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とある昔の恋の話

本当にあったかどうだか分からない昔の話。

今じゃアプリで出会うのは普通のことらしいけど、私の頃はまだネットで出会うというのは「あやしい」と言われる時代だった。

その頃の出会い系というのはヤリモクしかいないもので、掲示板やオープンチャットでの出会いのほうが健全だったんだ。時代も変わるもんだね。

で、オープンチャットで出会ったその人は、とても知性があって賢くて、いつも知らない世界のことを教えてくれた。

その人に「へぇ!」て思わせたくて、私に見どころがあるって思ってほしくて、心に残ってほしくて、私にしか出来ない言葉や言い回しを必死に考えたなぁ。

頑張ったおかげでその人は私に興味を持ってくれて、好きになってくれたんだよ。

金ピカの宝石を独り占め出来たみたいで私は嬉しかった。

金ピカの宝石を手に入れたから、私はいつもニコニコして、関係が壊れないよう大事に扱って、その人が言う「つらい」の言葉にも「大丈夫?心配だよ」としか言えなかったんだ。
それがあの人には「言ってるだけに聞こえる」って言われた。

うん。自分の自己肯定感の低さから、素晴らしく素敵なあの人を射止めた自分の価値が上がったように思って、それが嬉しかったんだね。
これが恋や愛と違うものなのかは分からないけどさ、でもあの人はそういう所を読み取っていたんだね。

だからね、「好きじゃないよね」って言われて、自分の愚かしさを突きつけられて、別れたんだよね。

愚かしさをどう克服するかって私はそれから何年もずっと考え続ける事になる。

友達としては続けて連絡を取り合っていたある日の夜、突然その人から「たすけて」ってメールが来たんだ。

すぐ電話して「どうしたの?大丈夫?」て、でも返事はろくになかった。その時すぐに会いに行けば良かったなぁ。

電話を切った後も数時間おきにメールを送り続けたり電話をかけたりしたけど返事はなくて、心配になって、その人の住む街に行くことにした。


と言っても詳しい住所知ってるわけじゃないし、会えるわけないんだよ。居てもたっても居られなくて、せめて近くに、何かあったらすぐ動けるようにって行っただけ。

ただあてもなくウロウロした挙げ句、夜が近付いて帰らないといけなくなったタイミングで、地元の友達という人から「見つかりました。自殺しようとしたみたいですけど、命は助かっています」と連絡がきたんだ。

数日後ぐらいに本人と話ができた。
何か家の事で心を砕くような事があって、夜の海に入ったんだって。
冬だったから凍傷になりかけてて近くの旅館に運びこんで、すぐに身体を温めてもらって無事だったそうだ。

私はもう凄く悲しくて、もうずっと死ぬほど泣いていたけど、本当に心が疲れてしまって頭もぼやぼやになっちゃって、ただウンウンとしか話を聞けなかった。

でもね、本当にその人が生きてて良かったとは思っていたよ。

そこから憔悴した私はしばらくして、置いていかれたんだな、みたいな気持ちになった。
私という存在ではこの世に止められないのかぁということも突き付けられちゃったんだよね。今後何をしてもそれがチラついてしまうのは、もう無理だなと思っちゃった。

そして、一切の連絡を辞めた。

つづく。

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