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コラム:ガンダム入門講座(宇宙世紀編その2)

 ガンダム入門講座、今回は第二回となります。
 前回の記事は以下に。初代ガンダム~閃光のハサウェイまで、主にアムロとシャアが軸となるシリーズを纏めてあります。  


 さて、今回紹介するのも宇宙世紀シリーズの作品なのですが、前回の記事とはやや前提が異なります。それはアムロとシャアは一切関係しない物語であるという事です。大別すると、以下の二つに分類できます。

 ①富野由悠季氏が監督するアムロとシャアの時代より未来の宇宙世紀
 ②別の監督によって制作された外伝作品(ほとんどが初代のスピンオフ)

 いずれも宇宙世紀を舞台にした共通の世界観であるものの、アムロとシャアを軸にしたサーガとは(一部の例外を除き)直接の接点を持たず、基本的には独立した作品として見る事が可能です。


①逆シャア以降の富野ガンダム

 ガンダムシリーズの生みの親である富野由悠季監督は『逆襲のシャア』以後もいくつか宇宙世紀のガンダムを手掛けますが、いずれもアムロとシャアが活躍した時代よりも30年以上先の未来を舞台としており、事実上の新シリーズとなりました。しかし大人の事情でそれらがアニメ作品として地続きとなることはなく、結果的にはいずれも独立した作品となりました。

機動戦士ガンダムF91

 入門オススメ度:★★★★☆

 ・劇場新作としては二作品目。綺麗にオチはついているものの、元々はテレビシリーズの予定だった作品の1クールを濃縮還元した代物であるため、未回収の伏線も多く残りました。

 宇宙世紀0123年。『初代ガンダム』の一年戦争から40年以上が経過し、マフティー動乱以降は大きな戦乱もなく平和な時代が続いていました。しかし案の定、地球連邦政府の腐敗は進み、特権階級による地球の独占や環境汚染は悪化の一途を辿っていました。
 そんな状況を憂いたマイッツァー・ロナ(覚えなくていいです)という人物が高貴な精神を持つものが世を統べるべきであるという「コスモ貴族主義」を掲げ、地球の既得権益を打倒して能力主義の理想国家を打ち立てるべく、「クロスボーン・バンガード」と呼ばれる私兵部隊を組織してコロニー「フロンティアⅣ」に攻撃を仕掛けます。

 長らく戦争のなかった連邦軍は練度不足やMSの旧式化でまるで歯が立たず、フロンティアⅣに住む学生のシーブック・アノーは仲間たちと戦火の中を必死に避難して連邦軍の練習艦「スペース・アーク」に逃げ込みます。しかし正規のクルーの殆どが尻尾を撒いて逃げ出していたためにクロスボーン・バンガードの追っ手に対応できず、シーブックはやむを得ず、艦に搭載されていた最新鋭モビルスーツ「F91」に乗り込んで戦う事になります。

主役機:F91

 今回の主役機。運用テストの都合でたまたま積み込まれていた機体。主人公のシーブックは本機に搭載されたバイオコンピューターの開発に偶然にも母親が携わっていたという理由から、流れでパイロットを務める事になります。
 『逆襲のシャア』以前のモビルスーツは装備を増やすにつれて大型・高級化する傾向にありましたが、今作以降はコストや機動力を重視して小型化が志向されるようになります。νガンダムの全長が22mなのに対して本機は15mほど。プラモデルの同スケールで並べると違いは一目瞭然です。

 この機体の主武装は、背中から両脇に懸架されている「ヴェスバー」と呼ばれるビーム砲。出力を適時切り替えることが可能で、弾速が恐ろしく速い高出力ビームを発射する事で、ビーム・シールドを標準装備しているクロスボーン・バンガードのMSを貫通してブチ抜けるほどの威力を持ちます。
 その他、機体冷却の副産物として意図せず「質量を持った残像」を作り出す事が可能で、敵の目やレーダーの反応をかく乱して大戦果を挙げました。(本稿サムネのゲロもビームではなく排熱処理の光)

 そんなF91ですが、設定上はこの機体を「ガンダム」と呼べるかどうかについては議論の余地があり、小うるさいオタクには意地悪で詰められたりします。(実際、正式名称からガンダムのコードは外されている)
 しかし哀しいかな、この時代にはガンダムの伝説も既に過去のものとなって久しく、軍人の認識ですら「昔そんなモビルスーツがあったらしい」程度のもの。そのため劇中では顔の形状にあやかって現場で勝手に「ガンダム」と呼ばれるようになります。

私がそう判断した

☆総じて

 2時間という短い尺ながらも非常によく纏まった作品。制作の都合からその後の顛末が描かれる事なかった(準公式的な続編として漫画『機動戦士クロスボーン・ガンダム』が存在する)ものの、シーブックとヒロインのセシリーを取り巻く物語としては一応のオチが着いているため作品としては十分、鑑賞に堪える出来です。見ていると存在しないはずのテレビシリーズの記憶が無から湧いて出てくる事がありますが、そこはそれ。予備知識も必要ないので、入門にはちょうどいい塩梅だと思います。
 なにより主題歌が良すぎる。個人的にガンダムの楽曲では一、二位を争うベストソングだと思っているので一度聴いてみてください。

機動戦士Vガンダム

 入門オススメ度:★☆☆☆☆

 紹介する前に、まずは富野監督が本作のDVD-BOXが発売する際(2010年)に寄せたコメントをご覧ください。

見られたものではないので買ってはいけません!!

 続いて、本作のBlu-ray BOXの発売が決定した時(2015年)のコメントがこちら。

何がダメなのか探してください。

 御大はいわゆるツンデレさんなので実際はカリギュラ効果(「するな」と言われたことをしたくなる心理)を狙って言ってる所もあるとは思いますが、実際にこれを言わせるに足るだけの凄まじさがこの作品にはあります。

 その壮絶な内容から逆に有名かもしれないガンダム史上最大級の問題作。『無敵超人ザンボット3』『伝説巨神イデオン』に並ぶ三大黒富野作品の一角。あくまでもガンダムの入門編としては『Ζガンダム』の時ほどお引止めはしませんが、いま敢えてここから見始める人は勇者だと思います
 なお上記の埋め込みは初っ端から戦闘が始まっていてまるで意味が分かりませんが、何かのミスとかではなく正常です。(本来は第四話に当たるエピソードが第一話になっているだけなので……)

 作品の舞台は『F91』からさらに30年が経過した宇宙世紀0153年。現状、アニメで描かれた宇宙世紀としては最後年に当たります。
 この頃になると地球連邦はいよいよ腐敗を通り越して形骸化しており、宇宙の各サイドコロニーは勝手に独立し始め、挙句の果てにはコロニー間で格差の広がりから対立を深め、宇宙戦国時代に突入していました。

 そんな中でも、人々の救済を謳う「マリア主義」と呼ばれる信仰を掲げてサイド2に建国された「ザンスカール帝国」ギロチン処刑による恐怖政治を敷いて権威を強め、「ベスパ」と呼ばれる軍隊を率いてヨーロッパを軸に地球侵攻を企てます。(コスモ貴族主義と言いギロチンと言い、宇宙時代にどんどん中世へと逆行していく皮肉……)
 この時、明確な本土侵略を受けているにもかかわらず地球連邦はだんまりを決め込み、代わりに抵抗していたのは「リガ・ミリティア」と呼ばれる民間のレジスタンスでした。
 侵攻を受けたカサレリアという地区に住む主人公のウッソ・エヴィン(13歳)は例によって戦闘に巻き込まれ、どさくさに紛れてベスパのMSを強奪。そこで大立ち回りを披露したことで腕を買われ、リガ・ミリティアにヴィクトリーガンダムのパイロットとして迎えられます。

 ……と、ここまでが本来在るべき第一話~四話のあらすじなのですが、スポンサーの「ガンダムを一話目に出さないなんてありえない」という意向を受けてガンダムが登場する回を先に放送し、物語の開始時点のエピソードは第二話以降、ヒロインのシャクティによる回想として振り返る形で披露されました。この時点でもう難易度が高すぎる!

主役機:ヴィクトリーガンダム→V2ガンダム

 主役ガンダムには珍しく量産型。『閃光のハサウェイ』でブライト艦長が言っていたように歴代のガンダム・パイロットには反骨精神を持ったものが多かったためか、この時代「ガンダム」という名前は抵抗のシンボルになっていたようで、さらに勝利を祈願して「ヴィクトリータイプ」と位置付ける事で二重に験を担いだおめでたい機体。ただしこれに乗って戦うのは女子供ばかり。
 
特徴としては頭部、胴体、脚部と各パーツが変形・合体することでガンダムになる事。状況に応じたパーツの使い分けによる多様性のメリットのほか、生産性もコア・ファイター以外はコストが安く済む事から分離したパーツを敵にめがけてボンボンと特攻させる戦術が流行しました。

 後半に乗り換えるのはV2ガンダム。シンプルに「この機体だけでザンスカールとの戦力差を覆すこと」をコンセプトとして造られた、宇宙世紀ガンダムの総決算にふさわしい破格の性能。開発主任はウッソの母親ミューラ・ミゲル。これ母さんです。
 最大の特徴はミノフスキードライブ(事実上無限に近い推進システム)……の余剰エネルギーで発生する光の翼。要するにでっかいビームサーベルが漏れ出た状態であり、本来想定された機能を考えればただの欠陥でしかないものの、パイロットであるウッソの機転で都度にビームシールドやビーム砲、粒子かく乱など幅広く応用されました。

 なおこの上、強化パーツを換装する事でアサルトモードやバスターモード、果ては「V2アサルトバスター」と呼ばれる最強形態になれるのですが、アサルトバスターに関しては例によってスポンサーへの当てつけなのか、登場した回に対MS用のロケット砲を担いだ水着のお姉さん達に速攻で破壊されました。

は、裸のお姉さん達!?

偏在する狂気

 この時期の富野監督は、先述の第一話を筆頭にしたスポンサーの介入や会社の創設時から携わっていたサンライズ上層部が無断でバンダイに身売りしようとしていた事など、さまざまな制作上の困難を抱えて途中から以後数年間にわたって鬱が進行したと述懐しています。そんな監督の気分を反映してなのか、作品自体も『Zガンダム』以上に陰惨な方向へと舵を取り始めます。主要キャラクターの無残なまでの死に方などストーリー展開自体も俗に言う「鬱アニメ」の筆頭格ですが、それ以上におよそ正気では考えの及ばない発想が度々飛び出してくるのが恐ろしい。

 その筆頭がアドラステア級。通称「バイク戦艦」。異様なまでに強固な造りで、タイヤ部分に特攻をかけた程度ではうんともすんとも言わず、おかげで主要キャラクターが無駄に命を散らしました。
 何の為に造られたかと言うと、見た目通り巨大質量のタイヤで人、物を問わず進行方向にあるものを全て轢き潰すため。ザンスカールの女王マリアが地球に降臨する前に穢れた大地を浄化するという「地球クリーン作戦」の名目で使用されました。初めてこれを見た時、あまりの狂気を前に怖気が走ったのを今でも覚えています。当時の富野御大はアスファルトの上をまっすぐ歩けないほど精神を病んでおり、その状態でスポンサーから「子どもは戦艦大和みたいなのが好きなんだよ(そういうのを出せ)」と言われた事を受けて自棄になって提出した案がそのまま採用されてしまったというもの。通す方もどうかしている……。

ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか

 あと、これ。ザンスカールの宇宙要塞カイラス・ギリー。玉に溜めたエネルギーを竿から発射するビッグキャノンで艦隊ごと敵を撃滅することが出来ます。最終決戦の舞台は女性器だし。

なるわけねーだろこんな卑猥な大砲が!

 あとモビルスーツに「リグ・コンティオー」っていうのがいて、これをひっくり返すと……。エログロネタは御大曰く「アニメで出来ないから小説で憂さを晴らしている」との事ですが、今回はそれが本編で漏れ出ている辺りどれだけ過酷な現場だったかが伺い知れます。

「最後のニュータイプ」 ウッソ・エヴィン

「よォ!オレ、ウッソ・エヴィンってゆーんだ!!ヨロシクな!!」

 本作の主人公。東欧の不法居住区カサレリアに住む13歳の少年。『機動戦士ガンダムAGE』の第三部主人公であるキオ・アスノと並び、ガンダムのパイロットとしては、2022年の『水星の魔女』でエリクト・サマヤ(4歳)に塗り替えられるまで歴代最年少でした。
 幼少期に両親から虐待も同然に操縦技術やサバイバル術を徹底的に叩き込まれた彼は、ペンフレンドのカテジナさんをストーキングしながら逞しく生活を送っていました。しかしリガ・ミリティアとザンスカールの戦闘に巻き込まれ、MSを強奪して乗り回した事をきっかけに子どもながらレジスタンスの一員として戦争の片棒を担がされる羽目になります。

 ウッソは今で言う無双チート系主人公の先駆け的存在であり、両親の教育やニュータイプ的な素質を兼ね備えていた事から「スペシャル」と呼ばれてリガ・ミリティアの英雄扱いされるまでになります。
 そもそもこの時期にもなると脳波コントロールといった従来のニュータイプ専用の技術が科学的に代用されるようになった事や、ウッソ自身が生粋のアースノイドであった事が作用してニュータイプ(=宇宙環境に適応した新人類)の概念は時代遅れのものとなっていました。事実、ウッソがスペシャルと呼ばれる一方で、共感能力を持ったヒロイン・シャクティのような人間は身も蓋もなく「サイキッカー」と呼ばれて区別されています。
 そんな超人じみたウッソもまた、富野御大の恨みつらみを一身に背負う形で目の前で多くの仲間を惨殺され、妙齢のショタコン女性に全裸で迫られる「恐ろしい拷問」といった過酷な試練を負わされます。

「よくわかりません 母さんです」

 終盤には敵の精神攻撃も重なり、ガノタから「鋼のメンタル」と称される彼をしてついに一話丸ごと幻覚(という体の総集編)を見るなどして次第に追い詰められていきます。また、この事が尾を引いて前述した水着のお姉さんの事も幻覚だと思い込んだ結果、ガンダムで殴り殺してビームサーベルで焼くなどの凶行に及んだことも。

※夕方5時のアニメです

「見てください!」 シャクティ・カリン

 ともすれば本作最大の戦犯と目されるヒロインのシャクティ・カリン。ウッソの幼馴染である彼女もまた、巻き込まれる形でリガ・ミリティアに身を寄せます。戦争の過程で自らの出生に纏わる業の深さに気付きながらも、そんな荒んだ状況の中でも常に平和を模索して争いを否定するブレない精神性を保ち続けていました。
 ……と、ここまで書くと普通に良い子なのですが、平和を尊ぶ気持ちに異常なまでの行動力が伴っているため、本人が善かれと思ってやった行いの尽くが原因で状況が悪化し死人が出る有り様。それも一度や二度ではなくわりかし毎度の事であり、視聴者が展開に辟易するのはもちろん劇中でも「シャクティが『また』病気を起こしたんだよ!」などと言われる始末。以下はその一例。

私はモトラッド艦隊を地球へ向かわせないために、クロノクル司令に会いに行く決心をしました
ベスパの秘密警察についていく私を、ウッソは連れ戻そうとして、私の代わりにウッソのお母さんがカテジナさんのモビルスーツに捕まってしまったのです
次回、機動戦士Vガンダム『モトラッド発進』
見て下さい!

『機動戦士Vガンダム』第31話 予告

 
「見て下さい!」じゃないよ
 

 もっとも、いかに大人びて見えてもシャクティ自身がまだ幼く(ウッソも然り)子どもの差配ひとつで死者が増えるような状況こそが異常なので、必ずしも全ての責任を問えるかと言えば難しいのですが。
 上述のように彼女は次回予告のナレーションも担当しており、毎度あの「城之内死す」が可愛く見える程のネタバレ予告でキャラクターの惨たらしい退場が告知されるのも強烈。そして陰惨な方向に進む物語に反比例して、回を追う毎に元気になっていく「見て下さい!」の圧。

「おかしいですよ!」 カテジナ・ルース

いくら探しても悪い顔してるので主人公の隠し撮りで代用

 この作品の魅力を良くも悪くも8割がた担っている最凶のヒロイン、カテジナ・ルース。『Vガンダム』の話題になって二言目に出てくるのは彼女の名前。彼女がガンダム史上に刻み付けた傷跡はあまりに深く、「カテジナさん」と名を呼ぶだけでガノタの多くが眉をひそめるほど。本作のギャグ漫画を由来に付いたあだ名は「カテ公」。カテジナさんおかしいよ!

 カミーユとよく似た崩壊家庭でギスギスしながらカサレリア近くのウーイッグで暮らし、ウッソと交友があった(というより一方的にメールを送られるなどストーカーまがいの被害を受けていた)17歳のカテジナさんも戦火を逃れるべく、一時はリガ・ミリティアに身を置きます。当初はこの作品には珍しくまともな倫理観をお持ちで、戦争を嫌い、13歳の少年を最前線で戦わせて喜ぶリガ・ミリティアの老人達に反感を持ち、戦いに慣れていくウッソに対しても「怖い人にならないでね」と忠告するなどしていました。

 しかしベスパのクロノクル・アッシャーに捕えられてザンスカールで暮らすうちに、彼とマリア主義に傾倒。いつしか自分がベスパの一員としてモビルスーツに乗って戦うようになります。

怖い人になっちゃった

 それからの彼女は、内心では自分を満たせないクロノクルに見切りを付けつつも、気付いたころには虐殺に手を染めて引き返せないところに行き着いており、半ば開き直る形で、自らを阻むウッソに憎悪を向けるようになります。
 その支離滅裂さたるや筆舌に尽くしがたく、また本作随一の見どころでもあるため詳細は省きますが、監督曰く序盤の1クール時点で物語を牽引していくポテンシャルを感じ、2クール目の制作に入る頃には末路まで含めて方向性が固まっていたとの事。

 このように表層的には「悪女」の誹りも免れない蛮行に及んだカテジナさんですが、彼女がなにを思ってこのような行動に出たのか、その解釈は見る人によって大きく異なると思います。記事の都合上、取り上げざるを得ないので書きましたが、この作品をご覧になる方はぜひ先入観に惑わされず、自分だけのカテジナさんを探してみてください。それがきっとこの『Vガンダム』という作品を理解する上で最大の一助となるでしょう。

☆総じて

 あくまでガンダムの入口として考えると似た雰囲気の『Zガンダム』とは異なり縦軸の理解を必要としないだけマシ……とはいえ、それ以前に本作は純粋にアニメ作品としての難易度が上級者向け。終盤になるにつれてかなり宗教チックな領域に踏み込んでいる箇所もあり、人によっては気分を害する恐れもあります。
 よく引き合いとして『旧劇エヴァ』が挙げられますが、作り手の精神状態は似たようなものであれ、あそこまで内省的な事はなく、どちらかと言えばどこまでも自覚的に、やけくそになって出来上がったものがこれであるような気がします。(ただし庵野監督は本作がお気に入りとの事)

 そしてネタバレも何もないくらいキャラクターが当然のように退場していきますが、大抵の場合、MSが被弾して爆発するなんて生易しいものではなく、飛びぬけて酷い殺され方をするので推し文化に慣れている人ほど利くかもしれません。この作品で明るいのはハロとオープニングだけです。背景さえもずっと暗い。
 また、本作以降の富野ガンダムは従来の宇宙世紀シリーズの軸であったSF色を排して自然や宗教、環境問題といった地に足のついた題材を扱うようになります。その中でも『Vガンダム』は特に悲劇的であるものの、確かに現実へと訴えかけてくる迫力はあるため、この作品を完走すること自体が後の人生に残る強烈な体験になるのは疑いようのない事実なのだろうと思います。


 宇宙世紀シリーズの時系列はこの『機動戦士Vガンダム』を最後として以後、アニメ作品としては展開されていません。(ただし後に富野監督が手掛ける『∀ガンダム』や『ガンダム Gのレコンギスタ』はこの宇宙世紀の延長上にある事が示唆されています)

②外伝作品

 こちらは主にOVA(オリジナルビデオアニメーション)として展開されているシリーズ。単独で完結しているため入門のオススメ度は総じて高め。また全般的にテレビシリーズとは予算や製作のタイムスケジュールも別で考えられていたためか、作画のクオリティは軒並み高い水準でありガンダム抜きにしても一見の価値があります。
 基本的には『初代ガンダム』で扱われた連邦とジオンの一年戦争を前提として『Zガンダム』より前の時系列として描かれている事が多いです。そのため全ての作品でジオンが関係する一方、富野由悠季氏はいずれの制作にも携わっていないため、アムロとシャアはおろかニュータイプについては全くと言っていいほど触れられる事はありません。

機動戦士ガンダム 第08MS小隊

 入門オススメ度:★★★★☆

 ・初代ガンダムと前提を同じくする外伝作品。地上の前線にフォーカスした戦地の生々しさを描きつつ、敵と味方に分かれた男女のラブロマンスも。

 物語の舞台は『初代ガンダム』と同じく宇宙世紀0079の一年戦争。地球連邦軍の新米士官シロー・アマダ少尉は着任の直前にジオンの女性パイロット、アイナ・サハリンと共に宇宙で遭難事故に遭い、互いの協力の末に生還して別れます。
 その後、地球へ降りた彼は東南アジア方面軍の第08MS小隊の隊長として任務に就きますが、08小隊は各々が問題を抱えており前任者がノイローゼになって匙を投げるほどの不良部隊でした。誰も死なせない、生存第一を掲げる理想主義のシローは隊員から「甘ちゃん坊や」と失笑を買いますが、個々の問題に向き合いながら盛んに行動する彼の姿に感化されていき、小隊は次第に一つにまとまっていきます。

 他方のアイナはジオンの名家「サハリン家」の令嬢であり、兄ギニアスが開発を進める拠点攻撃用モビルアーマー「アプサラス」のテストパイロットとして地上に降り、08小隊と交戦。その結果、再びシローと雪山で遭難し、敵同士でありながら愛を育む仲になります。救助された二人はそれぞれの陣営からスパイ容疑をかけられるなどして悩みながらも互いに前線へ赴き、ついに完成したアプサラスの起動を以て事態は終局へと向かっていきます。

 本作は製作途中で監督が体調を崩し、そのままこの世を去ったために第6話以降は別の監督が遺稿に沿って完成させたもの。交代に際してとりたてて矛盾や破綻は見られないものの、引き継いだ故・飯田監督は主人公のシローを心底嫌っていたため終盤の展開にはやや影響している節があります。

主役機:陸戦型ガンダム

 前半の主役機は主人公シロー・アマダ少尉と彼が率いる08小隊の搭乗する陸戦型ガンダム。あのアムロが乗った「RX78 ガンダム」を生産するにあたっての規格外品を流用する形で生産された量産機。曲がりなりにもガンダムなのでそれなりに高級機であるものの、整備や修理の都合がつかず、破損した頭部メインカメラをジムの頭で代用するなど現場の苦労がありありと伝わってくる機体です。

「輝き撃ち」

 本編には一切関係ない余談なので読み飛ばして頂いて問題ありませんが、陸戦型ガンダムで特に話題に上るのが俗にいう「輝き撃ち」問題。
 本作のオープニング「嵐の中で輝いて」の中でこの機体が登場した際、180mmキャノンという長距離砲を撃つカットがあるのですが、

問題のシーン

 一見するとシールドを銃架にしているようにも見えますが、おそらく遠近法の問題で実際には盾に砲は載せていないのではないかというもの。このシーンだけなら何のことはない話なのですが、公式にもよほど印象的なカットに映ったのか、ガンプラの販促ではほぼ必ず「再現」される場面となり……

 載せてる。ついでに言えば、原作が直立なのに対してプラモデルのポージング(可動域)をアピールする為なのかほとんどの場合で膝立ちをしている。これをあたかも原作を再現しているかのようにセールスポイントとして強調している事がオタクのめんどくさい部分を刺激し、結果、ガンプラがリリースされる度にチェックされるポイントと化しました。
 むろんこんなことが真面目に議論されているわけではなく(中にはマジになっちゃう人もいますが)半ば当て擦りの範疇であり、結論としてはどっちでもいいのですが、良くも悪くもこの機体の話題と言えばそれくらいのものであり、なにより正しい「輝き撃ち」の角度を指摘出来れば周りから一目置かれる事は相違ないので敢えて紹介しました。以下はその実例。

主役機:ガンダムEz8

 後半は大破したシローの陸戦型ガンダムを現地で改修したEz8(イージーエイト)。
 特徴はとにかくガンダムらしからぬ見た目。もはや面影がありませんが、これは先述の通り修理パーツの都合がつかない事と、ガンダムの証であるV字アンテナが08小隊の主戦場である密林地帯において非常に破損しやすいためオミットされた事が主な原因。
 主役機にふさわしい活躍の上、Blu-rayBOXの特典で新規アニメが描かれるなど決して不遇と言うわけではないのですが、後述のグフカスタムが強烈すぎるせいでなにかと話題は喰われがち。

大人気MS:グフカスタム

 はっきり言って本作の見どころを8割くらい形作り、全ガンダムシリーズでも五指に入るほど屈指の人気を誇る名機グフカスタム。一時期の僕は08小隊について、本機が登場する第10話「震える山(前編)」さえ見ていればいいという極端な思想を持ち、当時のフォロワーに咎められたほど。(だってGジェネで再現されるのこれとアプサラスしかないし)

 パイロットはジオンの貴族サハリン家に仕えるノリス・パッカード大佐。味方の脱出艇の脅威である量産型ガンタンクを殲滅すべく、サウンドトラック「Ⅶ」を背にたった一機で護衛の08小隊を翻弄する様はまさしくエース。見返すとあまりの格好良さに震えながら涙が出てきます。
 なおこの機体はあまりに人気過ぎるせいで、主に掲示板のスレなどでは好きなモビルスーツを訊かれた時に本機とケンプファーの名前を挙げると即座ににわか判定されるという哀しい風潮があります。皆さんは誰に何を言われようと好きなモノは好きと胸を張って言える人間になってください。

戦場ドキュメンタリー的なガンダム

 本作は「一年戦争」という大きな戦争におけるミクロな局地戦にフォーカスを当てた、戦地のガンダムが描かれています。そのため特に前半は戦場の劣悪な環境や地上兵器としてのMS、現地ゲリラとの交流といったこれまでになく生々しい戦争描写が随所に織り込まれているのが特徴的。シリーズでは異例となる職業軍人が主役(盗んで乗り込む民間人が多数を占めるため)なのもポイント。ある意味で「リアルロボットアニメ」としての『ガンダム』を別の角度から志向した意欲作となっています。

☆総じて

 後述するOVAシリーズと同様に話数の少なさやクオリティの高さから見やすさはトップクラス。初代ガンダムとはいくらか前提を共有しているものの、直接的には関係ないので予習も特には要りません。Amazonプライムなどのサブスクにも対応しているためアクセスも完備。
 内容に関しても取り立てて非の打ち所はなく、作中でも度々指摘される主人公の甘ちゃんっぷりを受け入れられるかどうかくらい。(実際、監督には嫌われていた)
 特別編として本作の後日談を含めた『ラスト・リゾート』、劇場版として『ミラーズ・リポート』の二作品がありますが、劇場版の方はお世辞にも良い出来とは言えないので観ない方がいいです。

機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争

 入門オススメ度:★★★★★

 ・こんな記事を書いておいて言う事ではありませんが、本当に迷ったらこの作品を見てください。可能ならクリスマスに。

 一年戦争末期。連邦軍が新型のガンダムを開発しているという情報を聞きつけたジオン軍の「サイクロプス隊」は拠点である北極基地を襲撃するも作戦は失敗、ガンダムは宇宙へと打ち上げられてしまいます。
 その行方が中立のコロニー・サイド6である事を察知したジオンは再びサイクロプス隊にガンダム強奪作戦「ルビコン計画」を命令。新米のバーナード・ワイズマン伍長(バーニィ)はザクで侵入を試みますが、あえなく墜落してしまいます。
 一方、中立地帯であり戦火から遠いサイド6の小学生アルフレッド・イズルハ(アル)は戦争の過酷さを知らぬまま軍や兵器に興味を持って近づき、墜落したザクとサイクロプス隊の面々に遭遇します。

 戦争に興味津々のアルと作戦前に騒がれると困るため、隊長から半ばお守り同然に彼の監視役を命じられたバーニィ。そんな中、アルは隣人であり姉のような存在であるクリスチーナ・マッケンジー(クリス)と再会。その縁をきっかけにして、バーニィとクリスもまた互いの素性を知らぬままに交友を深めていきます。

主役機:ザクⅡ改

 本作の主役機体はザク。ついにガンダムを差し置いて主役を飾る快挙を成し遂げます。

 日本一有名なやられメカであるザクⅡを「統合整備計画」に基づいて改修した新型。連邦の10年先を行くとされたジオン脅威のメカニズムを誇る公国軍でしたが、新型を場当たり的にロールアウトさせていた事が仇となり、自軍の兵器に互換性がないまま戦場へ放り出し、現場の整備兵を唸らせました。
 ついでに言えば操作系統すら機体毎に違う為、ザクに慣れたベテランが新型のゲルググに乗り換えてもしっくりこないなど機種転換の問題でパイロットをも唸らせます。

例としてグフはこんな手なのでザクマシンガンを握れない、など

 この問題にようやく思い至ったジオンがMSの規格を統一すべく打ち出したのが「統合整備計画」。これによってザクⅡ改は新米のバーニィでも運と気合で頑張ればガンダムと戦える性能を獲得したのでした。

アレックス(ガンダムNT-1)

 本作のガンダム。アレックスの通称は型式番号の「RX」をもじったもの。
 スポンサーという軛を逃れたためか、全6話中の3話目でようやくのお目見えという極端な機体。それも本当に顔見せ程度で、肝心の戦闘シーンに至っては4話からという超重役出勤ぶり。しかものっけからV字アンテナの片方がへし折れるというアスティカシアの決闘委員会が見たら失笑物の絵面で。

 実はこのアレックス、「ガンダムでは性能が不足する」というアムロの要求に応えるべく用意された事実上のニュータイプ専用機。そのため導入されている技術も数世代先の物が取り入れられており、ロストテクノロジーの一歩手前という代物。
 すなわち亜光速のビームを先読みして回避し、メインカメラが失われた状態でも正確な射撃を行える変態のために用意されたガンダムであるため、まともな人間が使いこなせる訳もなく、本機のテストパイロットも終始、このじゃじゃ馬に振り回されることになります。それでも襲いかかるケンプファーを蜂の巣にして蹂躙するほどの圧倒的な性能を見せており、これがアムロの手に渡っていたと思うとゾッとしません。

大人気MS2:ケンプファー

 ジオン軍の試作型強襲用モビルスーツ。その人気の程はシリーズ全体を通して星の数ほどもあるMSの中で、あのグフカスタムと並び名前を出しただけでにわか判定を食らうレベルの殿堂入り機体です。
 デザインはνガンダムやパトレイバーでお馴染みの出渕裕氏。本作のMSは「統合整備計画」の設定も含めたデザインワークスの一切を同氏が担当しているのですが、モビルスーツの戦いがメインの作品ではないのにもかかわらず、どれも秀逸としか言えないものばかり。僕はゲルググJが好きです。

戦場まで何マイル?

 本作の主人公は普通の小学生であるアル。担当声優は今をときめく浪川大輔氏……の声変わり前という何気に貴重なフィルムです。

 本見出しは、中立地帯から目の前の戦争を無邪気に眺めるばかりである彼の視点を率直に表した第一話のサブタイトルからそのまま拝借しました。主役機としてザクを挙げたものの、本作のテーマは「少年が見た戦争」であるため、従来の要であるMSの戦闘シーンは極力排されています。

☆総じて

 あえて詳しい事は書いていません。(代わりに余分な事はいっぱい書きましたが)
 先だって述べた通り、ガンダムの入門に適した作品についてはファンの間でも意見が割れるので絶対的な回答はありませんが、それでもこの作品を挙げられると表立って否定することは出来ないと思います。
 ボリュームも全6話と圧倒的にコンパクトなので、ひとまず予備知識とか抜きにして見始めるのがいいんじゃないかと思います。可能であればクリスマスシーズンのお供にでも。ただし個人的には、シリーズ全体を通じて絶えず訴えかけてくるテーマをある程度踏まえた上で本作に臨む方がより響いてくるものはあるのではないかとも考えています。

機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY

 入門オススメ度:★★★☆☆(3.5くらい)

 ・『ポケットの中の戦争』とは対照的なめちゃくちゃに濃いガンダム。ある意味でMS戦の極致。作画の線量が尋常じゃない。

 一年戦争終結の3年後、宇宙世紀0083。戦争で傷付いた連邦軍再編の一環として「ガンダム開発計画」で製造された二機のガンダムがオーストラリアのトリントン基地に搬入されました。
 しかしそのうちの一機で核攻撃能力を持つ「試作2号機」をジオン残党組織「デラーズ・フリート」のアナベル・ガトー少佐が強奪。2号機を取り返すべく、残る「試作1号機」に連邦軍の新米パイロット、コウ・ウラキ少尉が乗り込みます。
 ウラキ達は奮戦するものの、ジオン残党の命懸けの時間稼ぎによって奇しくもガトーを取り逃がしてしまいます。そして舞台は宇宙へ。ガンダム試作2号機とともに核を手にしたデラーズ・フリートは地球連邦に対して改めて宣戦布告、「星の屑作戦」の決行を宣言します。

主役機:ガンダム試作1号機→ガンダム試作3号機

 前半の主役である試作1号機は「ガンダム開発計画」によって連邦軍とアナハイムの共同で造られたガンダムの一つ。初代のRX-78をベースに人型兵器の利点を最大限に追求することをコンセプトに生まれた機体です。後に宇宙での運用に堪えるべく「フルバーニアン」として改修されることになります。
 『0083』という作品自体が『初代』と『Zガンダム』の合間を埋めるミッシングリンクを担っているのもあって設定上、ここで用いられる技術は後のMSに通じていきます。ただしこの機体に限らず、本作のMSは何故か『Zガンダム』に登場する0087年製の物と比べてもオーパーツかと疑うくらいにカタログスペックが上。そのため旧来のファンからは批判の声も。(いちおう理由付けはありますが割愛)

 後半に乗り込むのは残る試作3号機……デカすぎんだろ。間違いなく現状のシリーズで最大の主役ガンダム。その全長は驚愕の140mであり、初代ガンダム10機分以上。頭がおかC。1/144のスケールでプラモデルが発売されているのですが、割り算をするまでもなく1メートル越え。
 逐一、紹介はしませんが積んでいる武器の数も威力も滅茶苦茶で沈めた戦艦も数知れず。代わりに運用コストも物凄い事になっています。この機体に付けられたコードネームは「デンドロビウム」。花言葉は「わがままな美女」。言い得て妙。

ライバル機:ガンダム試作2号機→ノイエ・ジール

「ソロモンよ、私は帰ってきた!」

 ガンダム開発計画で生み出されたうちの一機。例によって「ガンダムの2号機は盗まれる」ジンクスによって、ジオン残党のアナベル・ガトー少佐に強奪されてしまいます。この機体を携えてガトーが発した上記のセリフはガンダムを知らない人でも一度は聞いたことがあろうかというほど有名。
 
この機体が奪われる原因になったコンセプトは、ずばり「核攻撃能力」。「最強のモビルスーツであるガンダムに最強の兵器である戦略核弾頭を積めばより最強なんじゃないか」と考えた連邦軍首脳部のトチ狂った発想をそのまま実現した結果がこれだよ! 分厚い装甲もでっかいシールドも徹頭徹尾が敵の攻撃ではなくパイロットの被ばくを防ぐための物で、核兵器以外の武装は頭部バルカンとビームサーベルのみ。漢の機体過ぎる……。

 その後、役目を終えた試作2号機からガトーが乗り換えたのはアクシズ製のモビルアーマー「ノイエ・ジール」。活躍の程は本編を見るか上記の埋め込みでご理解いただけると思います。
 ガトー曰く「ジオンの精神が形となったようだ」というほどの機体。彼ほどのジオニストがこのMAの圧倒的な性能を見ればそう思うのも納得ですが、この場合はそういう事ではなく、

ジオン軍のマーク

本当に形にする奴があるか

「幻の撃墜王」コウ・ウラキ

入社前→入社半年

 本作の主人公。あまりの豹変ぶりから『ガンダムUC』のリディ・マーセナスと並んで軽くネットミームになってしまった男。もしかするとガンダムは知らないけど彼がベジータの声でニンジンが嫌いな事は周知の事実なのかもしれない。
 開始時点では連邦軍の少尉で新米のテストパイロット。目の前で2号機が強奪された事を受け、すぐさま残る1号機に乗って追撃した事からそのまま正式なパイロットに。序盤はシローとは別の意味で甘さが拭えず(画面左)ガンダムも壊してしまいますが、ガトーとの死闘を経るうちに成長していき、終盤には漢の顔を見せるようになります。(画面右)

「ソロモンの悪夢」 アナベル・ガトー

 本作のライバルにして、レジェンド声優・大塚明夫氏の代表格。シリーズでも屈指の人気を誇るキャラクターのひとりです。一年戦争では「ソロモンの悪夢」と呼ばれたエースパイロットで、その伝説は連邦軍の士官学校でも教本に載るほど。この声、この貫禄で25歳
 特筆すべき点として、彼こそは生粋のジオン魂を宿したジオニスト(言ってしまえば極右軍人)であり、公国軍の再興とスペースノイドの自治独立に身命を賭す真の男。彼の命を拾って再起を促したデラーズ閣下の大恩に報いるべく、「星の屑作戦」の実行役として非常に大きな役割を果たします。

「宇宙の蜉蝣」シーマ様

本作のヒロイン。

 あの『ガンダムZZ』のラスボスであるハマーン・カーンと並んでガンダム三大女傑の一人。海賊も同然の愚連隊を率いる豪胆さと外連味溢れる独特な言い回しが癖になり、ガンダムファンの間ではカルト的なまでの人気を誇ります。
 先の一年戦争では主に虐殺などの汚れ役を引き受けた叩き上げの「シーマ艦隊」を率い、表向きは星の屑作戦に従事しつつもその裏で暗躍。戦争で信念を貫こうとする男たちばかりが賛美される傾向にある本作において、常に虐げられる立場にあった彼女の怨嗟は作品のアンチテーゼとして一石を投じます。
 そしてこれはもはや界隈における常識なのですが、彼女を呼ぶときは必ず「様」を付けるようにしてください。呼びタメ厳禁。シーマ様!

 シーマ様の愛機である「ガーベラ・テトラ」には個人的にお世話になっているため、別途で記事を設けてあります。

「ガンダム三大悪女(?)」  ニナ・パープルトン

 この人の話をすると荒れるので出来ればスルーしたかったのですが、やむを得ません。本作のヒロイン……ガンダム開発計画を手掛けた月の企業アナハイム・エレクトロニクス社員のニナ・パープルトンさん。あのカテジナさんと並んで「ガンダム三大悪女」と称される悪い方面に有名人。

 劇中ではパイロットとエンジニアの立場、そしてMSオタクという共通の趣味から主人公のウラキと良い感じになるのですが、手塩にかけて造ったガンダムに愛着を持つあまり、ガンダムを壊して帰ってくるとブチギレて険悪なムードに。それだけならまだしも彼が命懸けで宿敵ガトーの乗るガンダムと相討ちになって発した第一声、「嫌ぁー! 私のガンダムが!!」は本作でも随一の迷言として知られます。 
 終いには、ガトーとかつて恋仲であった事が唐突に発覚。元カレとイマカレとを秤にかけた彼女は前者を選んでウラキに銃口を向けます。

なんで?

 怒りと困惑で呆然と立ち尽くすウラキは思わず……

 この表情。是非もなし。その後、エンドロールまで二人が再会する事はありませんでしたが、事件の処理が済んだ一年後のエピローグにおいて、諸々あって服役を終えたウラキを悪びれる事なく満面の笑みで迎え入れた事で彼女の評価が決定づけられました。(あんまり過ぎたのか劇場版ではカット)

 いちおう彼女の名誉のため、なぜこんなことになってしまったのかを補足しておくと、偏にOVAあるあるの監督交代による歪みゆえ。事実、第一話でガトーがガンダムを強奪する場面に立ち会った時には「誰よ!?」と咎めています。
 そんなニナの数々の奇行には小説などの他媒体で非常に苦しいながらもフォローが入ったり、漫画版においてはそもそも狂人として描かれるなどあらゆる角度から矛盾を解消するいじましき努力が続けられています。

☆総じて

 入門編としての評価は作品の時系列が『機動戦士Zガンダム』の前日談に当たるため、他の外伝と比べると多少マニア向け。ジオン色が非常に濃い事も踏まえると『初代ガンダム』もある程度、前提になってきます。
 良くも悪くも非常に男臭い作品であり、信念を振り向けた彼らの躍動がとにかく目に付くため、そういった雰囲気が得意でない人にはやや厳しいかもしれません。
 一方で前作『ポケットの中の戦争』でガンダムの登場巻だけ露骨に売り上げが伸びたことを受けて、MS戦闘もコクピットの細部に至るまで精密かつ鮮明に描き込まれており、劇場化が決定した事による画面対応も相まって、当時隆盛を迎えた90年代のOVA文化の集大成的な「ロボットアニメ」に仕上がっているため、いちアニメーション作品としては必見の出来。

 本作をきっかけに、現実でも熱烈なジオニストが増えました。ただし如何にフィクションとはいえジオンは劇中で大量破壊兵器による虐殺を行う独裁国家の設定であるため、その点をまったく無視して過度に崇めることは(昨今の情勢も加味すると)現実的にも危険が伴います。あくまでも創作物に対する態度は忘れず節度を以て臨みましょう。

終わりに

 宇宙世紀編の纏めはとりあえずこれで一区切りの予定です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

 本稿では扱いませんでしたがその他、宇宙世紀をテーマにしたOVA展開では、

  • 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』

  • 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』

  • 『機動戦士ガンダム MS IGLOO』

  • 『機動戦士ガンダム Twilight AXIS』

 など、まだまだ数多くあります。

 ただし余裕があれば別の記事で纏めるかもしれませんが、現状これらの作品はそれぞれ個別の理由で入門には適していないと考えているため今回は除きました。(作品の質が他より劣っているとかではありません)
 『機動戦士ガンダム サンダーボルト』に関しては今後、地上波での放送予定があるため、その際にTwitter等で何か呟く事はあるかもしれません。

 次回以降は宇宙世紀以外を舞台に描かれた「アナザーガンダム」について纏めていきます。こちらの方が比較的新しい作品が多いので、作画の古さなどをネックに視聴を躊躇っている方はしばし更新をお待ちいただけますと幸いです。


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