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ドイツ買い付け日記DAY1-2

ドイツ・カウフボイレンにあるコスチュームジュエリーカンパニー、"Seiboth"社の訪問記第二弾。

今回は、職人さんが作業されている工房を含む社内見学と、Seiboth社のデッドストック品買い付けの様子をお届けします。

同社の歴史について綴った前回のブログはこちら→「ドイツ買い付け日記 DAY1-1」


創業者Seiboth氏の娘である現社長VorbachさんにSeiboth社についてお話をたっぷり伺った後、社内を案内していただきました。

まずは応接室。

クリスマス時期に発売予定のコスチュームジュエリーが、応接室の大きなデスクにずらりと並べられています。

Seiboth社のデザインセンス、色彩感覚や職人の卓越した技術力が一目で感じ取れる逸品たち。

コスチュームジュエリーに関わっていることの幸せを改めて感じる、素晴らしい作品です。

私たちのあとをついてくる、社長の愛犬。とても可愛い、二歳のボクサー犬です。

社長の家族は、代々ボクサー犬を飼ってきたそう。


応接室は、四方の壁一面が全てジュエリー収納棚となっており、現行品や未使用のデッドストック品が大切に保管されています。

一見フラットに見える木製棚は、なんと全てが引き出し。

引き出しの中は細かく仕切られ、それぞれにジュエリーがたっぷりと収納されています。

ガラスケースもたくさん。

どこを見ても、ジュエリー、ジュエリー、ジュエリー・・

棚最上部に並ぶ台紙に保管されているのは、創業者Seiboth氏がデザインしたジュエリーのオリジナル見本たち。全て一点物の、貴重なお品です。

これまでずっと、これらの見本を販売することはなかった現社長のVorbachさんは、ついに見本を売り始める決断をしたそう。

なぜなら、Seiboth社には現在のところ後継者がおらず(Vorbachさんの子供たちには会社を継ぐ意思がないため)、貴重な見本たちが次世代まで受け継がれていく見込みがないからです。

彼女にとっては父親の形見でもある大切なものなので、手放すのはとても心が痛むと仰っていました。

Seiboth社はそのジュエリー制作技術を生かして、フォトフレームやミラーフレームの制作も行っています。

Seiboth製のフレームに収められた、職人さんたちの写真。

スワロフスキーがセットされた草花や昆虫が煌めく、緻密でデコラティブなデザインはまさに職人技。


応接室以外にも、社内にはたくさんのジュエリーが。

壁中にネックレスが掛けられた部屋。

廊下のちょっとしたスペースにもジュエリーが。


さて、ここからは社内の工房へと場所を移し、職人さんの制作風景を見学させていただきます。

Seiboth社は創業時から一貫して、一点一点手作業でジュエリー制作を行っています。

作業に徹するためのこういう空間、個人的に大好きです。

型にストーンが留められると、生き生きと輝きだすジュエリー。

なんて美しいのでしょう。細部まで行き届いた手仕事に、心から敬意を表します。

フラワーモチーフのクリップイヤリングを制作中。

ネックレスにスワロフスキーの爪留めを行っているところ。


職人さんの作業見学中は、彼らの研ぎ澄まされた神経や集中力が空気を通して伝わってきて、私も思わず息をひそめていました。

あらゆるデザインを形にする熟練の職人の丁寧な手仕事により、ジュエリー一点一点に命が吹き込まれていく・・

彼らの一つ一つの動作を間近で見て、コスチュームジュエリーを大切に思う気持ちがさらに強くなりました。


Seibothのジュエリーの美しさを、日本のお客様に全力で伝えよう。

そう決意を新たにしたところで、いよいよデッドストックの買い付けに入ります。

現代の安価な大量生産品の波に押され、Seiboth社には今も約30万点の年代物ジュエリーが、デッドストックとして未使用のまま眠っているのです。

そんなデッドストックが主に保管されているのが、工房に隣接する作業場。

この引き出しにも、あの戸棚にも・・見渡す限り、デッドストックがたっぷり詰まっているのです!

気の遠くなるような、膨大な量。嬉しい悲鳴です。

ただすぐに、Seiboth社での買い付け日程を一日しか組んでいなかったことを後悔しました。

この量のジュエリーを満足に見るには数日あっても足りないだろうに、今日一日で間に合うわけがない・・と。


ということで今回は、年代や主要アイテムを思い切って絞った上で、時間の許す限りデッドストックを見せていただくことにしました。

自分の身長よりも高い引き出しや戸棚を上から下まで一段ずつ開けていき、一点一点見て触れながら、心に刺さるジュエリーをピックしていきます。

無我夢中。

こんなに美しい品々をこんなにも沢山目にしたのは、紛れもなく人生で初めてです。

あまりの幸せに涙が出そうになり、思わず「生きててよかった!」と心の声が漏れてしまったほど。

誰かの宝物になりますように、と心を込めて。


疲れも空腹も忘れてセレクトに没頭していたところ(時間が惜しかったので、そもそも食事は取らないつもりでいました)、社長が中華料理をテイクアウトしてくださいました。

少し話は逸れますが、私は昔から好きなものに対して神経を研ぎ澄ませて極度に集中するあまり、後から身体の調子を崩してしまう性分。

美術館や植物園に行った後は、決まって酷い頭痛に襲われたり。

こよなく愛する映画「アバター」を観たときは、一週間以上身体が元に戻らずとても苦しみました。

今回の買い付け中も過集中に陥っているのが自分でも分かっていたので、食事が届いたことで強制的に休憩時間を取れたことは、今思えば良かったのかな、と。

資料も参照しながらセレクト。


ハードなセレクト作業中、癒しとなってくれたのが社長の愛犬とHARIBO。

まだ二歳なのに、とても賢いこの子。

私が真剣に仕事をしているときは静かに待っていて、僅かなブレイクを見計らうかのように甘えてきてくれます。

そういえばロサンゼルス買い付けのときも、ディーラーさん宅で彼女の愛犬と戯れながらジュエリーをピックしていました。

言わずと知れたドイツ生まれのグミ、HARIBO。

ジュエリーのセレクト中、私が社内を移動するたびに、社長がハリボーを盛った器を運んできてくれていました。

コスチュームジュエリーに囲まれながらカラフルに艶めくハリボーはとても可愛く見えたし、怒涛のセレクトで疲れた身体にこの食感と甘さが沁みて・・

すっかりハリボーが大好きになり、いつかまたドイツを訪れた際には、ハリボーの工場直営店に行くという夢ができました。


タイムリミットがどんどん迫ってきていますが、応接室にあるデットストックもできるだけ沢山見ました。

宝物を一つでも多く探し出すため、何も見逃すまいと血眼で。全神経を集中し、必死でした。

全力で頑張りましたが、Vorbachさん曰く「まだストックの10分の1も見せられていない」とのことでした。笑


後ろ髪を引かれる思いで区切りをつけ、セレクトの第一段階を完了させました。

ここから、もう一度全てのジュエリーを一点ずつ触り直していきます。

コンディションや装着感の確認はもちろん、ジュエリーを身に着けたときの肌や衣服の上での見え方を、自分の目と鏡に写した状態で確認。

所有した人がどんな気持ちになるだろうか?と思いを巡らせながら、心に刺さる美しいものを選び抜く作業をひたすら続けます。

今回買い付けするうえで、とても厳しいのが円安ユーロ高。

私一人でやっている小さなお店ということもあり、仕入れたいもの全てを仕入れられないことが、とても苦しかったです。

また、これまでの買い付けや仕入れにおいては、私はジュエリーを数百点見ても、心から気に入るお品が十点あるかどうか・・というのが常でした。

しかしSeiboth社では、予想を遥かに超える「心に刺さる」お品に出会ってしまったのです。

膨大なジュエリーを見たとはいえ、まさかこんなに多くのお品を買い付けることになるとは思っていませんでした。これまた嬉しい悲鳴。

厳選に厳選を重ね、皆さまにお届けしたいお品を一点一点全身全霊で選びました!

どなたかに気に入っていただけますように。身に着け、愛でていただける日がやってきますように。


最後に、Seiboth社の未来について綴らせていただきます。

あまり明るいお話ではないのですが、現状として。

Seiboth社のコスチュームジュエリーは、非常に残念なことに、次世代まで制作・販売が続く見通しが立っていません。


まず、現社長の後継者がいないこと。

そして、Seiboth社で昔から使用してきた素材が現在手に入らなくなっており、そもそも制作できるジュエリーの種類が減ってしまったことも問題です。

前回のブログでお伝えしたように、かつてはスワロフスキー社の大きな顧客であったSeiboth。

しかし現在は中国が最大顧客となり、以前のようにスワロフスキークリスタルを仕入れることさえも難しくなってしまいました。


また、近年日本のミュージアムにて、Seiboth社のジュエリーをその歴史とともに展示する企画が動いていたのですが、結局話が流れてしまったという不運も。

というのも、Seiboth社がDiorやChanelと取引した証拠となる領収書等が社内に残っておらず(先代社長のSeiboth氏が破棄してしまったため)、有名デザイナーたちと仕事をしてきたことを示す資料が十分ではないと判断されてしまったのです。


そして何より、押し寄せる大量生産・大量消費の時代の波。

戦後、かつては500社ものジュエリーやガラス工芸の工房があり、職人の街だったカウフボイレン。

それらはどんどん姿を消してゆき、現在はSeiboth社を残すのみとなりました。

これまで私は「良いものは時代を越えても自ずと残る」と信じている部分がありました。

しかしSeiboth社の現状を伺い、良いものは【それを残そうとする人】と【その価値を理解して求める人】が存在して初めて、後世へ受け継がれ残るのだという現実を思い知りました。

きっと一つ一つが誰かの宝物になるであろう素晴らしく貴重な品々が、このままでは消えていってしまう。

せめて伝えられるうちに、Seibothのコスチュームジュエリーについて、私が伝えられることを日本で全て伝えたい。

そして、その美しいお品を皆さまにお届けできるよう、精一杯頑張ろうと心に決めました。

Seiboth社で買い付けたヴィンテージコスチュームジュエリーはこちら→


次回のブログでは、買い付け翌日に再びSeiboth社へお邪魔したお話について綴ります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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