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コラム:ガンダム入門講座(宇宙世紀編その1)

 今回はガンダムの入門講座になります。調子に乗っていろいろと書いてしまいましたが、結論だけ知りたいという方は基本的に大見出しと各作品の総評だけ読んでもらえれば大丈夫だと思います。

 ちなみに最新作の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が絶賛放送中です。他のシリーズとは繋がりがない単独作品なのでお気軽にどうぞ。(2022年11月現在)

 個人的には地上波で毎週、新作ガンダムやってるという事実だけでも嬉しいんですが、内容も目下、インターネットでも概ね好評を博しているのでこれ以上は無いといったところ。とはいえ、あれこれと物議を醸して放映枠ごと蒸発した『鉄血のオルフェンズ』も第一期の放送時点では好意的な受け止めがなされていた記憶があるのでまだまだ油断はできません。

 最近はミームでバズった『閃光のハサウェイ』の公開などもあって、これを機に今まで敬遠していたフォロワーもガンダムに手を付けてくれるようになりました。これは実際大きな進歩であると言えるでしょう。
 しかしひと口に「ガンダム」と言っても長期IPだけあって無数に枝分かれし、地上波で放送された、いわゆるテレビシリーズだけに絞っても膨大な話数に直面するため、慄く人も多い事と思います。

 残念ながら薦める側のオタクも「ガンダムはどこから観ればいいのか」という当然の質問に、絶対的な答えを持ち合わせてはいません。なぜならこれをガノタに訊いてしまったが最後、個々の信条のもと確実に議論が紛糾してコメントの中の戦争となってしまう事は明らかだからです。そもそも「話数が多い」とか「画が古い」とか言われて観てくれなかったりするしね……。

勝利者などいない 戦いに疲れ果て……

 なので今回はあくまで目安としていちおう普及している「宇宙世紀」「アナザー」のシリーズ区分を用いて、独断と偏見のもとで各作品を大雑把に紹介していこうと思います。
 長くなるので先に個人的な見解として、身も蓋もなく結論だけ述べてしまうと、どんな長期シリーズも画面に抵抗が無ければ初代、もしくはその都度の最新作を追うのが間違いないだろうと思います。


宇宙世紀とは

 ガンダムシリーズの中でも、いわゆる初代の『機動戦士ガンダム』から設定上の時系列が地続きになる作品で用いられる劇中の紀年法を指します。OVAや漫画連載などの外伝や派生作品までを含めるとおそらくコンテンツ全体の6~7割ほどはこの時系列で展開されているので、断りがなければガンダム≒宇宙世紀という前提になることが多いです。近年に映像化された作品の中では『閃光のハサウェイ』や『機動戦士ガンダム サンダーボルト』もこれに含まれます。

 いまこの瞬間にも新しい派生作品が続々と生まれているであろうことを踏まえるとあまりの長大さに意識が遠のきますが、いわゆるナンバリングタイトル、正史的な見方に限れば、下記のような基準で要点を押さえられます。
 まずひとつはアニメ作品として映像化されている事。少なくともサンライズがたまにリリースする宇宙世紀の公式年表に含まれるには、最低限これが暗黙の了解と化している節があります。(勿論アニメになったからといって全ての設定が公式に反映されるわけではありませんが)
 さらにもうひとつは、アムロ・レイとシャア・アズナブルのいずれかを軸に物語が展開される事があります。

 アムロとシャアの関係はおそらく日本のアニメ史上最も有名な主人公とライバルのひとつですが、この二人の因縁は初代ガンダム以降の宇宙世紀にも持ち越され、物語の因果そのものに深く関わってきます。逆にこの二人が関係しない作品はいくつかの例外こそあれ、基本的にはアニメであろうとなんであろうと、宇宙世紀のサーガとして見た場合はやや外伝的な、一歩引いたポジションに落ち着く事になります。(独立した作品として見やすくなるので入門としてはあり)

 今回の記事では原則として、以上の2つの基準を柱として進行していくこととします。

機動戦士ガンダム(初代)

 入門オススメ度:★★★★★

 ・何はともあれまずは初代。画面の古さに抵抗がない人は是非とも第一話だけでもご覧ください。『エヴァ』を作るにあたって本話を研究し尽くした庵野秀明をして、「完璧すぎて及ばない」と白旗を上げさせた導入です。

 物語の舞台は、増えすぎて賄い切れなくなった百億もの地球の人口を宇宙に送り出すようになって半世紀以上が過ぎた宇宙世紀0079。(ダブルオーセブンティーナインと読みます)
 地球圏の統一国家である地球連邦に対して、植民地である宇宙のスペースコロニー・サイド3が「ジオン公国」を名乗って独立戦争を仕掛け、開戦の僅か一週間足らずで総人口の半数である50億人以上を死に至らしめ、さらにそこから半年ほどで戦線が膠着状態に陥っているという凄惨極まる背景から物語がスタートします。
 主人公のアムロ・レイは端的に言えば「地元で親父がガンダムを造っていた」せいで戦火に巻き込まれ、なし崩し的にガンダムに乗り込んだためにそのままジオン軍と戦う羽目になります。(機密性の高い軍事兵器を勝手に動かしたせいで民間人ではいられなくなる)

☆「ジオン」とは

 この初代ガンダムに限らず、宇宙世紀を語る上ではどうしても外せないワード、それが「ジオン」です。後のシリーズを含め、舞台背景の根幹に関わってくるのでアムロとシャアに関係なくとも、ジオンの存在だけは無視できない場合が多いです。(『閃光のハサウェイ』以降の時系列では消滅)
 地球から宇宙を実効支配する連邦政府に対して、独立運動を盛んに行っていたコロニー・サイド3に建国されたのが「ジオン公国」です。
 その実態は、運動の中心であった思想家であり、シャアの父親でもあるジオン・ダイクンを暗殺した「ザビ家」による独裁政権であり、モデルはヒトラーの第三帝国とされます。

 ザビ家自体は最終的に崩壊するものの、地球連邦に真っ向から独立戦争を仕掛けたことで「ジオン」の名は宇宙移民者による反連邦運動の旗頭となって残り続け、後の宇宙世紀シリーズでも大いに禍根を残し続ける事になります。
 このように宇宙世紀を舞台にしたシリーズでは、地球で既得権益を貪る特権階級(アースノイド)と棄民政策で宇宙に強制移住させられた移民者(スペースノイド)の対立が世界観の軸となっています。
 この「地球と宇宙の分断」という対立構造そのものはアナザーの作品群においても、それぞれの世界観で継承されていく要素でもあります。現在放送中の『水星の魔女』では逆に宇宙の企業複合体が地球に労働者階級を縛り付ける形ではありますが、この構図が踏襲されているのが分かります。 

主役機:ガンダム(RX‐78‐2)

 日本一有名な主役ロボットのひとつ。基本的に作品と同様に「初代」と呼ばれますが、混同を避ける場合は型式番号の「RX-78」で呼ばれることも。アムロの乗ったこの機体があまりに伝説的な戦果を挙げたことから、後の主役機を含めた高性能モビルスーツは、縁起を担ぐ意味でも「ガンダムタイプ」として仕上げられるようになります。

 元はジオンのザクに対抗するため、地球連邦という巨大な国家が全リソースを投入して造り上げた試作機です。試作機というのも結局、戦争は数で上回る方が優位なので、あくまで本機で取得した限界性能のデータを参考に、余計な機能を省いて量産に最適化させるための雛型に過ぎませんでした。(そのため実戦投入の予定はなかった)
 地球上の叡智を結集して建造されたある種のスーパーロボットなので、素人のアムロが乗っても生き残れるほどに堅牢、かつ宇宙でも地上でも、海中ですら使える最高の汎用性を備えた当時最強のモビルスーツなのですが、アムロがニュータイプへと覚醒していくにつれて次第にガンダムの反応が彼に追いつかないという意味不明の事態が発生するようになります。

主人公:アムロ・レイ

 日本一有名なロボットアニメの主人公。「アムロ、行きまーす!」「2度もぶった!親父にもぶたれたことがないのに!」は誰もが知る名セリフ。声優、古谷徹氏の代表キャラクターであり、現在でも『名探偵コナン』の安室透の元ネタとして各所でリスペクトされて100億を稼いだりしています。
 主に序盤は機械いじりの好きな根暗なオタクであり、いわゆる熱血要素の濃かった当時のロボットアニメにしては珍しいタイプの主人公でした。成り行きでガンダムで乗ったことから戦争に巻き込まれ、時には逃げ出すこともあった彼ですが、数々の悲劇がアムロに成長を促し、やがて「ニュータイプ」へと覚醒していきます。
 終盤にもなると卓抜した操縦の技量とニュータイプとしての能力を以て瞬く間に敵を撃墜していき、付いたあだ名は「連邦の白い悪魔」。
 現在でも宇宙世紀はおろか、ガンダムシリーズ全体を通して歴代最強のパイロットとして君臨し続けています。

☆「赤い彗星」のシャア

 ご存知、ジオン軍のエースパイロット。一年戦争当時は20歳。主人公アムロのライバルであり、ガンダム史上でもっとも有名なキャラクター、シャア・アズナブル。演じる池田秀一氏は近年、アムロ役の古谷徹氏と揃って『名探偵コナン』や『ワンピース』でブイブイ言わせてる事もあり、本作がアニメ史に与えた影響の絶大さを感じます。
 真面目にシャア個人の性質を語ると記事どころか本の一冊出せるほどの密度になるのでいずれかの機会に回しますが、それを差し引いても宇宙世紀やアナザーと問わずにシリーズ全般の「お約束」となる仮面や赤い機体、通常の三倍の速度などといった強烈なアイコンには事欠きません。

 彼の本名はキャスバル・レム・ダイクン。ザビ家に殺されたジオン・ダイクンの息子です。彼はザビ家への復讐を誓い、顔を隠して名を偽り、ジオン軍に潜入しているのでした。いわばジオンの正当な後継者であるため、本作以降、そうした血筋が明らかになるにつれて否応なく宇宙世紀の歴史の中心に据えられることになります。仮に宇宙世紀シリーズをひとつの大河ドラマとして捉えるのであれば、主人公は間違いなくシャアになる事でしょう。

なぜモビルスーツなのか

 ここで余談ですが、現代の戦争ですらミサイルのボタン一つで決するとされる中、なぜ宇宙戦争の時代にモビルスーツが活躍するのかというそもそも論について触れておきます。リアルロボットアニメの体裁上、こうした点にも細かな理屈が付けられているのです。(オタクの早口なので読み飛ばしていただいて構いません)
 後のシリーズで「一年戦争」と呼ばれることになるこの戦争では、兵力差で圧倒的に劣るジオン軍はその状況を打開すべく、レーダーや通信を攪乱する「ミノフスキー粒子」の発明と、それに伴う有視界の白兵戦を想定した巨大人型兵器「モビルスーツ(MS)」の導入による技術革新を起こします。

 当時の地球連邦軍と言えば『スターウォーズ』よろしく巨大な宇宙艦隊に高性能のレーダーを積んで命中精度が極めて高いミサイルや砲撃を自慢としていたわけですが、これらが軒並みミノフスキー粒子で無用の長物と化し、また通信障害によって指揮が崩れている合間にMSに直接殴りこまれて壊滅する憂き目にあいます。皮肉にも現代戦がいきなり原始時代に逆行するようなブレイクスルーが起こったわけですね。これがきっかけとなって連邦軍もガンダムを始めとするMSの開発に着手し、宇宙世紀の戦争はMSが主戦力として普及していくことになるのでした。

 閑話休題。乗り込んだ当初こそ手製のマニュアルとガンダムの高性能に助けられて生き残ってきたアムロですが、戦争の悲惨さに直面することで次第に彼自身が「ニュータイプ」と呼ばれる存在へと開花していきます。
 当初は素人の主人公がロボットを巧みに操縦する事に対する理屈づけとして考えられたこの設定は、のちにアニメ雑誌の冠名になるほどの画期的な概念あるいは作品テーマとして昇華され、後のシリーズでも監督をうつ病に追い込むほどに作品の根幹を形成していくことになります。

☆「ニュータイプ」とは

 設定的な起源から詳しく述べるとそれだけで個別に記事が2、3出来上がるので割愛しますが、もっとも普遍的な認識としては「過酷な宇宙空間に適応した新人類」であり、特殊な脳波で人の意識を介してお互いを理解し合えることが理想形と考えられています。
 しかし科学的には脳波パターンが通常と異なる以外に明確な定義はなく、劇中でも現実でも、今日に至るまで非常に曖昧模糊とした概念として扱われています。その魔力たるや、監督自身が自分で提示したニュータイプ論に一定の結論を出すべく奔走した結果、頭がおかしくなってしまった時期が存在するほど。
 また劇中では戦時に発生し、あまつさえ実戦で極めて高い戦果を出すという事を他ならぬアムロ自身が実証してしまったため、彼らは専ら「戦争の道具」あるいは単なるエースパイロットと同義に扱われて苦悩する事になります。

☆ララァ・スン

 アムロとシャアの宿命を語る上では外すことが出来ない存在、それがニュータイプの少女「ララァ」です。

 シャアにニュータイプの才能と母性を見出された彼女ですが、たまたまアムロと邂逅し、ニュータイプ同士の共感……人と人とが分かり合える可能性をお互いに感じました。しかしシャアに連れられた戦場で敵同士として相まみえた時、悲劇が起こります。
 ニュータイプとして分かり合いながら、なおも戦う事に苦悩するアムロ。アムロと通じ合えたにもかかわらずシャアを想い戦場に赴くララァ、そしてニュータイプとして未熟なあまり、その共感の輪に入る事の出来ないシャア……。それぞれの葛藤が戦場で交錯する中、ついにララァはシャアを庇って盾となりアムロの手で撃墜されてしまいます。

 この事はアムロとシャアの生涯の遺恨となり、その決着は『逆襲のシャア』にまで持ち越されることになります。

☆総じて

 入門としては極めて優先度が高い位置づけです。シリーズの根幹を成すだけあって、以降のタイトルはある程度本作を見ている/知っている事が前提となってきます。またOVAシリーズを筆頭に多くの派生作品が本作の舞台である「一年戦争」を取り扱っている事から、本格的にガンダムを極めようとすると遅かれ早かれ決して避けて通れないと思います。
 他方、如何せん初出が40年以上前の作品なので画面の古さは否めず、またテレビシリーズ本編においては本筋に関係せずクォリティにも難がある「捨て回」が存在するのも相まって全編必読とまでは言い切れる自信がありません。(あれはあれで知ってるとインターネットっぽいんですが)そのため、基本的には以下の「劇場三部作」を観るのが望ましいと言えるでしょう。

機動戦士Zガンダム

 入門オススメ度:★☆☆☆☆
 (劇場版の場合は★★★☆☆)

・シリーズの二作目にして初代ガンダムの続編。Zは「ゼータ」と読みます。
 アニメ史に燦然と名を連ねるほどに名作は名作なのですが、覚えさせる気のない組織名や入り組んだ事情、展開の重さに加えて監督の怨念など難易度はハッキリ言って鬼高いので、初手に見るのだけは避けた方が無難。(特にテレビ版は)

 初代ガンダムから7年が経過した宇宙世紀0087。先の一年戦争で辛くも勝利したものの、地球連邦のジオンに対するトラウマは根深く、軍の内部では地球出身者のみで構成された残党狩りのエリート部隊「ティターンズ」が台頭し、強権を盾にスペースノイドを弾圧、虐殺していました。その悪辣なやり口や態度の横柄さに連邦軍内部でも不満が高まり、対抗勢力として反ティターンズ組織「エゥーゴ」が結成。
 緊張が高まる中、エゥーゴはティターンズが力の誇示を目的として新型の「ガンダムMk-Ⅱ」の開発を行っている事を察知。シャア……クワトロ・バジーナ大尉率いるリック・ディアス隊が開発拠点のコロニー「グリーン・ノア」(旧サイド7)に潜入する場面から物語が始まります。
 
 要するに連邦軍同士の内ゲバが延々と続いていくわけですが、終盤にもなると、ここにジオン残党勢力「アクシズ」が台頭する形で三つ巴の様相を呈し、終始鬱屈とした泥沼が展開されていくことになります。この勢力図が非常にややこしく絡み合う点も初心者にオススメしづらい理由の一つ。

主役機:ガンダムMk-Ⅱ→Zガンダム

 この作品から、前半と後半で主役ガンダムの乗り換えイベントが確立されるようになります。
 序盤に乗るのは、ティターンズからパクって塗り替えたガンダムMk-Ⅱ。初代からの伝統で、主人公はパクったガンダムをそのまま自分の愛機とするのが半ば習わしとなっています。なおアムロが乗ったガンダムはRX-78の2号機であり、3機製造されたMK-Ⅱも最終的には全てエゥーゴにパクられたため「ガンダムの2号機は盗まれる」というジンクスがあります。

 後半はMk-Ⅱでは力不足となったため、エゥーゴが開発した新型のZガンダムに乗り換える事に。読み方はタイトル同様「ゼータガンダム」。「ウェイブライダー」と呼ばれる変形機構を持った初めての可変機ガンダム。あまりに洗練されたデザインは現在でも通用するとファンの間でも人気が高い機体です。

 この機体にはバイオセンサーと呼ばれる、パイロットの意志を機体操作に反映させることで反応を上げるシステムが搭載されていますが、これがカミーユの感応波と死者の念が結びつく事でZガンダムは「魂を表現できるマシーン」となってしばしば超常的なオカルトパワーを発揮する事になります。

「悲劇のニュータイプ」 カミーユ・ビダン

 この物語の主人公であり、作品を薦めづらくしている元凶の一人。彼も例によって「地元で親父がガンダムを造っていた」のをきっかけにガンダムに乗り込む羽目になるのですが、それまでの経緯がアムロとは一線を画しています。
 まず、初登場の第一声は所属する空手部の練習を「病欠しまぁす!」と言って走りながらフケるシーン。その場で咎められてもお構いなし。殴ったキャプテンすら「あれで病欠かよ……」と呆れる始末。かと思えば、港で偶然居合わせた軍人に名前のコンプレックスを弄られた事に激高して殴りかかり、当然のごとく逮捕。その後、尋問官に煽られた事にもキレて殴りかかり、身に着けた空手を遺憾なく発揮し、事故って落ちてきたガンダムのどさくさに紛れて脱走。これが第一話における彼のすべてです。

カミーユが男の名前でなんで悪いんだ!

 そんなカミーユがガンダムに乗り込んだのは、アムロのように戦火から身を守るための成り行き……ではなく、どさくさに紛れて取り調べの際に自分を殴ったMPを見つけ出して報復するため。なお、操縦マニュアルは親父のデータをハッキングしていたため把握済み。
 そうして見つけたや否や「一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやろうか!」と言いながら生身の人間めがけてバルカン砲を発射するという信じられない暴挙に出ます。煽られたからとはいえ、元をただせば最初に殴りかかったのは自分の方であるにもかかわらず……。

ははっ、ざまぁないぜ!(満面の笑みで)

 このように極めてエキセントリックな性質の持ち主であり、エゥーゴに参画して以降も、周りの大人の誰も彼もが持て余す手の付けられない存在でした。一説ではすぐにキレる現代の若者(当時)を反映したとも、監督の葛藤が怨念となって乗り移っているとも……。
 そんな気の毒にも思える彼の気性ですが、原因のひとつは以降の作品でも例を見ないほど極めて優れたニュータイプであるがゆえの鋭敏な感覚に対し、精神の成長が追い付いていない事が挙げられます。また両親との不和や恋人との死別など境遇にも酌むべき事情があり、彼を気にかけてくれる大人の不在(みんな自分の事で精一杯)なども相まって、カミーユを取り巻く事態はどんどん悲劇的な方向に向かっていきます。

母親が入ったカプセルを目の前で潰された時の顔

 終盤に渡って心をすり減らし、次第に感情をむき出しにした子どものような直情的な語彙で敵をなじる様は見るに居た堪れないものがあります。

クワトロ大尉(=シャア)

 エゥーゴのクワトロ・バジーナ大尉。もはや自明の事なので言ってしまいますが、シャア・アズナブルその人です。

Q.シャア・アズナブルという人を知っているかな?
A.「馬鹿な人です」

 一年戦争の後のシャアはジオン残党であるアクシズに合流していましたが、所詮は親の仇であるザビ家の寄り合い所帯に馴染めるはずもなく、現地で誑かした当時16歳の少女(後のハマーン)を捨てて出奔。地球圏に戻ってからはエゥーゴの思想に共感するとともに、ジオンの血筋とは無関係な、ただのMSパイロットに戻りたいがために「クワトロ・バジーナ大尉」の戸籍を得て参画。
 ちなみにこの時点で既にクワトロ=シャアである事は周知の事実でした。

エンディングでネタバレ(しかも主人公より上)

 この時期のシャアは終始、迷いの渦中にあります。実のところ、当人は復讐のつもりで入ったジオン軍でモビルスーツの操縦という刺激に脳を焼かれてしまっており、パイロットこそ自らの天職と考えている節がありました。若い時期はそれでもよかったわけですが、この頃のシャアは27歳という事もあり大人としての責任が否応なく付き纏ってくるようになります。ニュータイプとしてもパイロットとしても後輩であるカミーユを教え、導く立場。そして何より真のジオンの後継者として周囲から指導者を求められる人身御供の役割……。
 本人はそうした周囲の期待に対して、ひたすら「いまの私はクワトロ・バジーナだ(ヒラのパイロットだからシャアとしての責任とか知らないよ)」と言い逃れ続けた事で、懇ろだった女に組織ごと離反され、終いには後輩であるカミーユに別件で二回も鉄拳制裁される始末。あまつさえ殴られた直後に「人には恥ずかしさを感じる心があるということも……」などと言いかけて敵襲で遮られる情けなさたるや、前作で築き上げたパブリックイメージのシャア像を打ち壊すのに十分すぎる光景です。

「これが若さか……」

 そういった大人の論理や悪意に晒されて絶望し、クワトロ・バジーナでは居られなくなったシャアは最終決戦のどさくさで全ての責任を放り投げ、これ幸いと姿を晦ます事になります。

Z時代のアムロ

 一方、この頃のアムロは一年戦争の英雄として有名人になりますが、ニュータイプの力を危険なモノとして快く思わない連邦政府によって7年間軟禁状態(平たく言えば飼い殺しのニート)になってすっかりやさぐれてしまっていました。その上ララァの件がトラウマとなっているため宇宙に上がる勇気も持てず、元の機械いじりの好きな陰気なヤツに逆戻りです。
 しかし、かつてのライバルであるシャアことクワトロに救出されたのを皮切りに活気を取り戻し、エゥーゴの支援組織である「カラバ」のパイロットとしてカミーユを導く大人の役目を引き受けるようになります。

シャアとも仲良くやってます

 7年ものブランクがあるにもかかわらずパイロットとしての腕やニュータイプの勘はいささかも鈍っておらず、機動力で遥かに劣る輸送機で最新鋭の可変モビルスーツに突っ込んで生還。挙げ句の果てには、カミーユの背後を取った敵機を撃墜しながら「後ろにも目を付けるんだ!」と無茶苦茶なアドバイスで激励。そんなことが出来るのはお前だけだ。

この体勢からでも入れる保険があるんですか!?

強化人間

 『Zガンダム』ならびに続編である『ガンダムZZ』が陰鬱な展開に転がる原因のひとつがこれ。アムロやシャアが多大な戦果を挙げた事でニュータイプの兵器的有用性が実証され、人工的にそれを再現した存在を「強化人間」と言います。彼らはニュータイプと同じような脳波を発し、サイコミュ兵器なども扱うことが出来ますが、改造の影響で基本的に情緒が不安定であり、敵味方の区別もつかず暴れまわったりなど作内外で暗い影を落とします。

 こうした倫理的にアウトな改造兵士の存在は、戦争における人類の業を暴くのに分かりやすいゆえか、ガンダムシリーズでは恒例のモチーフであり、最近でも『水星の魔女』においてエラン・ケレスが「強化人士」として非人道的な扱いを受けていました。

ニュータイプ同士の断絶

 本作にはカミーユやシャア、アムロのほかに強力なニュータイプが何人か登場します。一人はシャアに棄てられた過去を持つアクシズの女傑、ハマーン・カーン。そしてもう一人はティターンズに参画する木星帰りの男、パプテマス・シロッコ。

 彼ら二人は属する組織やイデオロギーこそ異なるものの、人類の多くを占めるオールドタイプを徹底して見下し、一握りの天才である自分たちニュータイプが中心となって世界を支配すべきという思想は共通していました。そうした傲慢な発想はかつてのザビ家が提唱した優生思想に他ならず、とりわけカミーユの直感には反するものでした。
 それでもカミーユは、戦場を通じてかつてのアムロとララァのようにハマーンと意識で通じ合おうと努めますが、当の彼女には「土足で人の心に踏み入る恥知らず」と受け取られた事で亀裂が表面化。拒絶されたカミーユは激昂して「お前は生きていてはいけない」、「暗黒の世界に戻れ、ハマーン・カーン!」と叫びながら彼女にトドメを刺そうとしますが、すんでの所で思い直して取り逃がし、結局、最後まで分かり合えないまま、物語は幕を閉じます。
 同じ能力を持ったニュータイプ同士でさえ分かり合う事の出来ない過酷な現実に、監督の思想が如実に反映されているのを感じます。

☆総じて

 先にも触れた通り、『Zガンダム』自体は不朽の名作ではあるものの、入門編として薦めるには(個人的に)まったくの不向きです。
 ただし2006年に「新訳」として制作された劇場版三部作はこの限りではありません。予算の都合で作画の使いまわしが目立つ点は甚だ惜しまれますが、新規作画はちゃんと綺麗で観やすくなっています。注意すべき点としては、鬱抜けしてある種の悟りに入った頃の監督(通称:白富野)が作り直したため、主に結末がテレビ版本編とまったく異なるということがあります。

まるっきり別物まである

機動戦士ガンダムZZ

 入門オススメ度★★☆☆☆

 ・『Zガンダム』の続編。この記事では最も扱いが難しい一作。名目上は第一話となっているので一応紹介しますが、下記の埋め込みは一切、本編に関係ないので見なくていいです。シャアを面白がる悪いインターネットでしかないので……。(事前番組です)

 物語は『Zガンダム』最終回の直後である宇宙世紀0088から。総力戦でティターンズを滅ぼし、先の「グリプス戦役」を生き残ったものの、消耗しきったエゥーゴ。一方、戦力を温存したままグリプスを離脱していたハマーン率いるアクシズは「ネオ・ジオン」へと名を改め、内部抗争で弱体化した連邦軍から漁夫の利を得るべく、地球圏の制覇に乗り出します。
 ブライト艦長率いるアーガマの一行は修理や補給を兼ねてサイド1の「シャングリラ」に入港するものの、そこでジャンク屋をしていた少年ジュドー・アーシタら子ども達がZガンダムを盗んで一儲けしようと悪知恵を働かせます。すったもんだの末、戦力が不足しているエゥーゴはやむなく彼らを正規のクルーとして迎えてネオ・ジオンに立ち向かう事になります。

 この投げやりなあらすじで気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、本作はややコミカルなスタートを切りました。あまりにも前作が暗すぎたせいです。
 加えて言うと記事の冒頭で書いたにもかかわらず、本作にはアムロとシャアはほとんど関係しません。というのも、この時期のシャアはオープニングで吠えているにもかかわらず前作で消息を絶って以来、生死不明のままであり、アムロはアムロで、前作まで抱えていたトラウマを克服して宇宙に上がったことを示唆されている程度で今回はシルエットすら出しません。
 『新訳Zガンダム』の結末に至っては続編として本作を差し挟める余地がなくなる事もあり、本稿の基準に則れば最悪スキップしても構わないのですが、一概に「見なくていい」と切り捨てて言及しないわけにもいかない程度には存在感が否めません。(『UC』以降は特に)

 そんな前作の反省からコミカル調でスタートした本作でしたが、監督の怨念に堪えられなかったのか中盤を皮切りにシリアス路線へと転向。次第に前作にも負けず劣らずの勢いで鬱屈とした展開が重なり、温度差で言えばむしろさらに悪化したテンションのまま佳境へと進んでいきます。

主役機:Zガンダム→ZZガンダム

※応急処置です
『レディ・プレイヤー1』でお馴染みのポーズ

 諸事情で戦線を離脱したカミーユからZガンダムをパク……引き継ぎ、その後乗り換えたもの。読み方は「ダブルゼータ」。ややこしい事この上ありませんが、作品タイトルは『ガンダムZZ』でこの機体の名前は「ZZガンダム」となります。
 初代以来の分離合体に必殺の「ハイ・メガ・キャノン」など、販促に配慮したとにかく火力を詰め込んだロマンあふれるガンダムです。この上、最終決戦時にはさらに追加装甲と火力を持った「フルアーマーZZガンダム」が登場。余談ですが略称のつもりで「FAZZ」と表記するとまったく別の機体になってしまい、ガノタからすごい剣幕で訂正されるので注意を要します。

子どもはみんな「ニュータイプ」

 前作でもいくらか示唆されていましたが、本作で示されたニュータイプ論はずばり「若さ」。主人公のジュドーを含めて子供たちがガンダムを運用して果敢に立ち向かっていきます。前作ではカミーユを全否定していたハマーンも、ジュドーの子どもゆえの純真な魂と大人の理屈に縛られない柔軟さに求めていたニュータイプの真価を見出し、しつこく口説きに掛かります。

14歳の少年に迫る22歳のミンキーモモ

 彼女がかつてシャアに執着していたのも、彼の内にある純粋さに惹かれての事だったのでしょう。

☆総じて

 長らく微妙な立場に置かれていた本作ですが、『機動戦士ガンダムUC』を始めとして、福井晴敏が原作を務める宇宙世紀作品ではZZの設定がふんだんに盛り込まれるようになり、無視しづらい位置づけに戻りつつあります。サンライズが「UC NexT 0100」、すなわち空白期であった0100年以降の宇宙世紀を展開していくプロジェクトとして福井晴敏のガンダムをプッシュするようになった事から、今後この作品が省みられる機会は一層増えるのではないかと思います。(この辺の年代しか余白として擦れる設定がないから……)
 とはいえ『ガンダムUC』を見る分にはかなり困りますが、結局アムロとシャアは出てこないので、無理に優先度を上げる必要がないのは変わりません。わりと好きで観返す僕ですら正直、序盤は苦痛が遥かに勝るので……。

機動戦士ガンダム 逆襲のシャア

 入門オススメ度:★★★★☆

 ・ガンダム初の完全新作映画。ここから入門するのは断然あり派。個人的に一番好きな作品なのでいっぱい書きます。

 初代ガンダムからおよそ14年後に当たる宇宙世紀0093。6年前のグリプス戦役(Zガンダム終盤)で消息を絶っていたシャアが「ネオ・ジオン」の総帥となって地球連邦政府に宣戦布告。彼の目的は隕石落としによる核の冬で地球を寒冷化させ人類を強制的に宇宙へと移住、ニュータイプに覚醒させることでした。
 予てよりシャアが生きている事を確信していたアムロは、お馴染みのブライト艦長を司令に置く遊撃部隊「ロンド・ベル」のメンバーとしてシャアの作戦を阻止すべく、彼専用の「νガンダム」の開発を急がせます。

 本作をもってアムロとシャアの戦いに決着がつき、以降、アニメにおいて富野監督がメガホンを取るガンダムで、この二人が触れられる事はありませんでした。(宇宙世紀そのものは継続して描いている)

主役機:νガンダム

 読みは「ニューガンダム」。事実上アムロが最後に乗るガンダムだけあって歴代の主役機でも一、二を争う人気の機体です。

 特徴的なのは背中の板っきれこと「フィン・ファンネル」。『水星の魔女』でガンダムエアリアルが用いるガンビットのような遠隔武器で、敵を全方位から狙い撃ちしたり、四方に展開してビームバリアを張るなど多方面に活躍する武装です。しかしそれ以外の武器は、ビームライフルやビームサーベル、ハイパーバズーカといった高性能ながらも派手さのない標準的な装備に落ち着いています。あくまでも継戦能力や汎用性といった手堅い立ち回りに重きを置くアムロらしい構成。

ライバル機体:サザビー

「サザビー出ます、サザビー発進!」

 シャア専用モビルスーツの集大成。総帥が乗る機体という事もあって見た目通りの重装甲、高出力。それでいて赤い彗星にふさわしく高機動。彼の機体としては初めてファンネルが搭載され、核ミサイルの迎撃などで活躍しました。欠点は高出力ゆえの継戦能力の低さ。あくまでも隕石落としを阻止するのが本命のνガンダムとは違い、作戦の成否を二の次にしてアムロとの決着にこだわるあまりその辺りを疎かにしているのがシャアらしい。

ネオ・ジオン総帥 シャア・アズナブル

 本作においてシャアは「ネオ・ジオン」を率いる総帥となります。ややこしい話ですが、ここで言うネオ・ジオンは『ガンダムZZ』の頃にハマーンが率いていた同名の組織とはまったくの別物であるということ。
 ハマーンはもともとザビ家の末裔であるミネバの摂政という立場であったため、彼女が率いるそれはザビ家、すなわち旧ジオン公国軍の後継組織という事になります。
 しかしシャアにとってザビ家とは親の仇であり、そもそも一年戦争の頃に旧公国軍は中立を表明しなかった全てのサイドコロニーを毒ガス攻撃で虐殺したため同じスペースノイドにすら反感を持たれていた節があります。つまりシャアが率いる「ネオ・ジオン」とはザビ家ではなく、ダイクンの遺志を継いだ真なるジオンという意味合いになります。
 そんな真のジオン継承者であるシャアが掲げるイデオロギーは全てのアースノイドを物理的に根絶することで、戦争の原因である「地球と宇宙の対立構図」を根底から失くしてしまおうというものでした。

シャアの本心

 上記の思想がまったくの噓っぱちというわけではないというのは『Zガンダム』時代、クワトロ大尉の動向を注視することで理解できると思います。

 エゥーゴという連邦の内部で活動していた彼はその腐敗ぶりを自ら目の当たりにしました。それでもカミーユを通じてニュータイプ、すなわち次代の若者に希望を見出しましたが、その末路を感じ取ったシャアは、若さという可能性の芽さえ摘んでしまう現状に絶望してしまったという事もあるでしょう。その純粋さゆえ、皮肉にも自ら否定していたザビ家と同じやり方で性急な結論に至ります。
 しかし傍らでは理想を大真面目に考えつつも、本質的には政治家ではなく、MSのパイロットをやっていたいというのがこの男の哀しい性。アムロとの決着の前では、自分で立てた作戦すらどうでもよくなってしまいます。なんとなくそうした雰囲気はネオ・ジオン内部でも囁かれているようで、部下にも愛人にも「大佐はララァをアムロに取られたのが悔しくてこの作戦を思いついたんだ」などと陰口を叩かれる始末。(そしてそれは間違っていない)

アムロ大尉

 一方のアムロは塞ぎ込んでいた頃が嘘のように成長し、これまでの実戦で培った経験から立派な軍人となりました。シャアを終生のライバルとして決着にこだわってはいるものの、あくまでも組織人として作戦の阻止を最優先しているのが彼との大きな違い。ついでにプライベートでは恋人であるチェーンとのやり取りの中で大人の余裕すら見せるようになります。
 シリーズ全体でも比類のない神がかり的な操縦技術は相変わらずニュータイプのそれですが、それ以外はいたって堅実な大人であり、超常的な現象を引き起こすサイコ・フレームの作用にも「(そんなものが無くても)フィン・ファンネルで勝てるさ」と懐疑的であるなど、感性そのものはオールドタイプとさして変わらなくなっているのが皮肉です。ある意味でニュータイプの能力を戦争の道具としか見ていない最右翼と言える。しかし理想と現実の狭間で一線を画せる大人だからこそ、稚気じみたシャアの野望に同調せず立ち向かえるという、なんとも切ない対比に。

クェス・パラヤ

 富野の性癖。元祖ガンダム毒電波。わずか2時間のフィルムの中で、あのカミーユに勝るとも劣らぬ奇天烈さと無邪気な悪意を振りまきながら、視聴者とハサウェイの心をかき乱していくファム・ファタール。事実、彼女と積極的に関わろうとした男性は本作において例外なく悲惨な末路を迎えます。

 連邦政府高官アデナウアーの娘で、シャアとの交渉に臨む彼について宇宙に上がり、そこでアムロやハサウェイと知り合います……が、父親への反発や思い通りにならない周囲に対する鬱積などから、よりによってシャアの思想に共感してしまい、意味不明な理屈でアムロたちを裏切ってネオ・ジオンに奔ります。
 最初こそロリ属性 高いニュータイプ能力をシャアに見出されたものの、人前で遠慮なしに古傷を抉ってくる天性の無邪気さを疎まれて露骨に避けられた挙げ句、最終的には道具として使い潰される羽目に。なお戦場でそれとなく気配を感じ取ったアムロからは「邪気が来たか」と辛辣なコメント。
 いまは若きハサウェイ・ノア少年もまた、天真爛漫なクェスに魅せられ、彼女をシャアのもとから連れ戻そうと奔走しますが……。

サイコ・フレーム

 νガンダムとサザビーの装甲には一部「サイコ・フレーム」と呼ばれる特殊な金属が含まれています。想定されていた用途としては、機体の強度を上げたり、ニュータイプの感応波を直接的に反映させて機体の動きやファンネルの性能を高めるなど、平たく言えばモビルスーツの性能を底上げする、嬉しいことずくめの画期的な技術だったのですが……。

 実は周囲の人間の意識を束ねて共振させ、それを物理的なエネルギーに転化できるという滅茶苦茶ヤバいオカルトパワーを持っていたことが判明します。この点は時系列上の続編である『機動戦士ガンダムUC』で深く掘り下げられることになりますが、同作を手掛けた福井晴敏氏の解釈によれば、サイコ・フレームの力は『伝説巨神イデオン』で破滅的な現象をもたらした「イデ」にも匹敵するとの事。流石にそれはないだろ。
 その力の行き着く先は物語の結末に直接関わるため控えますが、νガンダムに用いられたそれは、シャアがわざとリークしたもの。アムロと互角の条件での決着を望む彼曰く、「情けないモビルスーツ(=サイコ・フレームのない出来損ないのガンダム)と戦って勝つ意味があるのか」という理由。これを聞いたアムロは「バカにして!」と憤慨。むべなるかな。

☆総じて

 長年にわたるアムロとシャアの因果、その結末というだけあって初代から通しで観た方が得られるカタルシスが遥かに大きいのは確かだと思います。しかしながらアニメ映画として申し分ないクォリティであり、単独作品として充分鑑賞に堪えると思うので、特に急ぎ『閃光のハサウェイ』に追いつきたい人は前提としてこの作品から入るのは個人的にアリだろうと思います。

機動戦士ガンダムUC

 入門オススメ度:★★★☆☆(3.5くらい)

 ・パチンコやネットミームでお馴染み。福井晴敏が原作を手掛ける『逆襲のシャア』の先。
 OVA全6巻と尺や質とも薦めるのに申し分ないが、マニア向けの描写や、氏の解釈を巡ってはしばしば論争の種となるので両手放しでは褒めづらい。

 時代はシャアの叛乱から3年後の宇宙世紀0096。ビスト財団が秘匿していた、連邦の支配体制を根底から覆す魔力を秘めた「ラプラスの箱」と箱にたどり着くための道標となる「鍵」であるユニコーンガンダムを巡ってロンド・ベル隊とネオ・ジオン残党「袖付き」の争奪戦が描かれます。
 主人公であるバナージ・リンクスは高専に通う学生でしたが、ビスト家の当主であるカーディアスの死に際にガンダムを託されたことで否応なく状況に巻き込まれていきます。珍しく盗んでいない。

 原作は『亡国のイージス』の著者で、ガンダムの熱烈なファンでも知られる福井晴敏氏が「ガンダムエース」という雑誌で連載していた小説。同誌での連載は監修の都合上、直接的な続編など正史に接続される内容は敬遠される傾向にありますが、本作は著名な作家が宇宙世紀の開闢にまつわる正史を手掛けるという試みゆえか、開始当時からかなり注目されていました。
 ちなみに生み出した監督にすら忌み子のように嫌われ、もはや省みられることさえ少ない『ガンダムZZ』でしたが、そこで死蔵されていた設定が本作では重要なポジションを占めているため、比例的に『ZZ』のオススメ度も上がっていくという妙な現象が発生しています。

主役機:ユニコーンガンダム

ユニコーンモード
デストロイモード

 お台場で突っ立ってる
 表向きは連邦宇宙軍の再編プラン「UC計画」で開発されたガンダムで、本作のキーアイテム「ラプラスの箱」の座標を握る鍵の役割。
 その実態はニュータイプ(もしくは強化人間)の感応波を検出するとガンダムに変形して殲滅するというニュータイプ絶対殺すマン。その名も「NT-D(ニュータイプ・デストロイヤー)」。
 通常のビームライフルの4倍の威力を持ち、掠めただけで即死するビーム・マグナムを筆頭に頭の悪い武装を取り揃えていますが、最大の特徴は全身の装甲がサイコ・フレームで出来ているという事。それがどれだけ途方もない事かは各位で『逆襲のシャア』を省みてほしいのですが、この機体に関して言うと最終的には誇張抜きで神様になります。

可能性としてのニュータイプとそれを導く大人たち

 本作で示されたニュータイプ論は「人の可能性」。かつての富野ガンダムではニュータイプの根底には「若さ」があり、そうしたものは頑迷な大人(オールドタイプ)の支配する世の中に屈するか、世捨て人になるというような悲観的な末路を辿るケースが大半を占めていました。(新訳Zガンダムはまた異なる境地)
 一方、今作に出てくるキャラクターはオットー艦長やジンネマンなどを始めとして、可能性を次の世代に託して若者を導く大人が多く描かれました。彼らの助けでバナージは成長し、ニュータイプという概念を宇宙に適応するための具体的な能力ではなく「今は分かり合えずとも、それでもいつかは」という人類全体の可能性そのものとして捉えるようになります。

「赤い彗星」の再来

 『逆襲のシャア』の後に消息不明となったシャア。カリスマを失ったネオ・ジオンは瞬時に瓦解します。もはや組織的な再興は不可能と思われた彼らを「袖付き」として再編成したのが、シャアの再来と目されるフル・フロンタル大佐です。顔も声も、通常の三倍の速度で迫る赤いモビルスーツすら瓜二つの彼は果たして本物のシャア・アズナブルなのか? それもまた物語の根幹のひとつでもあります。

☆総じて

 どちらかと言えば、コアターゲットを宇宙世紀作品のファンに向けて設定されている節がありますが、作画が新しく、立像が建立されるなどしていまや作品の知名度もそれなりになっているため、細かい所に目をつぶればかなり薦めやすい部類に入ると思います。ラブライブ!に出演したのも大きい
 ただし初代~逆襲のシャアまでとは異なり、原作者とも言うべき富野由悠季氏は本作には一切関わっておらず、設定面も含めて福井晴敏の解釈が多分に含まれます。その中にはSFを通り越してオカルトとも言えるような設定もあり、リアリティを志向するシリーズファンの一部には、本作を蛇蝎の如く嫌う人もいるので、話題に挙げるにはややデリケートなところが難点か。

 実際、僕も(ノーマル)ジェガンの話をしているときに第一話のスタークジェガンの話題を持ち込んできた人間は例外なくぶち頃すことにしているので注意が必要です。

かっこいいけどさ……

機動戦士ガンダムNT

 入門オススメ度:★★☆☆☆

 ・『UC』の実質的な続編で福井晴敏ガンダムのアニメ第二作。
 大概だった前作よりもさらにサイコ・フレームのオカルトパワーが全開になっているので、従来のファンが見たら血泡を吹いて斃れる恐れあり。でもゾルタンが面白いので許す。

 『ガンダムUC』の一年後である宇宙世紀0097年。技術的特異点(シンギュラリティ)に達した危険なマシーンとしてユニコーンガンダムとその系列機が「解体」されるのと時を同じくして、事故を起こした後に行方不明となっていたユニコーンガンダム3号機フェネクスが目撃されるようになり、連邦軍シェザール隊とそこに配置されたナラティブガンダムのパイロット、ヨナ・バシュタ少尉に捕獲任務が下ります。
 この「不死鳥狩り」を発端として「赤い彗星の失敗作」ことゾルタン・アッカネン率いる袖付きの残党勢力との間で武力衝突に発展し、事態は思わぬ方向へと向かっていくことになります。

主役機:ナラティブガンダム

 性懲りもなくνガンダム以前に造られたというサイコ・フレームの試験機。(無理があるだろ)
 いちおう近代化改修を受けた上で「不死鳥狩り」に動員されますが、元はデータ取りに組まれただけのものなので、フレームが剥き出しの上に素の武装が頭部バルカンしかないというお粗末さ。あまりにも貧相なので敵味方問わず「瘦せっぽち」とか「出来損ないのガンダム」と言われる扱いの悪さ。そんななので都度に現地でオプションパーツを上から被せて補う羽目になり、シリーズでは珍しく話が進むごとに脱いでいくガンダムに。(えっちなソシャゲじゃないんだから)
 最終的にはこの作品の主役ガンダムがナラティブなのかフェネクスなのかわからない状況になるなど終始扱いは不遇。

ゾルタン・アッカネン

 今作のライバルポジションにして、見た目通りの色物キャラ。シャアに似せて造られた強化人間……の失敗作。このコンプレックスを本人は相当気にしているため、指摘すると敵味方、上官部下の区別なく殺されます。撃っちゃうんだなァこれが!
 
彼の出自には同情を禁じ得ませんが、それはそれとしてシャアの再来のつもりなら嘘でもまず見た目を寄せる努力をしてくれ!としか言えません。

 この作品がどういうノリかは動画の通り(?)一応、初代ガンダムからユニコーンまでの大雑把すぎるおさらいが出来るので観てみると……いいんじゃないかな……。

☆総じて

 相変わらず変にマニアックな所からネタを拾っている割に、過去作に精通しているほど頭がくらくらする展開なため、相対的に初心者向けなのかもしれない怪作。もはや万能を超えて全能すぎるサイコ・フレームですが『閃光のハサウェイ』以降の時代には登場しないため、整合性を合わせるための最後の大盤振る舞いだったのだろうと個人的には考える次第。

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ

 入門オススメ度:★★★★☆

 ・2022年現在、宇宙世紀ガンダムの最新作。全三部作の公開予定。
 原作通りであればかなり陰鬱な仕上がりになる事が予想されるものの、質と話題性の担保からオススメ度は一段階上。

 原作小説を富野由悠季が手掛けているという点では、『UC』以上に正当な『逆襲のシャア』の続編。
 物語はシャアの叛乱から12年後の宇宙世紀0105年が舞台。ついにジオンという仮想敵すら消えた中で地球連邦の腐敗は留まる事を知らず、「人狩り」の部隊を組織して地球の不法居住者を強制的に宇宙へと放り出して権益を維持する旧来の体制が維持されたままでした。
 そんな中で「マフティー・ナビーユ・エリン」と名乗る反連邦組織が連邦政府の閣僚を次々に粛清するテロ事件が発生。アデレードに着任した指揮官ケネス・スレッグ大佐は、強化人間のレーン・エイムと彼のガンダム「ペーネロペー」を受領し「キルケー部隊」を率いてこれを鎮圧しようとします。

主役機:Ξガンダム(クスィーガンダム)

ガンダムだと!?

 「アムロのガンダムを継ぐ」としてギリシア文字のνから一字を継いだΞを冠した機体。製造元は巧妙に隠されているため不明……とされているものの、戦争のない時代にこんなガンダムをテロリスト向けに造れる企業はアナハイム・エレクトロニクス以外には存在しないのでほとんど公然の秘密。

 特筆すべきはファンネル・ミサイル……ではなく、MSでありながら「ミノフスキークラフト」を積んでいるという点。通常のMSは重力の影響から大気圏内では「ゲタ(下駄)」と呼ばれるサブフライトシステムなしで飛行することはできませんが、この技術を用いることで30m近い人型のデカブツが単独飛行できるようになるという悪夢のような光景を実現しました。(初代ガンダムのホワイトベースが同じ技術を用いて空を飛んでいます)
 ちなみに連邦軍に卸されたライバル機のペーネロペーも同じ技術が用いられているものの欠陥があるため、正規の軍隊の発注よりもテロリスト向けに組んだ機体の方が完成度で勝るというなんとも宇宙世紀なクオリティコントロールに。

主人公:ハサウェイ・ノア

 本作の主人公。初代でホワイトベースの艦長を務めて以来、多くのガンダム・パイロットを送り出してきた名艦長、ブライトさんの息子。地球連邦の腐敗を知り、かつての戦争で死んでいった魂を無下にしないためにシャアの思想とアムロのガンダムを継承し、”Ξガンダム(クスィーガンダム)”を駆ってマフティーを指導する事実上のリーダーに。
 原作の評価を抜きにしても、ガンダム史上最悪のハイブリッド・テロリストで映画三本分稼ぐつもりの創通はいったい何を考えているのだろうと心配になります。

ギギ・アンダルシア

 富野の性癖。鋭い勘と遠慮のなさ、かと思えば妙に移り気な二面性など、いかにもお禿が好きそうなワケのわからん女。こんなのと付き合うようになると人生の破綻は約束されたも同然ですが、僕自身も結局こういう女がいちばん好きなのが泣ける。なお僕個人は彼女のことを『逆襲のシャア』におけるクェスと同様に「毒電波」と呼んでいます。でもえちえちだから全部許す。監督曰く、第二章もそういうシーンが増えるとの事。なお許す。いきなりサイコガンダムで街中暴れ回っても全然許せますね。

☆総じて

 まだ第一作目しか公開されていないので作品全般の評価は不能ですが、少なくとも第一章時点ではアニメーションのクォリティは申し分なく、連邦に反省を促すダンスなど本編外の部分でバズっていた事もあって旬に乗っかるなら今が絶好の機会。むしろ原作小説はまかり間違っても初心者には到底おすすめできない代物なので、このチャンスを逃すと二度と『閃ハサ』を観る機会がなくなる恐れもある。
 あらすじはともかく、主人公であるハサウェイの人となりを把握するには最低限、事前に『逆襲のシャア』を観ていた方が理解は捗ると思います。

続きます

 この記事だけでだいたい二万字打ってますが、まったく終わる気配がありません。書き始めたことをやや後悔していますが、ぼちぼちやっていきます。次回は宇宙世紀編の残りか、アナザーガンダムの紹介になります。

 繰り返しになりますが、迷ったら結局最新作を見るのがいちばん丸いので『水星の魔女』をどうぞよろしくお願いいたします。

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