐり寄せながら生きてきたんだということが伝わってきます。


この「昭和史 1926-1945」は、タイトルの通り、昭和のスタートから戦争が終わるまでの本。
昭和のスタートというと、日本人は関東大震災や金融恐慌を経験し、国の中枢では政府と軍部の足並みが崩れ始める、不穏な時期です。そこから日本の政府や陸軍・海軍がどのように行動したのか、彼らの臨場感あふれる会話や行動を綴っています。

本書では、世界情勢もちゃんと解説されますが、あくまでも日本人から見た歴史が描かれています。日本人は、戦争までして一体何を守ろうとしたのか。そんなことが気になる方に、おすすめの一冊です。


ちなみに、半藤一利さんは、太平洋戦争に関連する本を山ほど出版しているので、好みによって本を選ぶのもいいと思います。
昭和史の全体的な流れであれば、この「昭和史 1926-1945」。一つの戦闘や事件を追うのであれば、「ノモンハンの夏」や「日本のいちばん長い日」。一人の人生を追うのであれば、終戦時の首相の人生を描いた「聖断」。もう少しコラム的なものであれば「あの戦争と日本人」あたりがおすすめです。ちなみに宮崎駿監督との対談「半藤一利と宮崎駿の腰抜け愛国談義」なんて本も出ています。どの本も、とても読みやすいですよ。



「昭和天皇独白録」 (寺崎英成、マリコ・テラサキ・ミラー)

最後の1冊はこちら。タイトルの通り、昭和天皇が自ら語った記録です。

昭和天皇は、東京裁判で戦争責任を問われていません。そのため、なんとなく「天皇がどう戦争に関わっていたのかはっきりしない」イメージがあります。私も昭和史について学ぶ前は、「なんでそんなに権力があるのに戦争を止めなかったんだろう」程度にしか思っていませんでした。

しかし、実際には、側近たちによる回顧録や、自らの発言から、どのような役割を果たしていたのかはだいぶ紐解かれています。そこには、一人の人間が国家の一機能であろうとした姿が、生々しく見えてきます。

この「昭和天皇独白録」は、戦争が終わった翌年の3月~4月に、昭和天皇自らの希望で、戦争に至るまでのこと、そして終戦までの出来事について、側近たちに当時の考えや現在思うことを語って、メモを取らせたときの記録です。その場に同席し、メモをまとめたのが、寺崎英成さん。しかし、このメモが発見されたときは既に亡くなっています。

昭和天皇が、国家制度のもとで自分の役割をどう捉えていたか。内閣や軍部に対しどのように振舞うと決めていたか。自分が同意しかねる決定にも裁可を与えたのはなぜか。天王自身の率直な発言が綴られています。

解説があるのでわかりやすいのですが、ひとつひとつの事件を知らないと少しわかりづらいと思うので、戦争までの出来事は全然知らない!という方にはあまりお勧めしません。前述の「それでも、日本人は戦争を選んだ」や「昭和史1926-1945」のあとにおすすめです。


さらに、解説は半藤一利さんなのですが、巻末に昭和史の専門家や作家4名による「座談会」の記録が載っています。これがちょっと面白い。座談会というと穏やかなイメージですが、4名の意見は合わないことも多く、「いやいや、僕はそうじゃないと思うんですね」「それはないでしょう」「あなたの忖度でしょう?」という会話が繰り広げられています。
要するに、みんな好き勝手に言いたいことを言っているんですが、ああこれだけ解釈が違って当然なんだ、違う意見で一堂に会して議論すればいいんだ、というお手本になるかと思います。


そしてもうひとつ余談ですが、この昭和天皇独白録の他にも、戦争の当事者が残した記録はいろいろあります。戦時中のイギリス首相チャーチルや、戦後に日本の首相を務めている芦田均も、第二次世界大戦の回顧録を残しています。
なんとチャーチルは、この第二次世界大戦回顧録で、ノーベル文学賞まで受賞しています。クイズで「チャーチルがノーベル賞を取ったのは何賞?」という問題が出されたら、平和賞ではなく文学賞が正解なので要注意です。


以上、太平洋戦争に関連する4冊の本を紹介しました。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。自分の本棚の中から、この時期になると読み返したくなる戦争関連の本をご紹介しました。

たまに、歴史を学ぶことは「自分の国に誇りを持つこと」と言われることがあります。わたしは子供の頃から歴史好きでしたが、国に誇りを持つって何かしら、とずっと思っていました。正直、今でもちょっと思っています。

ただ、紹介した本の著者のように、過去の栄光も、過去の見たくないものも、どちらもまっすぐ見つめてこの先につなげようとする、そんなことができるようになったら、誇りのようなものを感じられるのかもしれません。


では、今年の暑い夏も、自分の祖父母が子供ながらに経験した戦争を思いながら、過ごしたいと思います。

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