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山端かいぎ #虹のくじら

山はしゃべっている
まあるい山はとくにしゃべっている
それにとなりの山も加わって
うしろの山も加わって 井戸端かいぎ
井戸端かいぎは 井戸のまわりだから
山端かいぎ 山のまわりで山がしゃべる
「むかし むかし あるところに」
知ってる話をわあわあしゃべる
「あるところに おじいさんとおばあさんがおった」
昔の話を忘れないように山々はしゃべる
今日という日の山端かいぎを終えると
山と山は 遠くの空におじぎをする
すると夕日が沈むことになり
からすがかあと鳴いて
山と山のあいだに だいだいいろの夕日が
すっぽり挟まり 山々と
ハイタッチして通り抜けていく
それから山たちは
きちんと座りなおして正座をして
1日の終わりの歌を歌う
ものすごいパワーで歌う
歌声は太陽光線とともに四方八方伸びていき
はいフィナーレ
山フクロウが ほお と鳴いて
夜の部がはじまる
そんなことになっていたそうな
山越えの旅人が山の中で
小耳にはさんだ むかしばなし


『虹のくじら(美術出版社)』に収録されている内容です。


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