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新しい生き方の提案?〜パーフェクトデイズ

TVの番組で人口減少時代の再開発、という話題をやっていた。
建築物の老朽化や廃れた街の活性化のために日本全国の地方都市で再開発の計画が進んでいるという。
そのほとんどは高層ビルを建てる計画なんだそうだ。

ところが、現実には、今、東京のオフィスビルでさえ空室率がかなり上がっていて、湾岸エリアでは浜松町の13%超えを含め10%を超えるという。
アフターコロナで働き方が変わり広いオフィスの需要が減ってきているということだろう。

しかも建築資材の高騰もあって、その地方の再開発は当初の予算ではとても建てられなくなっている状態なんだそう。

大体人口が減っている今になって、なんで広い土地がある地方に高いビルを建てようなどと考えているのか?
全く訳がわからない。
高いビルにすることで床面積を多くとって収益をあげ採算を取る、ということらしいが、実際に誰がその床を埋めるのだろうか?


古い価値観にとらわれて、そこから脱却できないままでいるのが現実の日本に起こっているんだなと改めて思い知らされた。

いつまで経っても過去の右肩上がりの時代を忘れられずにいるのだろうか?

一度立てた都市計画を放棄することはまずない、というのがこれまでの日本の行政のあり方らしいから、転換することは素人が思うよりずっと難しいのかもしれないけれど、財政補助を頼ってなんとか実行に移したところで、その先にあるのはどんな姿なのだろう?と想像すると悲しくなる。


百歩譲って外国の資本とかが入ってそのビルが埋まったとしても、特色のあった地方の姿が、どこもかしこも均質な世界になってしまうことは避けられないだろう。



ところで、ヴィム・ヴェンダースのパーフェクトデイズを観た。

観終わった後に色々思うところはあったのだけど、やっぱりすごい映画だったんじゃないか、と思うようになった。


映画を見る前に、この平山という主人公のモデルが、禅の修行をした時のシンガーソングライターのレナード・コーエンで、ずっとそのことが頭にあった、と語った監督のインタビューを見ていた。
それもあってか、禅の考え方や生き方にこれまで随時接してきた私にとっては特別に目新しさを感じるものではなかった。


映画を見た後に、途中までしか見ていなかったその平山についてのインタビューを今度は最後まで聞いた。それで、ちょっとびっくりしたのは、そこまで言っちゃうの?というくらい、ヴェンダース監督はこの平山という男の背景からどうしてこういう生活を送っているか、まで語っていた。


東洋思想がベースになっている日本の文化では、世阿弥の「秘すれば花なり」の言葉に代表されるように、大事なことは言わない方がいい、というところがある。
せっかく、ミニマリズム的に無駄を削ぎ落として作られた映画について、こんなに細かいところまで監督自ら解説を加えてしまったら、見る人の想像の余地がなくなっちゃうじゃないの、と、最初は思った。
こういうところがやっぱり西洋人のサガなのかなと。


でも、しばらく時間が経つにつれて少し考えが変わってきた。


なんと言っても物質的豊かさを追求し実現してきたのは西欧文化なのだ。


それに対して、東洋はどちらかと言えば遅れたところから追従してきたけれど、その背景には精神性を重んじてきた歴史があったと思う。


東洋には物質的豊かさが必ずしも人を幸せにはしない、という考えも根強く生きてきた。


私自身、ずっと西欧的物質中心の価値観には抵抗感を持って生きてきた。

成功とか、競争に勝つとか、そういうことはずっと自分には関係ない世界だった。

私が若い頃から好きだったのは、ネイティブアメリカンの生き方とか、禅僧の話とか・・・。


だから、このパーフェクトデイズで語ろうとしていることは別に解説がなくてもすんなりと受容できる、と思った。


でも、果たして、誰もがそうだろうか?・・・とも思い始めた。

私はたまたま、そういう物質中心のあり方から距離を置いて生きてるから、私にとってはわかりやすいものだったとしても、この平山という人の生き方自体はそれほど一般的なわけじゃない。


まさに、禅の修行をした人のような生き方になっている。

監督の解説によれば、色々人生を通ってきた結果にたどり着いたところ、ということみたいだ。

結果としてそうなったというのではなくて、自ら選び取ってその生き方をしている、ということ。


それがこのシンプルな日常。


それを提示したのがこの映画なんだと思う。


今の世界のほとんどの人はこういう生き方をしてはいない。


選べていても選べていなくても、こんなふうには生きていないだろう。


そういう世界に向けて、ヴェンダース監督はこの平山という人間の日常を提示したのだと思う。

何も奇抜なものはないけれど、映画として表現されたものはとても新しいものなんだ、と改めて思った。




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