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夜明けのBEAT


フジファブリックが好きだった。

ボーカルの志村さんが亡くなったのは2009年12月24日で、私がその訃報に接したのは大学のサークルのみんなでクリスマスパーティーをして、オールして帰ったその朝。帰るなり先にニュースを見ていた母が「志村さん亡くなったよ!」と言った。信じられなかった。


人が亡くなるなんてのはその瞬間は全然実感がないものだ。父が亡くなった時だってそうだった。私は半年くらい経ってようやく、めちゃくちゃ泣けてきたことがある。実父だってそうなんだから、それが画面越しに、もしくはCDコンポ越しにしか会ったことのない人となると全く実感はわかない。


志村さんの追悼の雑誌、没後に出た最後のアルバム、とにかく買い漁った。3人で続いていくフジファブリックを見てようやく、だんだん、実感がわいていった。


ともにフジファブリックファンだった親友と、フジファブ祭と称して、カラオケで何時間も歌ったりした。志村さんは死んだけど、こんなにいい曲がこの世には残っている。私の好きな作家もそうだ。著者の生年月日と没年月日が巻末に書いてあるけど、生きた時代はズレてるのに、今こうしてこの本を介して出会える奇跡。作品を残すって素晴らしいことだなと思うようになった。志村さんは居なくなってもこうして歌が残るんだからすごいねと、友達と話した。


フジファブリックを一緒に歌った友人が居なくなったのもまた、突然のことだった。彼女が残した作品というものはなかったけど、私の中には色んなものが残った。一緒に行ったライブとか、その帰りに食べたラーメンの記憶とか。一緒に買ったギターとか。


父にも友人にも、家族や友達がいた。ある意味私は、父の作品かもしれない。たとえ作品という作品がなかったとしても、死んでいった人が残してくれた思い出とか、記憶とか、そういうのが残り続けるこの世というのは、尊い。


フジファブリックの「若者のすべて」という曲が高校の教科書に載る。もう15年近く前の曲だ。気づけば私の年齢も志村さんを追い越してしまった。時は流れる。それでも私は、今でも志村さんの居たフジファブリックが好きだ。志村さんの残した曲が好きだ。忘れられない。これから初めてこの曲に出会う人達がいるんだろう。それはきっと素晴らしい。


私も何かを、誰かに、残したい。    



                                                     

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