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りゅうの正体 #虹のくじら

僕は恋人にフラれたばかりだった
失意のどん底 フラれた理由は
「あなたには色がない」
つまり自分がないということだった
そのとき目の前 上空に 竜があらわれた
相当参っているのかもしれない
竜は黙って手を下ろして僕をつかんだ
そのとき竜は色の集合体に変化した
「ワシの中のどれかの色になれ」
つかまれたまま僕は吐きそうになった
僕には色がないんだから
「無理だよ」
そう言うと 竜は吠えて 僕を放り投げた
あ、落ちる!
でも目を開けると僕は空に浮いていて
竜の色の中にいた
まわりをたくさんの色が駆け巡る
それぞれの色は 僕みたいに人間だった
迷える子を 拾っているのかな
でも きれいだな 色がある人はいいな
すると「あなたはオレンジよ」と
となりにいた青色の子がそう言った
「だって、ほら」
青色が風になびいて僕に重なる
その重なった部分が
巨峰みたいな色になった
「あれ?」
「ね、オレンジよ」
君がいてくれて 僕は自分に
色があることを知った
僕みたいにつまらない人間が
君にとっては
「ね、オレンジよ」
僕はどんどん嬉しくなって オレンジ色になった


『虹のくじら(美術出版社)』に収録されている内容です。

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