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郷愁にあふれた極上のミステリー「僕が殺した人と僕を殺した人」

僕が現在、もっとも文章がうまいと考えている作家さんが、2015年の直樹受賞作家・東山彰良さんです。

東山さんは、思春期の男の子の「柔らかい感情」を文章にさせたら天下一品なのです。誰もが中学時代に、巧く言葉にできない感情を抱いたことがあると思います。もどかしくて、苦しくて、でも今思い出すと懐かしいような感情。

僕の文章力ではとうてい表現できないようなこうした気持ちを、誰の胸にもスッキリと落ちるような形で文章にするのが、東山彰良という作家なのです。

そして、そんな東山さん作品の中でも、極上の青春ミステリーとしてお勧めなのが、この「僕が殺した人と僕を殺した人」です。

台湾を舞台とする、この作品では、現在と回想が混じりあいながら、殺人犯として逮捕された親友とその弁護士の物語が紡がれていきます。どちらが弁護士で、どちらが殺人犯なのかは物語の終盤まで明かされません。こうした構成の妙が文章の美しさと相まって、読者の心を深くとらえます。

僕は台湾にいったことはないのですが、読んでると台湾の土のにおいや風が感じられるようなほど、流麗な文章なのです。

こうした文章の美しさは直木賞受賞作となった「流」でも存分に発揮されています。

特に徴兵された主人公が、軍事学校で恋人思う際の表現は、メチャクチャ印象に残っています。

毛毛のことを考えない日はなかったが、そのせいで激しい春意にのたうちまわることになった。射撃訓練の時、格闘技の授業中、就寝前の一服をしているとき、毛毛はいつでも不意にわたしに襲いかかった。そのたびに軍服のズボンの中で春の嵐が吹き荒れた。

僕は性欲をこれだけ美しく表現する術を知りません。


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